16 やっぱり、そうなるのかよ
ばあちゃん、食べ物を粗末にしてゴメンよ。
心の中で謝ると、おれは腰に巻いている食用ドングリの入った袋を外し、中身を空になったマシンガンの弾倉にブチ込んだ。
「これでも、喰らえええええーっ!」
おれはフルオートでドングリの弾丸をギメガ星人に向けて撃ちまくった。
ドドドドッ、ドドドドッ、ドドドドッ、と先ほどのコルクとはまったく違う銃声が響き、ギメガ星人がジリジリと後退して行く。
だが、硬いキチン質の外骨格はビクともせず、ドングリを次々に跳ね返して、傷ひとつ付かない。
手持ちのドングリを撃ち尽くしても、ようやく数メートル後退させただけだった。
「ほう。それで終わりか? つくづくバカな地球人だな。わたしの武器が毒針だけと思ったのかね。いっそ、毒針で殺された方が良かったと、後悔することになるぞ!」
ギメガ星人は「GG▽▲◎■◇KKKKー!」というような耳障りな声を発しながら、ギザギザの大アゴをグワッと横に開いた。すると、その奥にもう一回り小さなアゴが、さらにその奥にもっと小さなアゴが出現した。
そのまま背中の羽根を開き、まさにおれに向かって飛びかかろうとした刹那、見えない何かに背後から捕まえられたように、ギメガ星人は前に進めなくなった。
「GGGグアーッ、な、何者だ!」
と、その背後から、聞き覚えのある声がした。
「お生憎さま。スターポールのハイパースーツは、ちゃんと赤外線にも対応した光学迷彩を使っているのよ。観念しなさい」
おれが呆然と「元子?」と呟くのと同時にブーンという音がし、ギメガ星人を後ろから羽交い絞めにしている人物の姿が見えた。黒レザーのツナギに身を包んでいる。フルフェイスヘルメットで顔が見えないが、間違いなく元子だ。
元子は強引に相手を捻じ伏せると、ギメガ星人用らしい、前脚と羽根を同時に拘束する手錠を掛け、毒針を出す中間の脚の先にキャップのようなものを被せた。
「10時ゼロ7分、確保!」
だが、元子が離れると、ギメガ星人はすぐに上体を起こし、文句を言った。
「ふ、ふざけるな! わたしは外交官だぞ! こんなことをして、タダで済むと思うなよ!」
元子は、フンと鼻で笑った。
「残念でした。そこの坊やのハイパースーツには、念のためGPSと盗聴器が仕込んであったの。あんたがさっき喋ったことは、すべて録音されてるわ。外交官特権どころか、星連憲章違反で、徹底的にあんたたちのやったことを調べ上げるわ。覚悟しなさい」
ギメガ星人は、面白いほど動揺した。
「あ、いや、それは違う。われわれは、この惑星の未来のために、少々荒療治をしただけだ。むしろ、感謝して欲しいぐらいだ」
「まあ、ホントにそうよね。あんたにちゃんと感謝しなくちゃ」ウフフと笑い声がし、「これは利用された挙句、食べられちゃったハニワームの分!」
言うなり、元子は右のフックでボカッと相手の顔面を殴った。
「グエッ!」
「次は、盗みの手伝いをさせられた上に殺された、キンコロガシの分!」
左のアッパーで、ガチンと相手のアゴの下から突き上げた。
「ギャオ!」
「最後は、毒針を刺されちゃった、可哀想なチャッピーちゃんの分!」
右の前蹴りで、思い切りドカッと蹴り倒した。
「グオーッ!」
さすがのギメガ星人も気絶してしまったようだ。
元子は清々したように叫んだ。
「思い知ったか、この腐れ外道!」
大きく息を吐き、倒れているギメガ星人の前脚から巻物を取り上げると、元子はそのままおれに渡した。
「大事な証拠品よ。失くさないでね」
「あ、ああ」
それ以上の言葉は出なかった。
元子は気にせず、ギメガ星人の襟首の辺りを掴んだ。
「さあ、立つのよ。おまえをパトロール船まで連行するわ」
気絶したギメガ星人を、腕一本で引きずって行った。
一応、危機は去ったわけだが、おれの心は晴れなかった。怒りが消えた代わりに、悲しみだけが残った。
俯いたまま、おれを守るため自分を犠牲にしたチャッピーのそばに行った。
チャッピーは倒れた時のままの状態で横たわっている。黒っぽい体毛の中に、オレンジ色の毒針が突き刺さっていた。
「ゴメンよ。あんな別れ方をしてしまって、仲直りもできないままで……」
おれは溢れて来る涙を止めることができなかった。
せめて、刺さっている毒針を取ってやろうと手を伸ばした、その時。
「いかーん! それに触っては、いかんぞーっ!」
上の方から、懐かしい声が聞こえて来た。
「……え? この声は、まさか、黒田さん?」




