プロローグ
西暦2X28年、世界はエネルギー資源を争う大規模戦争により二分化してしまった。
終戦から30年後、俺は平和な日々を過ごしていた。普通に学校に通い、夢も無ければ夢中になる物もなく、平凡な毎日だったんだ、あの日までは。屋上で会った君はとてつもなく変人奇人で、俺はそんな君の"共有者"になった。
とある歴史学者によるとこの地球では約100年単位で大規模な戦争が繰り返されていると言う。それは歴史的観点から統計として出された結果でもある。しかしその統計を裏切るかのように第二次世界大戦後100年以上長らく大戦争は起きず、世界は均衡を保っていたのだった。
しかし、人間が増え続けるのと比例するように資源は減り続け、需要と供給を成り立たせるのが厳しくなる一方で、エネルギー源とする資源の競争率は上がり、ついに長く保たれていた平和は崩れ、エネルギー資源獲得のための大戦争が世界中で起こってしまった。それが今からちょうど50年前、西暦で言う2X28年の話である。エネルギー戦争は3年程で殆ど鎮火したが、世界は二つに大きく分裂してしまった。一つはエネルギー資源を同盟国同士で輸出入により共有していくシステムで、もう一つはエネルギー開発の情報共有や研究の協力をしながら自国で生成したエネルギーのみを使うシステムの二つである。我が国は前者のシステムに同意したが、アジア圏では後者の賛同国が多く、周辺国から孤立に至る状態になってしまった。さらに、世界の二分化後、お互いの国同士の共有を禁止としてしまった。共有派と自生派との国境には高い壁が建てられ、互いの国の事を"壁の向こうの国"と指すようになった。派閥の違う国へとの移動や侵入はもちろん、教育や文化、言語においても壁の向こうの国のものを使ったり、教わったり、話したりする事を禁じられた。こして世界は大きく二つの括りに分けられ、沢山の拘束と規制が生まれてしまいました。しかし、括りの中では拘束や規制の柵を考えなければ、人はまた平和に過ごせる日々が続いていたのでした。だいたい30年も平和が続けば人は恐ろしい戦争の日々のことも記憶として薄れ始め、風化してしまうものである。平和な日々に慣れ、この二分化した世界の異常さに違和感を感じることもなくなってきてしまっている。
これはそんな時代に起きる少年少女達の話である。
――西暦2X78年 日本国 都内某所
目の前にはここら一体の景色が広がっている。ビルやマンションが立ち並び、そこを這うように通う道には人々がアリのように動くのが見えた。柵に肘をかけ背もたれにして寄りかかると、今度は視界が青色で埋まった。いつもよりも空が近くにある。この気体の層の奥には、キラキラと宝石のように輝く星が散りばめられる宇宙が果てしなく存在しているはずなのに、全く信じられない鮮やかさだ。地上より少し高い位置なせいもあって風が時より、ひゅうっと言いながら強く吹くいては僕の頰や髪を撫でていった。
がちゃり、と音がしたので、その音のした方に目を向けると、唯一ある扉が開いた。
「はあ、もう、あなたは目を離したら直ぐにどこかにいなくなるその癖やめて頂けませんか。毎度急いで探すこっちの身も考えて貰いたいものです。一体屋上なんかで何をされているんですか」
「あーごめんごめん、だってこのご時世どこ行っても禁煙主義なもんだから屋上ならいいかなと!」
「何を仰ってるんですか、あなたは煙草吸われませんよね。言い訳ばっかり垂らさないでさっさと行きますよ。今日もスケジュールは分刻みでびっしりとうまってるんですから」
彼ははぁ、と溜息を吐きながら自分の方に歩いて来た。
「えーだからこそ束の間の息抜きなんじゃないか!このビルの屋上周りより高くて見晴らしいいんだよー」
「はあ…本当…勘弁して下さい……全く…3分です。きっちり3分計らせて頂きますからね」
口は少しキツイことを言いつつ、いつも何だかんだ僕の我儘に妥協して付いてくれるから、本当にいいやつに出会えたもんだ、とつくづく思う。
眉間に皺を寄せて半ば呆れた顔でこちらを見ているので、彼が前に眉間の皺を気にして必死に皺を伸ばしていた所を見つけたのを思い出し、流石に少し悪い気もした。
「えー3分だけかい。…まあ、3分もあったらヒーローだって悪い怪獣も倒せるくらいだし、貴重なものかあ」
「……はあ…ヒーロー…?何を意味わからないことを言ってるのですか?」
「え、知らない?他の星から地球を守るためにやって来たヒーローは3分しか地球に入れなくて、3分で地球で暴れる悪い怪獣を倒すっていうヒーロー物語。昔の子供向けテレビ番組らしくて、息子のヒーロー図鑑に載ってたんだよ」
「あいにくヒーローなどの話には今も昔も興味が無かったので存じませんね」
「はは、そんな感じするよ。俺は小さい頃より大きくなってからの方がヒーローに興味出て来たかもなー」
「…はあ、まあ、プライベートな趣味に関しては口を出しませんが、あまり度がすぎる行動は控えて頂きたいです」
「はは、そう、あんまり引かないでくれよ。でも3分で地球の平和守って、そのまますぐに自分の星に帰っちゃうんだとしたら薄情なヒーローだよなー、お礼だって言えないし、何かしてあげようにも何も出来ないってことだね」
「はあ…まあ、地球の平和を守るために遠い星からわざわざ来て訳ですし、義務を達成したら帰るのは普通なんじゃないんですか」
「義務か、違う星の平和の為に命懸けで闘うのが義務なんて、そのヒーローは幸せなのかな」
「知りませんよ、そんなの、所詮子供向けの番組なんですからヒーローも地球の人間もみんな幸せ、でいいんじゃないんですか。一体どうかしたんですか、さっきからヒーローヒーローって、変な話ばかり」
「んーなんだろ、屋上にいるからかなー、屋上で空見てると、つい色々思い出しちゃうんだよねー。俺が会ったヒーロー達の話とかをさ」
「それも昔話ですか…?物思いに更けられるのも良いですけど、あなただってこれからヒーローになられるお方なのですから、その自覚を持った行動をお願いしたいものです。そして3分経ったのでもう行きますよ、未来のヒーロー様」
「えーなんだよその呼び名。ちょっとださくない?」
「っ!い、いいですから行きますよ!」
「はいはい」
僕は度々思い出すんだ。あの日々のことを。思い出す度に問うてるよ、僕はあの時何をすべきだったのかと。そして、これから僕がすべきことはなんなのかと。未だに納得の行く答えは出てないからこうしてたまに思い出しては考えてるんだ。
20年前、僕のこの小さな世界をどん底に突き落としてった救世主達の話を。