19 諺なんか、どっちでもいいよ
おれがわが身の不運を嘆いていると、「迷惑をかけてすまん」と詫びながら黒田氏が入って来た。
「あ、いえ、迷惑というわけでは」
「わがはいが代わりに行きたいくらいだが、そうもいくまい。それはともかく、こんなものが外に刺さっていたぞ」
黒田氏の手にしているのは、古風な矢であった。その鏃の根元に紙が結んである。
早速次の矢文が来たのだ。矢継ぎ早とはこのことだ。
荒川氏も「早いのう」と唸った。
「まるで、こちらの動きを読んでおるようじゃな。とにかく、場所を指定して来たんじゃろう。中野くん、開けてみてくれんかの」
「はい」
おれは黒田氏から矢を受け取ると、みんなに見えるようにテーブルに広げた。
【ドクター三角だ。場所を指示する。第九地区の難民キャンプの裏だ。必ず、中野一人で来い。ああ、もちろん、GPSも盗聴器もなしだぞ。少しでも不審な動きがあれば、娘の命はない。P.S.一挙両得より、一石二鳥の方がいいな。海賊の本家、イギリスの諺だからな】
「なんだよ、そんなのおれの勝手だろ! どっちの諺でもいいじゃん!」
だが、その瞬間、荒川氏はハッとしたように周囲を見回した。
「え? 荒川さん、どうしたんですか?」
おれの質問には答えず、荒川氏は人差し指を立てて自分の唇に当てた。黒田氏も黙って周囲を見回している。
一瞬目をつむって考えていた荒川氏は、パッと目を開き、ツカツカとメイメイに歩み寄ると、被っているベレー帽を摘まみ上げた。それを裏返すと、中から小さな機械を取り出した。
何か言おうとするメイメイに、唇に人差し指を当てたまま首を振り、その機械を持ったまま部屋の隅に行った。
荒川氏は、キンコロガシに巻物を奪われた金庫を開けると、機械をそっと置き、閉めた。
「ふーっ、底に穴は開いとるが、まあ、これで部屋の中の会話は聞こえんじゃろ」
メイメイがペコペコと何度も頭を下げた。
「すみません。まったく気がつきませんでした」
「仕方あるまい。観光案内をしておる途中、ベレー帽を脱いだ時に仕込まれたんじゃろう」
まるで名探偵のドラマを観るような展開に驚き、おれは荒川氏に訊いてみた。
「メイメイのベレー帽が怪しいって、どうしてわかったんですか?」
「うむ。そもそも、シャロンちゃんの誘拐のタイミングが良すぎた。あの時そばにおったのは、メイメイだけじゃ。しかも、先ほどのわしらの会話も聞かれとる。ギメガ星人の使っていた虫たちなら、この部屋の中はいないはずじゃ。となると、ほとんど服を着ないマムスターに盗聴器を仕掛ける場所は、他にないからのう」
「うーん、なるほど。でも、どうして金庫にしまったんですか?」
その質問には黒田氏が答えた。
「相手に、わがはいたちが気づいたと知られないためさ。できれば、ウソの情報を流して、こちらの動きをカムフラージュする。そうだろ、荒川?」
「そのとおりじゃ。じゃが、あまり沈黙が続くと怪しまれる。いいかの、今からわしが言うことは全部デタラメじゃぞ」
そう言うと、荒川氏は一旦金庫にしまった盗聴器を再びベレー帽に入れ、メイメイに被らせた。
荒川氏は片目をつむり、ペラペラと喋りだした。
「いくら考えても同じことじゃ。とにかく、シャロンちゃんの命が最優先じゃよ。誰もスターポールに連絡などしてはいかんぞ。巻物も別に惜しくはないわい。中野くん、すぐに指定の場所に行くんじゃ。もちろん、武器も通信機もすべて置いてのう」
おれは「かしこ、かしこまりました。すぐに参ります」と応えたが、自分でもイヤになるぐらい棒読みだった。
すると黒田氏が声を荒げ「いいか、中野くん! シャロンに万が一のことでもあったら、ただで済むと思うな! 学生だからといって、容赦はせんぞ!」と恫喝してきた。本気でコワイよ。
荒川氏はニヤリと笑って頷き、メイメイに「おまえさんは、もう戻りなさい。ツアーガイドの仕事があるじゃろう」と外を指した。
「はい。それでは、他のドラード人たちに異変を気づかれないよう、普通に仕事をいたします。姉さんも仕事に戻って」
「そうね。あとは中野さんにすべてお任せしますわ」
姉妹が出て行くと、黒田氏が慎重に扉を閉め、宣言した。
「さあ、作戦会議だ」




