13 拡張現実なんて、いらないよ
《地球人の若者よ、案ずることはない。われらが全面的にバックアップする》
森の精霊の言葉に救われたように、荒川氏は「そうじゃとも」と請け合った。
「そもそも、シャロンちゃん以外に、きみも国賓として迎えたいと言い出したのは、森の精霊なんじゃ。期待されておるんじゃのう」
やっぱりおれはシャロンのオマケかよ、と僻み根性が頭をもたげたが、森の精霊はそれを否定した。
《誤解のないように言っておくが、黒田嬢のついでというわけではない。われらは、きみがチャッピーと名付けてくれた単体を含め、きみの友人だ。お互いに助け合うべきだと思っている》
そんなこと言われたら、断れないよなあ。
「うーん、わかりました。とにかく時間がありません。荒川さん、操作方法を教えてください」
荒川氏は、ホッとしたように顔をほころばせた。
「おお、ありがとう。引き受けてくれるか。なあに、難しいことはない。前回わしのハングライダーを使ってもらった時、声紋を登録した。すでに、きみの声に反応するようにセットしてある。試しに、『カラス天狗スーツ、装着』と言ってみてくれたまえ」
「はあ。では、カラス天狗スーツ、装着!」
荒川氏の手の中のスーツがパッといくつかのパーツに別れ、おれ目掛けて飛んで来た。
「わわわっ!」
最初に羽根付きのボディがおれの胴体を包み、補助ジェットで体を少し浮かせた。その状態で、両手に長手袋、両足にブーツ、最後にフルフェイスヘルメットがスポッと上から被さった。
すぐに耳元で「装着完了いたしました」と渋い男性の声がした。前回のものより、ずいぶん進化しているようだ。
ヘルメットのゴーグルの内側に【拡張現実表示オン】と文字が浮かび、目に見えるものの説明が映し出された。
【荒川清秀六十六歳。元惑星開発局員。現在はドラード臨時政府の大統領顧問として、実質的に政府を取り仕切っている】
へえ、製作者にも忖度しないところが面白い。
おれは、シャロンを見てみた。
【黒田シャロン十七歳。天才児ばかりが通うインターステラハイスクールの二年生。抜群のスタイルで、前年度のミスハイスクールに選ばれる。しかも、地球はおろか星連加盟惑星のほとんどの固有言語を理解する語学の超天才。趣味は暗号解読と格闘技。祖父は黒田星商創業者の惣一郎。祖母は元政経塾塾長の絹代。ただし、一時期、父の章太郎が惣一郎に勘当されていたため、シャロンの学費などは母ナオミの実家であるダヴィード財閥が密かに援助していた】
どんだけセレブなんだよ。
おれは自分の体を見てみた。
【中野伸也二十一歳。某大学三年。特記すべきことなし】
「もう、いい! 拡張現実オフ!」
「了解いたしました」
シャロンが訝しそうに、「何よ」と言った。
「人のことジロジロ見て、ブツブツ言ってさ。透視カメラでも付いてるんじゃないでしょうね?」
付いてても見るかーい、と言い返そうとした時、森の精霊の声がした。
《例のキンコロガシを発見した。隣の第六地区の旧ハニワーム牧場に入って行った。ギメガ星人の作った施設があるようだ》
「おお、それは吉報じゃ! 大使館に入られたら、万事休すと思っておった。外交官特権があるからの。よし、では、中野くん、頼んだぞ。たいていのことは、スーツが勝手にやってくれるはずじゃ。念のため、これも渡しておこう」
そう言うと、荒川氏は小型マシンガンのようなものを出して来た。
「あ、いえ、おれは、こういうのはゲームでしかやったことなくて……」
断ろうとすると、荒川氏は笑いながら片目をつむってみせた。
「心配せんでいい。弾はコルクのオモチャじゃよ。威嚇にはなるじゃろう。それから、スーツは重量を軽くするため、ギリギリの薄さで作ってある。木の枝や棘に引っ掛けんよう、注意してくれたまえ。おお、そうじゃ、長くはかからんと思うが、これも渡しておくかの」
葉っぱを編んだ袋にぎっしり詰まったドングリを渡された。一応、炒ってあるので、そのまま食べられるそうだ。それを腰に巻き、マシンガンはベルトを肩に斜めに掛けて背負った。
なんだか、アクション映画のヒーローになったみたいだ。気持ちが高揚して来たぞ。
「いいかの、くれぐれもムチャをせんように。気をつけて行くんじゃぞ」
「わかりました。あとは、『発射』って言えば、あっ!」
また飛び出すのではないかと身構えたが、さすがに、進化している。ちゃんと聞き返して来た。
「発射してよろしいですか?」
「あ、ああ」
次の瞬間、バーンと体ごとドアにぶつかって押し開け、次のドアもまたぶつかって押し開けて、気がつくとおれは空中に飛び出していた。
「ちっとも、進化してないよ~!」




