18 誘拐犯の狙いは何だよ
おれも信じられなかった。あの生意気で格闘技マニアの天才JKが、そう易々と誘拐などされるだろうか。
だが、おれの迷いや不安はカラス天狗スーツの「2分経過しました。そろそろ危険です」という警告によって吹っ切れた。
急いでヘルメットを装着すると、今度はおれが黒田氏の肩を掴んだ。
「とにかく戻りましょう。どういう状況なのかわからないと、対策も立てられません」
黒田氏も自分に言い聞かせるように、「うむ」と頷き、立ち上がって飛行態勢をとった。
「わがはいのハングライダーより、きみのスーツの方が速い。構わず、先に行ってくれ」
「わかりました。向こうでお会いしましょう」
おれはスーツに「できるだけ急いでグリーンハウスに戻れ」と命じた。
見つかる心配がないからか、スーツは真っ直ぐ上昇して森の上空に出ると、そのまま水平飛行に移った。
これは車の運転でもそうだが、人間の目というのは単純な直線運動だと、すぐに速さに慣れてしまう。来る時には耐え難い速度だと思ったのに、案外平気だ。
おれの落ち着きが気に入らないのか、スーツが「退屈でしたら、少しアクロバット飛行をしましょうか?」と訊いてきた。
「そんな場合かよ。それに退屈はしてないさ」
おれは考えていたのだ。
シャロンを誘拐したのは、ギメガ星人の仲間だろうか。いや、あの元子が、そんな迂闊なことをするはずがない。スターポールの仲間に連絡を取り、一網打尽にしたはずだ。
となると、第三勢力か。
答えが出ないまま、グリーンハウスに到着した。
おれはヘルメットを外して脇に抱え、モフモフの使っている大広間に入った。
誰もいない。
さらに進んで荒川氏の部屋の前まで行くと、「申し訳ありません。わたくしの責任です」という声が聞こえた。メイメイのようだ。
おれは軽くノックし、「中野です。今、戻りました」と告げた。
ドア越しに荒川氏の返事が聞こえて来た。
「おお、開いとるよ。入ってくれたまえ」
「失礼します」
入るなり目に飛び込んで来たのは、荒川氏の前で項垂れるドラード人姉妹の姿だった。メイメイはともかく、大統領であるはずのモフモフまで、先生に叱られる生徒のように頭を下げている。
「いえ、大統領であるわたくしの責任です」
「いや、責任というなら、わしが一番じゃ。しかし、今はそのようなことを言っておる場合ではない。中野くんも戻ったし、黒田も追っ付け来るじゃろう。ともかく、対策を練らねばならん。とりあえず、みんな席に着いてくれ」
おれも、例の七名掛けの丸テーブルの空いているところにに座った。
正面のホワイトボードに便箋のような紙が貼り付けてあり、どうやらそれが誘拐犯からのもののようだ。文面は日本語だった。
【シャロンとかいう娘を預かった。無事に返して欲しくば、古代の巻物を持って一人で来い。場所は追って指示する。尚、スターポールなどに知らせれば、娘の命はないものと思え。P.S.巻物を持ってくるのは、あの何とかという日本人の大学生がいいと思うぞ】
差出人は、【ドクター三角】となっている。元子が言っていた、おれを狙っているとかいう宇宙海賊の残党だ。に、しても、おれを指名するならするで、名前ぐらい知っとけよ。
「おれにもいろいろ言いたいことはありますが、それはさて置き、どうやって誘拐されたんですか?」
メイメイが小さく手を挙げ、「わたくしからご説明いたします」と申し出た。
「中野さまが飛び出された後、小柳補佐官もすぐにご自身のエアバイクで追いかけられました。残されたシャロンさまは『退屈だから、館内を見学したい』とおっしゃり、わたくしが案内役を務めることになりました。ところが、天狗さま、あ、いえ、顧問の発明品を保管している部屋に入るなり、予備のハングライダーを奪って飛んで行かれたのです」
今度はモフモフが手を挙げた。こんな際だが、学校かよ、と突っ込みたくなる。
「わたくしはちょうど外にいたのですが、ハングライダーを装着したシャロンさまが飛び出してこられたので、『危ないですから、お戻りください』と呼びかけました。ところが、その時突然現れた円盤型宇宙船から牽引光線のようなものが発射され、拉致されてしまったのです」
「うむ。どうやら遮蔽モードで機会を窺っておったようじゃ」
ちなみに、遮蔽モード、またはクローキングモードとは、光学迷彩より一歩進んだ技術で、光や赤外線だけではなく、レーダーにも探知されないそうだ。
「その後、この手紙が矢文で送られて来たんじゃ」
え? なんで矢文? なんでそこだけ原始的? と突っ込みたくなったが、我慢した。たぶん、それが海賊の流儀というものなのだろう。
「事情はわかりました。まあ、シャロンの身から出た錆ですが、助けてあげましょう。でも、何が相手の狙いか、ちょっとわかって来ましたね。だって、シャロンと巻物は、盾と矛、じゃないな、割れ鍋に綴じ蓋、でもないな」
《それを言うなら、『車の両輪』だろう、地球人の若者よ》
また森の精霊の存在を忘れていたので、「わっ」と叫んでしまった。
「ふう、失礼しました。それですね。両方が必要なはずです。しかも、おれに持って来いということは、おれを亡き者にして巻物を奪えば、一挙両得、いや、三得じゃないですか。え? えええええーっ! イヤだ、そんな諺はイヤだ!」




