みっしょん11 発動!KGフィールド
【ゆるキャラ】 「ゆるいマスコットキャラクター」の略称。国や都道府県、市町村などの地方公共団体、その他公共機関等が、イベント、キャンペーン、村おこし、名産品の紹介といった各種地域情報の宣伝のため、またはその活動当事団体の理念や特色を表す象徴として創作されたご当地キャラのこと。地域に根差したものについては特に「ご当地キャラ」と呼ばれることもある。一般的な特徴として、外見がカワイらしく、そして、ユルい。また、広義にそういった特徴を持つイラスト、着ぐるみ全般をさすこともある。「ゆるキャラ」の命名は、みうらじゅん氏による。
「第二回戦は、公園一周ゆるきゃらレースでーす!」
スタッフに誘導され、三体のゆるキャラが広場の周りを巡る遊歩道の北隅端、そこに立つ石碑と大極殿(の書割)の前まで連れて行かれると、よく通る女子アナの声が会場内にそう告げた。
「競技のルールはいたって簡単。外周の道を反時計回りに一周して、ここまで帰って来るという駆けっこです。皆さん、暑いかもしれませんががんばってください」
「簡単って……そりゃ、言うのは簡単じゃろうがのう……」
その説明に、なむなむくんの中からは装着者・空念のぼやき声が聞こえてくる。
確かに公園の周りをぐるっと一周走ってくるだけの単純な競技ではあるが、彼らは自分の体一つで走るのではなく、驚嘆に動きの制限される着ぐるみを着て走るのだ。その大変さはただ普通に駆けっこするのとは訳が違う。しかも、今はまだ残暑の残る九月初旬の、よく晴れた昼日中である。こうして着ぐるみを着て立っているだけでも暑いというのに、そこへ持ってきて、この広い公園を一周するなどとは想像だに恐ろしい……。
「走るだけカ……体力勝負なら得意ネ」
だが、マントウくんに入る李姐豆は、ぼやくどころか着ぐるみ内で悦びを顔に浮かべていた。実は彼女、幼き頃より中国武術に勤しんでおり、格闘能力は無論のこと、運動全般に関してもかなりの自信を持っているのだ。
さて、そんな二人に対して、ぬらりん初号機に入る鈴はといえば……。
「うう……こ、こんな大勢の人の前で、は、走るなんて、あたし、できない……」
やはり、まだあがりまくっていた。
「安室君、陸上部の君ならば必ず勝てる!」
「そうだよ。陸上部の意地を見せておやり!」
そんな鈴に、介添役の茉莉栖の他、応援に移動して来た瑠衣らゆるキャラ部の面々が勝利を願って声をかける。
「……そ、そんなこと言ったってえ……こ、こんなに注目浴びたらあがっちゃうし……そ、それに、こんな格好じゃ、いつものように走れるわけ……」
身勝手な応援になおさら弱気を吐く鈴だったが、ふと、思わぬ発想の転換が頭を過ると、もともと陸上の短距離走者である彼女は幾分気持ちが楽になる。
「……で、でも、走ってた方が、き、気が紛れるからいいか……」
「それでは皆さん、スタート位置についてください」
そうして次なる勝負への意気込みを新たにする三人に、女子アナの声がいよいよ開始の時を告げる。
その相変わらずよく通る声に三体のゆるキャラはふかふかの布地でできた、なんとも肌ざわりの気持ちよさそうな右足を白いスタートラインの上に揃える。
「それでは、用意……ドン!」
パーン!
