12 おれの出番って、どういう意味だよ
《天狗どの、もしや巻物を盗られたのか?》
叫び声で状況を察した森の精霊の問いかけに、荒川氏は力なく「すまん」と答えた。
「キンコロガシが金を噛み砕いて運ぶことを知っておりながら、こういう事態を想定しておらなんだ、わしの責任じゃ」
すると、シャロンが地団駄を踏んだ。
「ちょっと、荒川のおじさま、落ち込んでる場合じゃないでしょ! 早く追いかけなきゃ!」
「おお、そうじゃった。すまんが、森の精霊よ、追ってくれぬか?」
《すぐに、近くにいる個体に追跡させよう。しかし、天狗どのも知っているように、われらには一切攻撃能力がない。自ら捨てたからな。巻物の行方は追うが、回収はできぬぞ》
「うむ、わかっておる。それはこちらで何とかするつもりじゃ」
そう言うと、荒川氏は呆然としているおれの方に向き直った。
「見ての通りじゃ。もっと後で説明するつもりじゃったが、やむを得ん。中野くん、今こそきみの出番じゃ」
「はあ?」
あまりの急展開におれが言葉を失っていると、荒川氏は「ちょっと、待っておってくれ」と言って、ホワイトボードの後ろに回った。
荒川氏は、両手で何かを抱えるようにして出て来たが、そこには何もなかった。
「中野くん、これを着てくれたまえ」
「え? こんな非常事態の時に、冗談はやめてくださいよ」
横にいたシャロンが、荒川氏の手元を覗き込んだ。
「あら、あたしには見えるわよ。たぶん、ある程度の知能指数がないと、見えないんじゃないの」
おれは裸の王様か!
荒川氏もさすがに苦笑した。
「これこれ、大人をからかうもんじゃない。これはわしの作った現代版『天狗の隠れ蓑』じゃよ。要するに、光学迷彩式ハイパースーツじゃ。資金は、黒田に出してもろうた。ちょっと待ってくれ、今、スイッチを切るでの」
カチリと音がし、荒川氏の両手の上に黒っぽい衣装のようなものが現れた。
「素材はもちろん、強化プラスチックじゃ。一応、わしの好みで、カラス天狗を模しておる。フルフェイスヘルメットの口元が尖っておるのはガスマスクじゃ。有害な物質を遮るのと同時に、自動的に酸素濃度を調整する。羽根はカラスというよりコウモリに近いが、わしのハングライダーよりはスピードも出るよ」
また、イヤな予感がして来た。
「ちょ、ちょっと、待ってください。いったい、どういうことですか? いきなり、おれの出番だとか、カラス天狗だとか」
「おお、そうじゃった。話が前後してしもうたの。中野くん、きみをドラード臨時政府の特別暫定保安官補佐見習いに任命する。よろしく頼むぞ」
「なんなんですか、その、いかにも未熟者みたいな扱いは。イヤですよ。おれには、そんなことを引き受ける義理も人情もありません!」
「あらあら」そう言ってシャロンはニヤニヤ笑った。
「噂どおりのチキンね。おじさま、こんな弱虫に頼むことないわ。あたしが、このカラス天狗スーツを着て巻物を取り返しに行くからさ」
なんだよ。そんなこと言われたら、おれの面目丸潰れだよ。
荒川氏も首を振った。
「いや、か弱い女の子に、こんな危険なことは頼めんよ」
そうだそうだって、えっ、そんな危険な任務なの?
「いいえ、あたしは、か弱くなんかないわよ!」
言いざま、シャロンの右のハイキックがおれの顔面を襲った。
「うわっ」
間一髪、おれは上体を反らして避けた。
が、ペタンコの靴の爪先がおれの鼻先を掠める際、水色のフワッとしたワンピースの奥に、チラリと白いものが見えた。
「危ないじゃないか。それに、そのー、見えちゃったぞ」
「ふん、パンチラぐらいで喜ばないでよ」
「誰が喜ぶかよ!」
睨み合うおれとシャロンの間に、荒川氏が割って入った。
「やめるんじゃ、今はそのような場合ではない。もちろん、シャロンちゃんが黒田に古武術を習ったのも聞いておる。しかし、ギメガ星人も、巻物の解読に専門家が必要なのは承知しておるはずじゃ。逆に、誘拐されては一大事じゃ。ここは、中野くんに頼むしかない」
荒川氏は、改めておれに向かって頭を下げた。
「頼む。引き受けてくれ、中野くん」
「……」
なんだよー、おれは誘拐されてもいいのかよー。




