37〜孤児院へ〜
空高くから高度を落としていく。
私がいつも鍛錬に使っていた小高い山の上には、掘っ建て小屋があるはずなのだが、まだ見えない。
高度をさらに落としていくと掘っ建て小屋が見えてきた。
だが掘っ建て小屋の数がなぜか3棟に増えている。
どういうこと?
そして掘っ建て小屋の前には黒と白の特徴的な鱗を持ったドラゴンが寝ている。
レイさんだ。
地面すれすれまで高度を落とし飛行魔法術式を解除する。
独特の浮遊感が消え、重力をまた感じるようになる。
やっぱ地に足がついていると安心する。
「レイさーん」
私は久しぶりに会えたレイさんの元へ足を運ぼうとしたがその勢いは失われた。
「…レイ、さん?……ねぇ!その傷どうしたの!」
レイさんの足元には血だまりができていた。
腕と腹あたりには痛々しい傷跡が残っている。
「ヒール!ヒール!ヒール!」
回復魔法を何度も放つがレイさんの傷は塞がらない。
私の回復魔法の腕は自分で言うのもおかしいけど、ちぎれた腕の二本や三本くらいなら生やせると自負しているし、首から下がなくなったとしても30秒程度あれば再生可能だ。
治せないのは死んでしまった場合とごく一部の例外だけ。
とは言ってもそれなりの準備をすれば、死にたてほやほやの人くらいなら生き返させることもできるわけで。
だから訳がわからない。
それだけの腕を持ってしてもなぜこの傷が治らないのか。なぜ癒せないのか。
「なんで⁈なんで治らないの⁈」
毒かもしれないと思い解毒の魔法を使った。
呪いかもしれないと思い解呪も使った。
死者蘇生しようと思ったけど魂が見つからなかった。
意味がわからない。
レイさんは死んだのかな。
一瞬そう思った。
だけど私とレイさんは魂が繋がっている。
マナのパスはたしかにレイさんが生きていることを私に伝えてくれる。
するとレイさんがガタガタと動いた。
そして背中の部分にヒビが入りレイさんの中からレイさんが出てきた。
「…ふぅ。……主人か。…すまない、脱皮をしていた」
どうやら脱皮中だったらしい。
そう思うと急に顔が赤くなるのを感じた。
早とちりして回復魔法を乱打した挙句、叫んで慌てて……うぅ、穴があったら入りたい……
本当にレイさんか心配になったので久々に鑑定する
ーーー
名前 レイサン 業-42
種族 カオスドラゴン
レベル 72
職業 無職
ユニークスキル
龍言語魔法
パッシブスキル
感知
スキル
大剣術8 格闘の理1 飛行の理4 統率術4
指揮術5 手加減の理2 …etc
称号
空の覇者
竜王
加護
精霊女王の加護
名もなき女神の加護
契約
ライカ
ーーー
おっとー?
なんか前鑑定使った時より情報量増えてない?
ま、いっか。多分鑑定のレベルが上がっただけだろうし。
正直こんなに情報あっても困るだけだから次からは名前とレベルとスキルを5つほど表示するように設定を変更した。
さてまず一つ。
誰が精霊女王だよ!
そんな職業になった覚えががないよ!
私の種族ってなんだっけ?
現人神だから精霊じゃないよね?
あと…名もなき女神って……照れる。
じゃなくて!もう一つ!
空の覇者?竜王?
身内がRPGに出てくるラスボス又は裏ボスみたいな感じになってます…
そして竜王は職業じゃなかったという事実。
世界の半分を餌に勇者と交渉するあいつらみんな無職なのか…
というかすごいレベル上がってるし。
さっきの傷はレベル上げの時に受けた傷なのかなぁ…
「レイサン。傷は大丈夫?」
「問題ない。…ただ…恥ずかしいことだが、脱皮をするタイミングを逃して皮膚が裂けた…」
聞かない方が良かったかも…
バサッバサッ
レイサンは翼を振っている。
その度に鱗が飛び散る……もったいない。
私は高速で無限収納の中にレイサンの脱皮した皮を入れた。
何かに使えると思うんだよなぁ。
そしてレイサンは一通り翼を振るうと満足したのか人型に変化した。
翼を振るう時に風の刃が発生しているのは気にしないでおこう。
さて、とりあえず孤児院に行かないと。
そんな感じのことをレイサンに相談してみた。
「ふむ…ならば我が主人を孤児院に連れて行こう」
やはり、こいつできる!
頼もしいぞ!
そんなわけで服を村人仕様にチェンジ!
やっぱレイサンは出来るドラゴンだな!
と思っていた時期が私にもありました。
まず門のところで衛兵が
「ハッ?!レイサンさん?!お疲れ様ですっ!」
ビシィ…と敬礼していた。
レイサンは顔パスのようだ。
そしてレイサンも「ご苦労」と返事をしていた。
「ハッ?!レイサンの兄貴?!お勤めご苦労様ですっ!」
街の中ではスラム街にいそうな奴らがこれまたレイサンに敬礼…
それにレイサンが「ご苦労」とまた声をかけていた。
……レイサンが街の元締め的存在になっている。
「おや、まぁ。あんたまた保護してるのかい?物好きな人だねぇ」
道を歩いていたおばあさんからそんな風に声をかけられる。
「別にどうということはない」
「孤児院にワイバーンを寄付したんだろ?太っ腹だねぇ」
「金貨25枚程度どうということはない」
「やはり守護者は格が違うねぇ。これからも頑張っておくれ」
「もちろんだ」
…え?めっちゃ慈善活動してる⁈
それからも『スラム街を救ってくれてありがとう』とか『兄貴!一生ついていきます!』とか『また!訓練をお願いします!』とか
ちなみに門に入る前から私はレイサンに肩車されている状態だ。
恥ずかしい。口から火が出そう。
「ゲフッ」
あっ…本当に出た。
そしてそのまま孤児院へ向かう。
街の人たちから『また』という言葉を何回か聞くので多分同じようなことを何回もやっているのだろう。
あと途中の屋台で焼き鳥を爆買いしていた。
そのまま街の中を進んでいく。
……私に父親がいたらこんな風だったのかな。
……私はレイサンが歩く振動を心地よく感じながら瞼を閉じた。
ーーー
しばらくすると目が覚めた。
どうやら今は夕方らしい。
私にかけられていたブランケットをたたんでから周りを見渡す。
多分ここは孤児院の中だろう。
ドアを開け外に出る。
そこには子供達の相手をしているレイサンと穏やかな顔つきの老婆がいた。
「オッチャン!また来てくれよ!」
「オッチャン!俺、将来あんたのところで働きたい!」
レイサンは『オッチャン』の名で親しまれているようだ。
というか8、9歳そこらの歳から自分を売り込むとは…たくましいなぁ。
「…シスター。どうやら起きたらしいぞ」
「えぇ。そうみたいですね」
そう言ってシスターがこちらに近づいてくる。目の前まで来たところでしゃがんで
「私はこの孤児院を管理しているミレア、と言います。シスターって呼んでね。あなたのお名前はなんですか?」
「ライカ…です」
「ライカちゃんね。わかったわ。…みんなー!今日から、みんなの仲間になった、ライカちゃんです!仲良くしようねー!」
「「「はーい!」」」
「では、我はこれにて失礼する」
「えぇー」
「仕方ないだろう?またな」
「「「またねー!」」」
レイサンはどこかに歩いていった。
しばらくすると孤児たちが集まって来た。
私の孤児院生活が今日から始まる。
まずは掃除かな。それとも料理か。
どれにしても退屈しなさそう。
いや、その前に自己紹介だね。