合図とともに放たれたピストルの音に、戦いの火蓋は切って落とされた。
「うおりゃああああ!」
「アイヤー!」
「ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…」
三体は渾身の力を込めた全力疾走で、しかし、ぷにょぷにょと着地のショックをすべて柔軟肌ざわりな足裏に吸収してしまうユルい足取りで未舗装の道を爆走してゆく。
「走るのは得意ではないが……こうなったら、やるしかないわい!」
暑さと走るのが苦手な実はメタボ坊主である空念も、覚悟を決めてなむなむくんの足を気合いで振り上げる。
「フン! 二人とも、ワタシに勝てる思たら大間違いネ!」
李姐豆はまだまだ余裕の表情で、胴長短足のマントウくんを快調に走らせてゆく。
「ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…」
そして、ぬらりんの中の鈴は、走りに集中することで一時的にしろ、あがり症を忘れることができていた。
そんな三体のゆるキャラが全力で走る愛くるしい姿を、沿道の観客達は熱い声援を送りながら観戦する。
「はっははははは、なんてユルい走りなんだ!」
「真面目なレースとは思えねーっ!」
「お前たち、ユル過ぎるぞーっ!」
当のゆるキャラ達本人は至って真面目に競争し合っているのであるが、傍から見るとなんとも微笑ましい駆けっこをしてるようにしか見えないのだ。
そんな声援の中走る三体のレースは、抜きつ抜かれつしばらくの間、ほぼ互角に進んで行った……が、公園を半周過ぎるくらいになると、ゆるキャラ達の身に異変が起き始める。
「……ハァ……ハァ……暑い……なんだ、この暑さは……」
「很熱……なんか、暑くなってきたネ」
「……ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…ちょっと……辛くなってきたな……」
炎天下の走行で、いよいよ着ぐるみ内の温度は人の限界を超える値にまで近付いてきていたのである。
「そろそろ、ヤバくなってくる時間帯だな……」
スタート兼ゴール地点でレースを見守っていた真太が、タブレットの画面に映る「体温上昇率/時間(分)」グラフを確認して呟いた。
「この天候での全速力走行……少々心配ではあるな……」
その呟きに茉莉栖も険しい表情を作ると、遠く第三コーナーを曲がるぬらりん初号機の動きによりいっそうの注意を傾ける。
「まあ、零号機と違って初号機はかなり冷却性能を向上させてあるし、さらに奥の手も用意してあるから大丈夫だとは思うんだけど……」
「うむ……もう二度と、あんな悲劇は起こしたくないからな」
「………………」
茉莉栖のその台詞に、傍らで松葉杖を突いて立つ舞も心配そうな眼差しでぬらりんの走りを見つめる。
ビデオカメラのフィルター越しにその姿を追う平七郎、祈るように手を胸の前で固く握り締めるひかり、眉間に皺を寄せ、腕を組んで仁王立ちする瑠衣……他の部員達も思うことは皆同じである。
「あとは安室さんがアレをちゃんと使ってくれるかどうかだ……」
失速していくゆるキャラ達の様子に、真太はすべてを天に任すかのようにそう口にした。
そうして仲間達が心配している間にも、着ぐるみ内の温度は上昇の一途をたどり、中の人間達はそのサウナのような高熱に苦しめられている。
「……フハァ……フハァ……な…なんだか……あ…頭が朦朧としてきおった……」
特に走ること自体苦手とするメタボな空念は、着ぐるみ内の高温と息苦しさにやられ、意識を保つことさえ危うい状況である。
この空念、普段は恰幅のよい威厳ある身形をしているのであるが、今は大量の脂汗をその坊主頭から吹き出させ、まるで鍋から上げたばかりの茹でダコのようになっている。
「……ハァ……ハァ……デモ、こんな暑さくらいで、ワタシ、負けないヨ!」
それに比べて李姐豆は、さすが中国武術で鍛え上げられただけあって、この程度のことでは全然へこたれない。噴き出す汗も彼女の中華系なカワイらしい顔を艶やかに火照らせ、空念と違って爽やかなスポーツ少女といった感じである。
「ここが勝利の分かれ目ネ……姐豆、加油!」
彼女は自分自身に気合を入れると、今がチャンスとばかりにマントウくんの短い足をさらに加速させる。
「……ハッ…ハッ…ハッ…そうだ! こんな時のためにあの装置があるんだったな……」
そんな頭一つリードしたマントウくんを追う、走る灼熱の塊と化したぬらりん初号機の中で、鈴は真太より説明を受けたある仕掛けのことを思い出していた。
「よし……使ってみるか……」
そして、この苦境に勝機を見出すため、その使用を試みる。
「ポチっとな……」
鈴は足を止めることなく右腰にミトンの手をやると、そこにあるボタンを強く押した。
ウイィィィィィーン…!
