14 絶叫マシンの方が、まだマシだよ
カラス天狗スーツは、グリーンシャトー、いや、グリーンハウスを飛び出すと、いきなり補助ジェット全開で、真っ青な空を目がけて急上昇した。
「ひええええ~っ!」
おれがチラっと下を見ると、巨木が大きめのブロッコリーぐらいで、建物の外にいるドラード人が芥子粒ぐらいになっている。
「おいっ! おいっ! 高度を下げろ!」
「了解いたしました。自由落下します」
スーツは突然ジェットを止めた。
当然のことだが、おれの体は真っ逆さまに落ちて行く。
「わあああああーっ!」
「ウイングを開き、滑空に移ります」
おれの背中に折り畳まれていた、コウモリのような羽根が、バッと開いた。同時に、ガクンと落下スピードが減速し、徐々に垂直から水平に進行方向を変えながら飛んで行く。それでも、まだかなりのスピードである。
「少しは手加減しろ! おれを殺す気か!」
「緊急事態ですので、ご容赦ください」
言葉遣いは丁寧だが、飛行の仕方は全然容赦がない。
ほぼ水平飛行に移ったところで、またジェットを吹かし始めた。そのまま森の上空を行くのかと思っていたら、どんどん下降している。
「おい、いくらなんでも、もう少し高度を上げた方がいいんじゃないか。あんまり下がると、木にぶつかるぞ」
「ご心配なく。ちゃんと回避します」
「え、回避って?」
その意味はすぐにわかった。そのまま上空から森に侵入し、巨木の間をジグザグに蛇行し始めたのだ。
木といっても、大きさは地球でいえば超高層ビルのサイズである。それが目の前にグングン迫り、正面衝突寸前で、ひらりとカーブして避けて行く。すると、すぐ次の巨木が目前に現れ、また、ひらり。またまた、ひらり。
「ちょ、ちょ、ちょっと、待てよー! わっ! ひっ! ぶつかる! うーわっ! おまえは暴走族かーっ! スピードを落とせーっ!」
「ご心配なく。安全には充分配慮して飛行しております」
おれの絶叫など、どこ吹く風。スーツが減速し始めたのは、さらに数分後だった。
「間もなく目的地周辺です。飛行お疲れさまでした。これより先、光学迷彩をオンにし、ステルスモードにすることを強くお薦めします」
叫び疲れたおれは、ガラガラに掠れた声で「オンにしろ」とだけ告げた。
「了解いたしました。尚、お背中のマシンガンとお腰の食料を隠すためウイングでカバーしますので、飛行は補助ジェットのみで行います」
「もう、好きにしてくれ」
ブーンという音がし、一瞬、目の前がチカチカしたが、実感としてはほとんどわからない。
念のため自分の手を見ると、完全に透き通っていた。大したものだ。
「一応ご注意申し上げますが、ステルスモード中も当然音声はカットされませんので、大声は出されないようお願いします。それでは、地上近くまで下降いたします」
随分下に降りたつもりだったのに、地上はさらに遠かった。
太陽の光が徐々に薄れ、昼なお暗い、という感じである。湿度も温度も上がってきている気がする。
ガスマスクのせいで実感としてわからないが、おそらく酸素濃度も高まっているのだろう。
途中、周囲の巨木に鳥の巣箱のようなものがズラリと並んでいるところがあった。これがハニワーム牧場なのだろう。ただし、ハニワームは出払っているらしく、近くには一匹もいない。
やがて、視界の下の方に、毒々しい原色の模様が見えてきた。
「拡張現実表示をオンにしろ」
「了解いたしました」
おれは再び地上を見下ろした。原色の模様は、びっしりと密集したキノコであった。
【マンドラ:ギメガ星人が主食とする毒キノコ。非常に繁殖力が強く、特定外来宇宙生物に指定されている。昆虫系の生物には麻薬として働くが、哺乳類や爬虫類には猛毒】
マンドラの上を忙しく行き来するキンコロガシも見えてきた。
【キンコロガシ:正式名称はスカベーラ。地球でいう甲虫類にあたる。エサは樹液。習性として金をゴルフボールぐらいのサイズにカットし、樹上に運び上げる】
そのキンコロガシが、マンドラの上をフラフラと酔ったように歩き回っている。金を運んでいるものもいるが、以前見たようにきれいなピラミッド型には積めないらしく、雑然と集めているだけのようだ。
その中の一匹が、明らかに形の異なる金塊を運んでいた。いや、金塊というより、金の筒だ。あれこそ、古代の巻物だろう。
「よし、そっとあいつに接近しろ」
「残念ですが、敵が先に到着したようです」
「え?」
おれが前方に目をやると、黒とオレンジのツートンカラーの巨大なスズメバチのような生物が一匹、こちらに向かって猛スピードで飛んで来ていた。
【ギメガ星人:最も進化した昆虫系宇宙人。身長は二メートル前後。知能は高いが、極めて残虐】
そいつは、真っ直ぐ巻物を持ったキンコロガシの近くに着地すると、人間の手に近い形の前脚で巻物を取り上げ、あろうことか、太い後ろ脚でそのキンコロガシを踏み潰そうとしている。
おれは思わず叫んでいた。
「やめろーっ!」




