9 閑話 〜王都 とある冒険者〜
ライカの活動がどのような影響を与えているのか
「オークが8体も出てきてよぉ」
「まじか」「んでんで?お前どうしたんだよ」
「逃げるに決まってんだろぉ」
「「ははははは」」「それは間違ってねぇぜ」
ここはマース王国の冒険者ギルド二階の酒場だ。
この酒場には酔っ払いなどいない。酒を飲んでも呑まれない。それくらいの自制が出来なければ冒険者などやれないからだ。そして酒場に集まる理由は大きく分けて二つ。楽しむためと情報収集だ。
「ところで北の『死の森』に行ったことあるやついるか?」
「いやそんなことする奴いねぇよ」
「あの調査依頼を受けるやつはいるわけないだろ」
「4年も解決されてない依頼だしな」
「そもそもあそこはSランク魔獣がウロウロしててギルドからSランク指定された場所だしな」
「リトルレッサーフェンリルとかデスキッカーラビットとかな」
「でもあの報酬はすげぇよなぁ」
「たしかに、王家から一億ギルももらえるんだから」
「でもリトルレッサーフェンリルの毛皮は100万ギルだからなぁ」
「そんなとこ」
「そんな腕あるならSランクになれるわ」
「たしかに」
「それゃそうだな!」
「そういえば死の森って結構前に地殻変動があったよな」
「あぁあれな」
「あれはびっくりしたよな」
「フェニックス見たってやついるけどまじ?」
「それは嘘だな」
男達の会話は進む
ひとりの男がギルドの階段を上がってくる
その男がギルドの酒場に現れると一気に皆のテンションが上がった。
その男の名は
「おぉ、アレンさんだ!」
「踏破者アレンが来たぞー!」
「おおおおおまじか!ファンです。」
「なんかはなしきかせてくれぇ!」
「握手して下さい!」
「今回はどこに行ってたんだ?」
「Sランク冒険者に会えるなんてついてるな」
そしてその男は言った
「野郎ども久しぶりだなぁ!今日は俺のおごりだ!」
その男、アレンは自分が未熟だと痛感していた
『Sランク指定されていたダンジョンを踏破したから、あの森の調査くらい気をつけていれば大丈夫だと思っていたのに…』「あぁ…クソッ」
「どうしたんですか?」
ギルドの冒険者達はSランク冒険者がイラついたことによって少しざわめいていた。
「お前らの夢を壊すようで悪いが俺は今回あの依頼を受けたんだよ」
冒険者達の中では『あの依頼』といえば死の森の調査依頼と南のクラーケン討伐そして西のドラゴンの捕獲依頼しかないがアレンはクラーケンを討伐しドラゴンの中でも小さめではあるがワイバーンを捕獲した実績があるパーティのリーダーだった。
つまり受けた依頼は死の森の調査ということになる
「嘘だろ…」
「何があったんですか…」
冒険者達はざわめき出す
アレンは低いがよく通るその声で言った
「いいか野郎ども。あの森は変わった。絶対近づくな、死にたくなかったらな」
アレンは苦虫を噛み潰したような顔をしていた
「でも一人も死んでないんですよね」
「何があったんですか」
「黙れ。今から説明する。まず誰も死んでいないことについてだが…悔しいが俺たちは見逃されたんだ…」
その言葉に酒場が静かになる
「まるで食べる必要がないとでもばかりにそいつらは俺たちを見ていただけだった…俺たちは逃げたよ」
「俺も何があったかはわからないが途中までは普通の今までどおり聞いてた通りの死の森だったんだ」
「だがあの山に近づいていくとある一定の距離から急に魔物達の動きが変わったんだ」
「こんな話は信用してもらえないかもしれないが魔物達が協力して戦っていた」
アレンはその時を思い出す
横から飛び掛ってくるBランクのブラットボアを自慢の剣で斬り絶命させた後剥ぎ取りもせず彼らのパーティは進む
パーティは6人。リーダーのアレン。盾と槍を持った盾役のゴードン。偵察が主な役目のルーカス、魔法使いのリタと支援魔法を使うディーナ。そして回復魔法使いのコーリー。
そしてだいぶ進んだところで俺たちはやつらに出会った
今までの奴らとは違うとすぐにわかった
いわゆるSランク魔獣というやつだと。
リトルレッサーフェンリルだとわかった。
でも奴らは攻撃をしてこなかった。そのかわりに風魔法で一本だけ地面に線を引かれた。
そこで俺たちのパーティは困惑し警戒しつつも話をすることにした。
「この線って…」
「まぁ超えたら殺すってことだろうな」
「でも魔獣にそんな知能はないはず」
「ドラゴンだって魔獣の一種だろ」