すると、ぬらりんの頭部内に低いモーター音が静かに響き始める……と、ともに鈴は首筋の辺りから爽やかな風が着ぐるみの内部に流れ込んでくるのを感じた。
そのモーター音の発信源は、着ぐるみの後頭部にあった。そこには小型のファンが取り付けられており、それが回ることで新鮮な外気を温度の上昇した体内へと取り入れることができるのである。
「……よし……ちょっと、楽になったぞ……」
火照った体を外気に冷やされ、元気を取り戻した鈴はぬらりんの足取りを再び軽くする。
「お、なんか、急に速度が上がったぞ!」
そんなぬらりんの変化に気付いた平七郎が、ビデオカメラ片手に声を上げる。
「ってことは、ついにアレを使ったな!」
続けて真太もそう叫ぶと、その顔を嬉々と輝かせる。
「新規に取り付けた後頭部の冷却ファン……どうやらその威力を発揮したようだな」
「ええ。これで勝負はわからなくなりましたよ」
茉莉栖のその言葉に、真太は不敵な笑みを浮かべてぬらりんの動きを目で追った。
「な、ナンダ、コイツ? ナゼか急に早くなたヨ!」
先頭を走っていたマントウくん内の李姐豆は、突然、視界の隅に高速接近してくるぬらりん初号機の姿を捉え、驚きの声を上げる。
「よし。これならなんとか行けそうだ……これも一応、中距離走みたいなもんだからね。こうなったら陸上部の意地にかけて、あたしだって負けないよ!」
そのマントウくんを追うぬらりん初号機の中では、ここに来てようやく鈴の陸上部魂にも火が点き、彼女はさらに追撃の足を速める。
「条坊高のヘタレ部なんかに負けてたまるカ! 勝利はワタシ達中国人会のものダヨ!」
中華料理店「少林軒」の看板娘にして濡良商業高校二年の女子高生でもある李姐豆。学校間の対抗意識も相まって、よりいっそうの加速を試みようとするも陸上で鍛えた鈴の本気の走りを振り切ることができない……東の直線ゾーンを抜け、北東の最終コーナーにさしかかった頃には、その二つのユルい移動物体は完全に横並びになっていた。
「……フハァ……フハァ……ご…ゴールはまだなのか……」
一方、そんな二体とは対照的に、完全に取り残されたなむなむくんは遥か後方を今にも倒れそうな勢いで走っている。
「なむなむくん、がんばれーっ!」
「坊さん、負けるなーっ!」
それでも諦めずに走り続けるなむなむくんに沿道からは温かい声援が送られるが、最早、その声も中の空念の耳には届かない。
「………も……もう…駄目じゃ……」
そして、メタボな人間の耐えられる温度を完全に凌駕した灼熱のなむなむくんは、中の空念ともども倒れそうではなく本当に倒れた。
「嗚呼、なむなむくんが……」
「なんと壮絶な最期じゃ……」
その無残な散り様をゴール地点で目撃した寺院連合会の僧侶達からは、空念の死を…あ、いや死んだわけじゃなかった……もとい彼の敗北を惜しむ物悲しい声が漏れ聞こえてくる。
「空念さん、立派な僧侶ではあるのだが、いかんせん食道楽だけは治らんかったからなあ」
「食欲に負けたか……これも御仏のお教え。人間、欲に負けてはいかんということじゃ」
「我らの公認ゆるキャラの夢もこれで潰えたの……所業無常じゃな」
「南無……」
チーン……。
そして、付き人としてついて来ていた本物の子坊主さんが最後に御鈴を鳴らし、僧侶達はなむなむくんに向かって静かに合掌した……。
さて、二回戦参加者の一人があえなくリタイアし、決勝進出をかけたこの勝負はとうに決したのであったが、残る二人の激しい一位争いはまだまだ続いている。
「……ハァ……ハァ…クソウ! こんなトコで負けてられないヨ!」
「……ハァ……ハァ…あたしはこれでも……ハァ……ハァ…あがりさえしなければ女子部員一、短距離早いんだからねっ!」
最後の直線、残り三十メートル……マントウくんとぬらりんは抜きつ抜かれつデッドヒートを繰り広げる。
「姐豆、加油ーっ!」
「最後マデ、諦めるダメネー!」
ゴール地点で待つ中国人会の人々から熱を帯びた声援が送られる。
「レイちゃん、がんばれー♪」
「安室ーっ! いっけえぇぇーっ!」
同じくゆるキャラ部員達も渾身のエールを送る。また、沿道でレースの行方を見守る人々のボルテージも今や絶頂である。
「アイヤーッ!」
「くうぅぅ…!」
ゴールを目前に並走する二人は、すべての力を振り絞ってラストスパートをかける。
そして、勝負の行方は……。
パーン…!
