20 会議は踊るっていうより、おれが踊らされてるよ
改めて七名掛けの円卓に座ろうとして、おれは気になっていることを思い出した。
「そういえば、元子、あ、いえ、小柳補佐官が、おれのカラス天狗スーツにGPSだか盗聴器だかを仕込んである、と言ってましたけど」
荒川氏が、「おお、そんなことを言っておったのう」と頷いた。
「じゃが、正確には、わしの作ったスーツの方ではない。その下の、きみの私服の方じゃよ」
「はあ?」
おれは「ちょっと、失礼します」と断ってカラス天狗スーツを脱ぎ、ズボンやシャツのポケットを探ったが、小銭とクシャクシャのハンカチしか出てこない。
「いやいや、そんなところではない。確か、シャツの襟の裏側とのことじゃった」
「え?」
おれが両手でシャツの襟をめくると、ちょうど首の真後ろの裏側に、五百円玉ぐらいの丸いものが貼り付いている。
外してみると黒い円盤状の機械だった。
「ええっ、いつの間にこんなものを!」
「なんでも、中野くんの頭上を飛び越えた時に付けた、と言っておったよ」
……そうか、あの時だ。
宙港で元子が、小型恐竜のようなゴルゴラ星人に飛び蹴りをお見舞いした時だ。
うーん、それにしても、あの一瞬にこれを、しかも襟の裏側に付けたのか。
その状況を想像しておれはゾッとした。ちょうど頸椎の辺りじゃないか。元子が味方だから良かったが、もし、敵だったら、おれはすでに死んでいる。
もちろん、おれを護る必要からやったことだろうが、やり方が陰険すぎるじゃないか。
おれは、その機械を放り投げたくなったが、我慢してそっとテーブルの上に載せた。
それに向かって荒川氏が、「小柳補佐官、聞こえとるかの?」と尋ねると、「ピッ」と小さな音が鳴った。通話は一方通行のようだ。
「さてさて、役者が揃ったようじゃな。森の精霊も良いかの?」
《ずっと聞いている。話を進めてくれ。それから、たった今連絡が入った。チャッピーと名付けられた単体は、無事に一命を取り留めたそうだ。黒田どの、中野くん、感謝する》
おれは、激しく首を振った。
「いえ、お礼を言うのはおれの方です。チャッピーのおかげで命拾いしました。ありがとうございました」
その場で立ち上がって頭を下げた。
おれが座るのを待って、荒川氏が「まず、第九地区の難民キャンプのことを説明しておこうかの」と話し始めた。
「元々ドラードには、聖地である第一地区以外に、第二から第八までの七つの地区があり、それぞれをマムスターの長老が治めておった。ところが、異星と交流を始めるようになると、外交官や旅行客以外に、難民も流入して来るようになった。そこで、新しく第九地区を定め、難民キャンプを作ったんじゃ。ところが、中には難民とは名ばかりの、食い詰め者やならず者も混じっておった。それが、そもそも守旧派の反発の原因でもあったのじゃ。今でも、難民キャンプの周りを、反対派のマムスターたちがプラカードを持って交替で取り囲んでおるよ」
(念のため繰り返すが、マムスターとは、齧歯類から超進化した、モフモフたち現在のドラード人である)
黒田氏が首を捻り、「問題は、なぜ、そんな目立つ場所を選んだのか、だな」と自問した。
おれは自分の考えを披露した。もちろん、刑事ドラマの受け売りだ。
「やはり、そこはダミーで、本当の待ち合わせ場所は、後から知らせて来るんじゃないですか」
だが、黒田氏は首を振った。
「いや、遮蔽モードが使える宇宙船を持っている以上、その必要はない。むしろ、スターポールに強硬手段を取らせないための牽制だろうな」
元子の盗聴器が、また「ピッ」と鳴った。
荒川氏も同意した。
「そうじゃろうな。以前、小柳補佐官が話しておったが、宇宙海賊ロビンソン一味は、去年主要メンバーである村上一家が逮捕されて弱体化しておるから、新規メンバーが入るとは考えにくい。残っているメンバーとしては、ドクター三角以外では、雑用ロボットのプレミアムフライデーぐらいとのことじゃ。老人一人とロボット一体では、SWAT(=特殊部隊)に強行突破されればひとたまりもあるまい。ところが、すぐそばに難民キャンプがあれば、あまり乱暴なことはせんだろう、ということじゃな」
黒田氏も頷いた。
「うむ。中野くんが到着次第、トラクタービームで宇宙船の中に取り込んで、すぐに遮蔽モードで逃げるつもりだろう。となれば、むしろ、中野くんはワザと中に乗り込み、ドクター三角とプレミアムフライデーを倒して、シャロンと一緒に脱出してもらう、ということでいいんじゃないか」
おれは「ちょ、ちょっと、待ってください!」と、強引に話を進める二人を止めた。
「おれには荷が重すぎます。第一、なんの武器も持たずに、どうやって倒すんですか?」
すると、黒田氏がニヤリと笑い、「武器ならあるさ」と答えた。
「え? どんな武器ですか?」
「史上最強のJK、シャロンだよ」




