7 僕と姉さんと女装
「あら~、たっくんが私の部屋に来るなんてどうかしたの?」
のんびりとそう言って僕を抱き締めたのは僕の姉である鈴木茜だ。
ほわほわしたしゃべり方と同じく性格もおっとりしているのだけど・・・僕は少しだけこの姉が苦手だ。
もちろん、家族として好きではあるけど・・・なんていうか、この年になっても変に可愛がってくれる・・・というか猫可愛がりされてるので、姉の側にいては僕は多分ダメ人間になるだろうと思い普段は必要以上に接触を持たないよう僕からはしている。
僕からは・・・というはもちろん僕からだけで、姉の方からは何度となく暇な時は僕の部屋に来たりする。
そんな姉の元を僕は今訪ねている。
「茜さん。そろそろ達也離さないと息できなさそうだよ?」
「あら~?順一くんいたの?」
親友のナイスな助けのお陰で僕はようやく厚い抱擁から解放された。
にしても、僕と一緒にいるときにイケメンな順一をオプション扱い出来るのはこの人か瑠璃さんくらいのものだろう。
「それよりも・・・茜さんに頼みがあるんだ」
「なぁに?お姉さんにできることならいいわよ~」
ふくよかな胸を張りながらそう答える姉さん。
多分、ここに姉さんの彼氏がいたらそのまま姉さんを押し倒していたであろう構図に・・・しかし、僕も順一も対してリアクションは見せない。
僕は家族だから今さらだし・・・順一に関しても女に不足はしてないから大丈夫なのだろう。
「実はさ・・・」
順一が最初から説明していき、それに釣られてだんだんと・・・心なしか目が輝き出す姉さん。
これはヤバイか・・・
そう思って立ち上がろうとしたのを・・・しかし、いつもより機敏な動きを見せた姉さんに制された。
「事情はわかったわ!つまり・・・たっくんにメイクしていいのね!」
キラキラとした瞳で僕を見つめる姉さん。
ちょっ、姉さん目がマジなんですが!
こら、順一。お前も頷くな。
「あ、あの・・・姉さん。簡単で大丈夫・・・」
「ダメよ!たっくんにメイクするなら完璧にしてみせるわ!お姉ちゃんに任せなさい!」
や、ヤバイ・・・非常にまずいぞこれは・・・普段の穏やかさが嘘のようにきゃぴきゃぴする姉さん・・・このままでは僕はがちで何をされるのかわからない・・・
ゆっくると後ずさろうと足を動かすが・・・がっと後ろから肩を掴まれる。
みればそこにはイケメンフェイスをにこにこさせていた順一の姿が!
「ちょっ・・・順一!?」
「まあまあ、大人しく諦めなよ?」
「そうよ~お姉ちゃんに全部任せれば大丈夫よ!」
姉さんのあまりの迫力と後ろから押さえる僕より力の上な親友に敵うわけもなく、僕はそのまま改造されてしまう。
10分後・・・
「きゃー!可愛いわ!たっくん!」
「うん。似合ってるね」
自分でメイクを施したのにはしゃいで抱きつく姉さんと後ろで頷く順一・・・そして、無惨にも抗えなかった女装姿の僕というのが現在の現場の様子だ。
正直言おう。カオスであると。
若干自棄になり、ぼーとして姉さんの玩具になっているとふいに《カシャ》というカメラのシャッター音のようなものが聞こえてそちらを見るとスマホで僕を撮影している順一が・・・って!
「な、なんで撮ってるの!?」
「我慢しろ。これもお前のためだ・・・これが条件で許可を貰えたんだしな」
何やら呟いている順一だが、それどころではない!
データをデリートせねば!
とはいえ、姉さんのホールドを抜け出せる訳もなく・・・後日そのデータが瑠璃さんのスマホの待ち受けになっていたときに大変赤面したのは仕方ないことだろう。