ゴール地点に貼られたテープが切られ、ピストルの乾いた音が会場内に木霊する。
「………………」
その瞬間、歓声を上げていた人々も、思わず声を潜めて息を飲む。
「一着は……条坊高校ゆるキャラ部のぬらりんです!」
僅か鼻先一つの差でテープを切ったのは、ぬらりんの方だった。
女子アナの結果発表とともに、会場には再び人々の歓声が沸き起こる。
「やったな、安室君」
「レイちゃん、スゴーい♪」
全力で走り切り、地に手と膝をついて肩を上下させているぬらりんのもとへ、茉莉栖とひかりが急いで駆け寄る。
「ああ。あたいは感動したよ!」
「うん。なんだか君に恋をしてしまいそうだ」
「僕の用意した秘密兵器、ちゃんと使ってくれたようだね」
瑠衣、平七郎、真太の三人も、各々に労いの言葉を口にしてぬらりんの周りを取り囲む。
「よく、がんばったわね……」
そして、いつの間にやら傍まで来ていた舞も、そう静かに言って微笑みを浮かべた。
「……ハァ……ハァ……ヘヘ…まあ、あたし、走るのだけは得意だからね……」
その滅多に見せることのない舞の笑顔を、鈴は覗き穴のクリア板越しに見上げる。
「でも、まだ次があるわ……もし辛いのなら、わたし、代わってあげてもいいわよ?」
「……ううん……怪我人の世話になるほど……あたし、柔じゃないから」
本気なのか冗談なのか? またいつもの無表情に戻って尋ねる舞に、鈴も息を整えながら、悪戯っぽく勝気な笑顔でぬらりんの中からそう答えた。
「あ! そういえばレイちゃん、今、全然あがってなかったんじゃない?」
そんな鈴の入るぬらりん初号機を眺めていた平七郎が、ふと気付いたようにして言う。
「ん? ……ああ、そう言われてみれば……」
鈴本人も今更ながらに言われて気付くが、確かに先程はまったくあがることなく、いつも練習で走っている時と同じような感覚で走ることができた。
「走るのに集中して気が紛れたってこともありますけど……やっぱり、こうして着ぐるみを着てると、自分だって気付かれないせいか、あんましあがらなくてすむみたいです」
その思わぬ着ぐるみ効果に、自分でも驚きを隠せない様子で鈴は答える。
「そりゃよかったじゃない。もしかしたら、これで君のあがり症も治るかもしれないよ?」
「はあ……そうだといいんですけどね……」
そんな鈴の成長に大きな期待を寄せる平七郎だったが、彼女はぬらりんの中で苦笑いを浮かべると、曖昧な返事を彼に返した。
「……ハァ……ハァ……クソウ! あんなヘタレにこのワタシが負けるなんて!」
一方、惜しくも二位に甘んじた中国人会側の陣営では、負けた悔しさに皆が歯ぎしりをしていた。
「デモ、次は絶対、負けないヨ!」
力を使い果たし、地面に落した本物の饅頭の如く地に倒れ伏すマントウくんの中で、李姐豆は悔しさをバネに決勝戦でのリベンジを固く心に誓う。
「ソウダ! 姐豆! オマエの力、こんなもんじゃないヨ!」
「そうヨ! オマエなら勝てるヨ!」
荒い息遣いで四角い体を揺らすマントウくんに取り付き、李姐豆の両親である少林軒の店主夫婦は彼女に激しく檄を飛ばす。
「ソウダ! マントウくんが負けるハズナイ!」
「ああ、次は完全勝利ダヨ!」
