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王子の初お出かけ、クロムの家庭事情

アーサー王子の私室ではアーサー王子が普通の大きめな革鞄の中に服やら本やらを詰め込んでいた。


「訓練をするかもしれないからタオルは必要でしょ?」

「タオルでございます」


鞄の中に魔法入門と書かれた少し厚めの本を入れながらアーサーが呟くとどこからか執事のセバスがタオルを差し出す。


「もしかしたら泊まるかもしれないから寝間着も必要だよね?」

「…その通りでございます」


セバスの眉が一瞬ひくつく。

使える相手はアーサー王子であるが雇い主はクリス王なのだ。

結論から言えばセバスは雇い主の意思に従った。


がアーサー王子が勝手に鞄の中に詰め込んでいる外泊の準備を咎めることはしない。


「あと歯ブラシとあっ、この本とかあと杖もいるでしょ……」


とアーサー王子はできる限りの準備をした。


その結果…


「アーサー様…鞄3つでは流石にクリス様に疑われるのでは?」

「大丈夫っ!あと2つあるけどそれはセバスがどうにかしてくれるでしょ?」

「えぇ…畏まりました。アーサー様」


アーサー王子があれもこれもと用意をしていくうちに鞄はいつのまにか5つに増えていた。


「クロムの家に行くの楽しみっ!」

「夜も更けてきました、そろそろお眠りになった方がよろしいかと…」

「うんっ、わかった!」


そう言いながらアーサー王子は本を読み始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌朝、アーサー王子は頭痛と睡魔に悩まされていた。


「うぅ…眠い…頭ガンガンする…」

「アーサー様、こちら頭痛に効くと言われている飴でございます」

「ありがとう…甘くて美味しい…」


アーサー王子の顔色はお世辞にもいいとは言えない状態であった。

しかしその双眼に灯る光だけは、アーサー王子がどれだけ今からのお出かけを楽しみにしているのかを表すかの如く、らんらんと輝いていた。


アーサー王子はセバスに連れられて馬車に乗り込む。


「アーサーよくもやってくれたな…ってお前どうした!?顔色悪いぞ?」


馬車にアーサー王子が乗り込むとそこにはクロムがすでに乗っていた。


クロムはアーサー王子が乗り込んで来るなり、ニヤニヤしながら話しかけたがアーサー王子の顔色を見るなり態度を急変させ心配するような表情になった。


「大丈夫…だよ。ただちょっと…なんだか昨日は眠れなくて…」

「そんなに楽しみだったか?やっぱりアーサーもまだまだ子供なんだなぁ、ほら寝ていいぞ。つくのに多分10分もかからないだろうが起きなかったらうちのベットの上に転がしておいてやるから」

「…ありがと…おやすみなさ…い」


アーサーはそう言うとスヤスヤとクロムの膝の上に頭を乗せて寝息をたて始めた。

アーサーの金色に輝く髪をクロムが優しく撫でる。


「寝てれば可愛いのにな…うちの息子もこんな感じなのかな…」


馬車に揺られる中クロムはアーサーの頭を撫で続けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


セバスが手綱を引くと馬が歩みを段々と遅くしていき、ゆっくりと止まった。


「ありがとう、ゆっくり休むといい」


セバスは2頭の馬にそう声をかけ後ろからついてきた使用人やら護衛やらが乗った馬車から出てきた使用人に馬の面倒を任せ馬車の扉を少し開け呼びかけた。


「アーサー様、クロム様、到着いたしました」

「あぁわかった、アーサー…アーサー」


クロムはアーサーを起こそうと揺するがまるで起きる気配はない。


「まぁいいや、とりあえずこいつを運ぶからセバスは荷物を頼むわ」

「クロム様、アーサー様は王族ですよ?言葉遣いをもう少し学んでみては?」

「王様にあいつって言ってんだから王子様にこいつって言っても問題にはならないだろう?」


クロムはそう言うとアーサーをおんぶして家の門をくぐった。


「全く…仕方のない人ですね…」


セバスはその後ろを10の鞄を持ちクロムの後を追った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


クロムは扉を開ける。

半年ぶりの我が家だ。


「ただいま…ガヴェ…ルーナ…」


万感の思いが詰まった声でクロムがそう言うと。


「おかえりなさい…クロム、そしてお疲れ様」


ニッコリと天使が微笑んでいるような表情をした彼の妻“ ルイーナ・アーツクス”


