11 どこまで悪いやつらなんだよ
「わしが迂闊であった。後で調べてみたところ、マンドラという毒キノコは特定外来宇宙生物に指定されていて、惑星を統括する政府の許可がないと持ち込めないんじゃ。まんまと騙されたよ」
荒川氏が後悔を滲ませた。
おれは、マンドラという言葉に聞き覚えがあるなと考えていたが、ようやく思い出した。
「そういえば、黒田さんに初めてお会いした時、猛毒だと聞いた気がします。それに比べれば、ドングリは地球人向きの食べ物だと」
「うむ。確かにマンドラは、わしらのような哺乳類には猛毒なんじゃが、虫たちにとっては、ある種の麻薬のような働きをするらしい。ギメガ星人はそうやって虫たちを手なずけ、自分たちの手足として使っているんじゃ。そのため、中野くんはもう気がついたと思うが」
そう言うと、荒川氏は今おれたちのいる部屋を示した。
「この部屋は、わしが命じて完全に密閉状態にした。わしらの内部情報が、あまりにも連中に漏れるので、おかしいと思って調べたところ、あちこちに虫のスパイがいたんじゃ。きみたちにも気をつけて欲しいんじゃが、この部屋を一歩でも出たら、会話はすべて盗聴されていると思った方がいい」
改めて周辺を見回すおれを見て、シャロンが鼻で笑った。
「今、荒川のおじさまがこの部屋は密閉した、って言ったじゃん。記憶喪失なの?」
「わ、わかってるさ。一応、念のためだ」
最初からそうだが、どうしてこのJKは、おれにだけキツく当たるのだろう。
気の毒に思ったのか、荒川氏はおれの味方をしてくれた。
「むろん、用心するに越したことはないわい。ギメガ星人は油断のならん相手じゃからな。それに、最初は虫たちだけの独立を狙っておるのかと思ったが、最近では、ドラードそのものの乗っ取りを画策しておるようなんじゃ」
「そんなことが可能なんですか?」
「うむ。マムスターやオランチュラと統一政府を作ろうと言って来おった。じゃが、そうなると、圧倒的に虫たちの方が数が多い。多数決となれば、向こうの思いどおりじゃ」
シャロンが「ねえねえ、荒川のおじさま」と割り込んできた。
「なんか対抗する方法ってないの? 例えば、ドバッと上空から殺虫剤を撒いちゃうとかさ」
「いかんいかん、そんなことをしたら、それこそ動物虐待じゃ。わしらの方が非合法勢力と見做されてしまう。今、絹代さんが星連司法裁判所に提訴する準備をしておるところじゃ。ギメガ星人が麻薬を使って不当に虫たちを支配しておる、とな。それより、実は起死回生の方法があるかもしれんのじゃ。それこそ、シャロンちゃん、きみを呼んだ理由じゃよ」
やっぱり本当の国賓はシャロンかよ、と思ったものの、その方法というのは知りたかった。
「ああ、古代の巻物のことね。でも、本当にあたしに読めるかどうかわからないし、読めたとしても、実際に役に立つものかもわからないんでしょ?」
なんだなんだ。おれの知らないことを、シャロンはみんな聞いてるのか。じゃあ、おれは何のために呼ばれたんだよ。
ちなみに、巻物といってもお寿司じゃないことは、おれにもわかった。何か書いてあるものらしい。
「うむ。いずれにせよ、一刻も早く現物を見てもらった方がええじゃろ。解読には時間がかかるじゃろうし、当分の間、この部屋はシャロンちゃんに自由に使ってもらうつもりじゃ」
荒川氏は立ち上がり、森の精霊と反対側の、部屋の右側に歩いた。そこには、オランチュラの糸を密に編んだ分厚い布が被せられた四角いものがあった。
荒川氏がその布を外すと、黄金色に輝く四角い箱が現れた。
これぞ、文字どおりの【金庫】だ。
「本当はもっと強度のある素材を使いたいんじゃが、何しろ金は重いから、盗難防止にはなるからの。安全のため、巻物はこの中に保管しておるんじゃよ」
荒川氏はダイヤルを何度か左右に回し、カチリと小さな音がしたところで手を止め、レバーを回しながら金庫の扉を開いた。
「あああーっ!」
いきなり荒川氏が叫んだので、おれが後ろから覗き込んでみると、今まさに、金庫の底にポッカリ開いた穴へキンコロガシが逃げて行く瞬間であった。もちろん、金庫の中に保管してあったという、その古代の巻物とかいうものはなくなっていた。