他の中国人会メンバー達も、それぞれに激励の言葉を彼女に送る。
「さて、これで決勝に進む第二回戦の勝者は、一位になりました条坊高校ゆるキャラ部のぬらりんと、二位になりました濡良市中国人会のマントウくんに決定しました。さあ、いよいよ次は決勝戦です!」
そんな中、司会を務める女子アナの冷静なナレーションが、まだ熱狂醒めやらぬ会場内にまたしても響き渡った。
「決勝戦は、会場中央に設けられました特設ステージにおきまして、ゆるキャラ同士による日本の国技〝相撲〟で決したいと思います。ぬらりんとマントウくんのお二人は、十分間の休憩の後、再び会場の中央へお戻りください」
「オオ、決勝ハ角力とな。格闘戦ならば姐豆に有利。是ハ、我らの優勝決まったも同然ゾ」
その競技説明に、李姐豆の武術の師匠にして中国人会の長老でもある李普司は、それまで押し黙っていた口を開き、余裕の言葉を発する。
「姐豆、必ずや決勝で勝利シ、マントウくんを公認キャラにシテ濡良中華街ヲ世ニ知らしめるのダ!」
「ハイ! 老師。必ずや勝利ヲ我ガ手ニ……」
師の言葉に李姐豆は大きく頷くと、マントウくんのミトン拳を高く天に突き上げた――。
ところで、そうしてゆるキャラ部、中国人会の両陣営が優勝に向けて意欲を燃やしているその頃、応援席側ではあずながまだ見えぬ友人の姿を探し続けていた。
「――もう、レイ。ほんと何やってんだよ。もうすぐ決勝始まっちゃうよ? ……もしかして、どっか別のところで見てるのかなあ?」
「しかし、あのゆるキャラ部の着ぐるみに入ってた奴、なかなかいい走りしてたなあ」
他方、額に手をかざし、満員の会場を見渡すあずなのとなりでは、待井が今のレースを思い返して、そんな感想を述べている。
「やっぱ、あの水泳部の荒波って子が入ってたのか? でも、大怪我してるって話だから、あんな走りはできないと思うんだが……ま、いずれにしろ、着ぐるみ着てもあれほど速く走れる奴だったら、ぜひともうちの部にスカウトしたいところだ」
「そうですねえ。確かに陸上部顔負けの走りしてましたよねえ……って、まさかっ!?」
なおも会場内に友人の姿を探し、灯台のように体をゆっくり旋回させながらそれに答えるあずなだったが、そこで、不意にある考えが頭を過る。
「もしかして、あれ、着てたのって……」
「……ん? 糸矢、お前、あれに入ってた奴に心当たりあんのか?」
その反応に、待井はあずなを見上げて尋ねる。
「……い、いえ、わたしの勘違いです。そんなこと一二〇パーあり得ませんから」
……一瞬、そんな気もしちゃったけど、まさか、あの極度のあがり症のレイがそんなことするはずないもんねえ……。
あずなは彼女の常識の範疇で考え直し、その可能性を完全に否定した。
「なんだ、そうかあ。そりゃ残念……もし知り合いだったら、糸矢の方からうちの部に誘ってもらおうと思ったのになあ」
「テヘヘ…それは、ぬか喜びさせちゃってすみません……んにしても、ほんとにレイ、どこ行っちゃったんだろ?」
大袈裟な仕草で落ち込む待井に苦笑いを浮かべると、あずなは再び行方不明の友人を探して、黒山の人だかりでごった返す会場内を遠くまで隈なく見渡した。
つづく…着ぐるみ、それは内と外とを隔てる心の壁……。