「おかえり!パパ!」


キラキラとした笑顔をした彼の息子

“ガヴェイル”が出迎えた。


「で、その子は一体なんなのかしら?」


ルイーナは表情を全く変えることなく平坦な声でクロムに聞く。


「ああ…これ?とりあえずこの眠りの王子様をベットの上に置きたいんだけど、ところで今日の昼食は何かな?」


クロムはなんでもないと言った様子で答えながら寝室の方に歩いて行く。

がルイーナが少し口を開けて固まっているのをみてクロムは止まった


「え……?王子様?」

「どうしたんだ?ルーナ?やっぱり俺がいないせいで苦労かけたか?それならごめん。本当にごめん。あいつがさ俺のことを…」


クロムは状況が把握できておらずとりあえず謝りその責任をなんとかしてクリスになすりつけようと弁明を始めた…がその必要はなかった。


「ごめんなさい!私…不安だったの」

「へ?」

「あなたを疑ってたの…浮気してたんじゃないかって」

「そんなことは…」


ルイーナは少し表情を曇らせながら話を続ける。


「それでその子を見て『あぁやっぱり』って思ったの…それで問い詰めなきゃって、そう思ったの」


ルイーナは少し声のトーンを落としながらそう言った。


「そんなことは断じてしていない。信じてくれ。俺はお前だけが好きなんだ。他の女なんてルーナと比べるまでもないよ…」


そんなルイーナを見てクロムはオロオロとしながら弁明する。無実ではあるがその必死さがかえって怪しさに拍車をかけていることにクロムは気づいていない。


「あなたはかっこいいし、優しいし、すごく女ウケもいいし、こんな私でもとっても愛してくれたし、そんなあなたを私も愛しているの…」

「え?あっ、うん…俺は今でもルイーナのことを愛しているよ」


いきなりルイーナがクロムを褒め始めたのでクロムはどうしていいかわからなくなってとりあえずルイーナを抱きしめることにした。


「だけどっ!半年も帰ってこないから私のことなんかどうでもよくなったんじゃないかって!もう帰ってこないんじゃないかって。別の女の人と仲良くしてるんじゃないのかって…もしかしたら私は裏切られたんじゃないのかって……そう思ったの………」

「……」


ルイーナは最初高まった気持ちを爆発させるようにヒステリーに叫ぶように喋っていたが次第にその声はすすり泣くような声に変わっていった。


「あなたがケガしたって聞いたのにあなたは帰ってこないし……なんの音沙汰もないし…手紙の一つだってよこさないし。本当は死んじゃったんじゃないかって!もうあなたに会えないんじゃないかって!!」

「それは…悪かった…」


ルイーナはか細い声で喋っていたが喋っていくうちに心配だった気持ちを思い出したのか、声が段々と強くなっていった。

その声には心配するような気持ちが十二分に染み込んでいた。


「本当に…私の勘違いでよかった…本当に無事でよかった…それと浮気を疑って本当にごめんなさい…」

「別にいいよ…俺の方こそ心配させてごめん」


謝りあった二人の間にはセバスですら嫌な顔をすると思われるほどに甘い空気が流れていた、というか実際に満面の笑顔を浮かべているセバスの眉がピクピクと高速で動いていた。

その二人の息子であるガヴェはというと、嫌な顔でも笑顔でもなく、何か信じられないものを見たような唖然とした顔をしていた。


「大丈夫よ…あなたを疑うなんて私はバカね…本当に私ってバカね」


そう言ってルイーナは笑った。


「俺もルーナの気持ちを考えることができていなかった…ルーナを泣かせるなんて俺の方がバカだな」


そう言ってクロムは笑った。


と、そこに割り込む小さい影がいた。


「母さん……親父ってろくでなしの『ピーーーーーーーー』で『ピーーーーーーーー』じゃなかったの?」

「へ?」


突然被っていた猫を脱いだかのように…いや実際猫をかぶっていたのだろう…ガヴェイルがとてもじゃないが人前で言ってはいけないような所謂、『放送禁止ワード』を無表情で連発した。


先程まで幼く明るい少年といった雰囲気だったが今ではその雰囲気は残っていない。

今は悪ガキのような雰囲気である。



「ガ…ガヴェ?どこでそんな汚い言葉を覚えたんだい?ほ、ほら怒らないから言ってごらん?」


クロムは怒りを覚えたわけでもなくただただ純粋に理由が知りたかった。

主に自分の可愛い天使がどうしてそんな言葉を知っているのか、その情報源を。

もちろんその情報源を叩き潰す腹づもりである。


「いや、いっつも母さんが一人でお酒をたくさん飲んで俺に愚痴って来るんだよ。しかも泣きながらだよ?母さんはいつもいつも心配して耐えれなくなったらお酒に逃げて、泣いて色々暴言吐いて、また泣いて、酔っ払っても暴言吐いてもそれでも母さんは親父のこと心配してたんだよ」


