1 国賓待遇って、どういうことだよ
惑星ドラードの政府から、貧乏学生のおれに往復チケット入りの招待状が届いた。国賓待遇でおれをドラードに迎えたいという。そんな大したことをした覚えはないのだが……。
ちょうど一年前のことである。
福引で宇宙旅行が当たったおれは、森の惑星ドラードへ行く十泊一日の弾丸ツアーに参加した。
偶然、ドラードの黄金を狙う宇宙海賊一味の陰謀に巻き込まれたものの、セレブな黒田夫妻や天狗さまこと荒川氏に助けられながら、海賊逮捕に協力した。
おれの活躍と言っても、先住民のオランチュラを助けたぐらいだが、オランチュラの正体は秘密のままだから、政府から大々的に称賛されるはずもない。
いったいどういうことだろうと招待状を読み返したおれは、思わず「えええええーっ!」と絶叫した。
差出人の名前が、【ドラード臨時政府大統領 モフモフ】となっていたのである。
モフモフといえば、ドラードでツアーガイドをしていた、あのモフモフしか思いつかない。彼女が大統領って、いったいどういうことだろう。
何はともあれ、おれは再びドラードに行くことにした。
今の時代、もちろん電話での星間通話は可能なのだが、何しろべらぼうに高い。ほんの数分の通話で、おれの一か月分のバイト代ぐらい吹っ飛んでしまう。折角無料で招待してくれたのだから、直接会った方が話は早い。
去年と同じく、バイト先のコンビニの店長にしばらく休ませて欲しいとお願いすると、またあっさり認めてくれた。文句を言う筋合いではないが、おれって、いてもいなくてもいいのだろうか。戻って来た時、おれの席があるかどうか心配だ。
それはさて置き、おれは着替えなど最低限必要なものだけ愛用のリュックに詰め込み、宙港に向かった。
宙港に入ると、以前にも増してロボットばかり目につく。それに、何故だかわからないが、ごつい格闘タイプが多く、なんだか物々しい。
おれは所定の検疫などを終え、手荷物検査場に入った。前回は安全カミソリを持っていたためここでトラブったが、今回は金属製品は一切持って来ていない。
検査係のロボットは、相変わらず耳障りな人工音声のままだった。
「オハヨウゴザイマス。ちけっとヲ拝見シマス。中野伸也サマ、男性、二十一歳、オ一人サマデゴ乗船デスネ。機内ニ持チ込マレル荷物ヲてーぶるノ上ニオ願イシマス」
「さあ、よく調べてくれ。小さなものも見落とすんじゃないぞ」
ロボットが荷物を調べ始めた途端、警報が鳴った。
ええっ、またかよ、と思ったが、警報はおれのはるか頭上からであった。耳が痛くなるような大音量で宙港中に響き渡り、続いて切迫した声の非常放送が入った。
《全保安要員に告ぐ! 全保安要員に告ぐ! 宙港内に指名手配中の凶暴なテロリストを発見! 直ちに確保せよ! 繰り返す、テロリストを確保せよ!》
なんて間が悪いんだろう。
おれは危険に巻き込まれないよう、身を隠す場所を探そうと周囲を見回して、ギョッとした。
数体の保安係ロボットが、おれ目がけて全速力で集まって来ているのだ。全員手に暴徒鎮圧用のでっかい麻痺銃を構えている。その銃口はすべておれに向けられていた。
とんでもない誤解が起きているようだ。
「無駄ナ抵抗ハスルナ! 大人シク投降セヨ!」
「わわわっ、なんか、なんかの、まち、間違いですよー!」
その時、おれの背後から、カギ爪の生えた爬虫類の腕のようなものが伸びてきた。これは何だと思う間もなく、鱗だらけのザラザラした筋肉質の腕が、ギューッとおれの首を絞め上げた。
「ウグッ、く、苦しい! 放してくれ!」
すると、おれの耳元に、生臭い息とともにスラング化した宇宙語で『静かにしやがれ!』という声が聞こえてきた。
さらに、声がしたのと反対側のコメカミの辺りには、銃口のようなものが押し付けられた。
『おれさまが無事に宙港から逃げるまで、おめえは人質だ!』
もうー、どうしていつもこうなるんだよー。誰か、助けてくれー!