「むぅ」
「なんとか倒せるんじゃないか?」
「まぁ多分倒せるだろう」
「俺は反対だ」
そう俺は反対した、が
「大丈夫だって」
「私達なら多分いける」
俺たちは調子に乗っていた
だから俺も流されてしまった。
「そうだな、行くか」
冒険者は多分ではなく確実なことしかやってはいけないというのは、駆け出しでも知っていることなのに
ゴードンが一歩線を超えると奴らは散開し奥からこれまたSランク魔獣のデスベアーとデスキッカーラビットが出てきた。
別種の魔物が協力することはありえないというのは常識だ。
そしてその常識は打ち破られた
しかもその奥には幻獣のユニコーンまでいる。
そして戦いは始まった
リトルレッサーフェンリル達は俺たちを半円状に囲んでいた
デスベアーがゴードンに腕を振るう
ゴードンのステータスなら大丈夫なはずだ。
俺たちというより人間や亜人は神からステータスの加護というものをもらっている。
これは6歳になると誰でももらえるもので、『ステータス』と言葉にすると、自分の『スキル』と『ステータス』がわかる。そしてステータスは魔獣一定数を倒すと成長する。
だから人間は生き延びられるのだと。
話はそれたがゴードンはそのステータスと盾の扱い方も相まってデスベアーの腕を止めた。
その隙に俺はデスベアーの首を断ち切ろうとしたのだがリトルレッサーフェンリルに止められた。
俺は剣が止まられるとすぐに短剣でリトルレッサーフェンリルの足に傷を負わせた。そして足で蹴り飛ばす。リトルレッサーフェンリルはデスベアーの後ろへ飛んでいった。それと入れちがうように白い影がゴードンの隣に移動した。
デスキッカーラビットだ。
ゴードンはその蹴りを腹に受けて吹き飛ぶ。
「ゴードン!」
飛んでいったゴードンは生きてはいるようだが重症だ。
「ファイヤージャベリン!」
詠唱が完了してリタの魔法が発動するがその魔法はすぐに霧散した。
リタと同時にリトルレッサーフェンリル達も魔法を使い相殺させたのだ。
この相殺という技術は魔獣は使わない。
それが起こるのは基本的に偶然だ。
それが12もある炎の槍に起きた。
「うそ…」
「…聖域結ぐはっ」
「ヒール!ヒーうぐっ」
そして後衛の3人はレッサーフェンリル達に蹴られ体当たりされ吹き飛ばされた。
そしてそれを見ていた俺の背中にも鈍い衝撃を受けた。
わずか30秒ほどのことだった。
「がはッ」
口から血が出た
魔物達はなぜか嫌な顔をしているが手を出す様子はない。
さっさと出て行けってことか…
「ゴードン…動けるか」
「コーリーがさっき回復してくれたおかげでな…あいつは気絶しちまったが」
「ルーカスは?」
「あいつは蹴り飛ばされて気絶してるよ」
「みんなを運べるか?」
「2人が限界だな、そっちは?」
「俺は一人が限界だな」
「ま、ルーカスは大丈夫だろ」
「逃げるぞ。」
「逃げきれたら酒でも飲もうぜ」
こんな会話をしてても奴らは動かなかった
俺たちはルーカスを叩き起こしてから逃げた。
万全とは言い難い状態だった。
奴らは俺たちをいつでも殺せたはずなのに殺さなかった。
それどころか切り傷すら仲間にはついておらず、全て打撃で吹き飛ばすか気絶させるだけだった。
俺たちは手加減された挙句見逃された…
死の森を抜ける途中何回か襲われたがルーカスがなんとかしてくれた。
簡単に言うと囮になってくれた。
まぁそんなので死ぬルーカスじゃないが
命からがら俺たちは逃げ帰ってきた
「だから今回の依頼は失敗だ」
ギルドは静かになっていた
その沈黙をある男が破った
「それは本当か?」
「ギルマス…」
その男はギルドマスター。つまり冒険者ギルドの支部長だ。そしてその男は話を続ける。
「その話が本当ならこの依頼は失敗じゃない。だが別種の魔物が協力か…。まぁそういうことだ。それだけがわかっただけでも収穫だよ。」
アレン達の依頼は調査としては成功という判定を受けたため報酬を受け取ることになった。
が「すいません。この依頼は失敗だと思ってるので」
その報酬は全て孤児院や神殿に寄付されることになった
そしてアレン達はその後後輩の育成と自らの鍛錬に励むようになり1年後には教官と親しみと敬意を持って呼ばれるようになっていた。
あと彼は後輩に必ずこの言葉をかける
「自分を過信するな」と。
また
「依頼は失敗してもいい。だが死ぬな」と。
それから王都の冒険者の死亡率は少しだけ下がった。