ガヴェイルはなんでもないことを言うように無表情で淡々と言った


「ルイーナ……」


クロムは申し訳なさそうな顔でルイーナを見る。


「あとさっきの言葉は母さんが酔った時に泣きながらいつも叫んでた言葉だよ。俺にその言葉の意味はよくわからないけど親父の反応からするとあまりいい言葉じゃなさそうだね。」


淡々とガヴェイルは言う。


「ルイーナ……」


クロムは少し呆れたようなそれでいて、やはり申し訳ないというような顔をしていた。


「…あぁー母さんが泣いたり怒ったりしてたから警戒して猫かぶってたのが馬鹿馬鹿しいくらい親父っていいヤツじゃん。……なぁ親父」


無表情で淡々とガヴェイルは喋る。


自分から猫をかぶっていた宣言をしたガヴェイルにクロムは動揺している。


「今度から1ヶ月に1度は帰ってきてくれよ。親父がいると母さんが笑うから。親父がいないと母さんはいつも苦しそうなんだ。それに全然笑わないんだ。悔しいけど俺が何しても笑ってくれないんだ……だから俺は辛いし悲しいし苦しいんだ。今日母さんが笑ってくれて俺は本当に嬉しかったから、親父、1ヶ月に1度は帰ってきて」


ガヴェイルはしょんぼりそれでいて悔しそうな顔をしながらそう言った。


「あぁわかった…ガヴェは可愛いな」

「ちょっ?!やめろよ、バカ親父!あと褒めるなら可愛いじゃなくてカッコいいがいい!」


クロムはガヴェイルの頭をガシガシと撫でた。

ガヴェイルは嫌がってはいたが、笑顔だった。


「それにしても、親父…ね…」


クロムはどこか遠いところを見るような目をした


「どうかしたのか親父?あとそろそろ撫でるのやめてくれない?髪ボサボサになるだろ」


ガヴェイルは自分の赤色の髪をさしながらそう言った。


「あぁ悪かった」

「あと背中に背負ってた子どこに行ったの?」


「「あれ?」」


「誠に勝手ながら私が寝室の方へお連れしました」

「「「うおっ!?」」」


両手に鞄を5つ持ったセバスがそこにいた。




クロムが邪竜を倒した(ということになっている)日から約1ヶ月が経つとおルイーナは酒を飲み始めました。

2ヶ月が経つ頃にはガヴェイルに愚痴り始めるようになりました。時々『クロム…』と呟くようになっていました。

3ヶ月が経つ頃には情緒不安定になり怒ったり泣き出したりするようになりました。

4ヶ月が経つ頃にはルイーナは笑わなくなっていました。

ガヴェイルはルイーナを笑わせようといろんなことをしました。

お父さんの真似をして握ったことのない剣を振ってみました。

お父さんの真似をして魔法を使ってみようと頑張ってみました。

将来騎士になると言ってみたりもしました。

がルイーナは笑いもせず悲痛な表情をするばかりでした。


5ヶ月が経つ頃にはガヴェイルも笑わなくなっていました。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あとがき


ルイーナをヤンデレにするつもりはなかったんや……。なんでそうなった……。

ちなみにあとクロムの行動が後2、3ヶ月遅ければ家庭は崩壊していました。


クロムが王子を連れたてきたこととその周りの護衛や従者の数、そして世の中の噂からルイーナはクロムが護衛任務についていて帰れなかったということを察しました。

そもそもルイーナは公爵令嬢。聡いのです。


また遠征など長期にわたり家にいない場合、クロムは2日に一回手紙を書くことをルイーナと約束していました。

がクロムは国内ということもありそれを忘れていたのもヤンデレ化の原因です。



王子を連れず帰宅した場合?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


クロムを信用しきれなかったルイーナはクロムに詰め寄った。クロムは必死に弁明をした。

必死な弁明によりルイーナも納得したかに思えた、がクロムの弁明は怪しさに拍車をかけるものでありルイーナに決断をさせてしまう。

クロムが2階の寝室で寝静まったあとルイーナは一階に行き、家に貯蔵されている油を全て撒いた。

そして火の付いたマッチを一本その中に落とした。

ルイーナは笑顔でベットに戻りクロムに抱きつく。『これでいつまでも一緒だね』と。

そしてしばらくして火の熱さとパチパチという音に異常を感じ、起きたクロムにルイーナはうっとりとした顔と声でこう言う



『もうあなたを離さない』



Bad End

『一家心中焼身自殺』


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