兄弟関係
断片的な会話です。
連載ではありませんので。
こんな時ばっかり、と僕は何だか分からないモノへ向かって心の中で叱責した。
辛そうな顔をして呻いている兄に僕は何もかける言葉が見つからなかった。
兄に何も出来ない自分への怒りと、情けない兄に対しての失望を伴う怒りが鬩ぎ合った。
弱い人間は嫌いなんだ。
「……と……も……也」
兄は涙でぐちゃぐちゃになった顔を苦痛に歪めていた。
以前の兄からは想像がつかない。
「助……けて……くれ」
僕のジーパンの裾を掴み、兄は懇願した。
「死……にた……くな…………い」
無様だった。
いつでも己を信じて誰の言葉にも耳を貸さずに、誰にも頼らずに、堂々していた兄。
兄以上に高い人間は居ないと信じていた。
理想だったんだ。
こんな姿は見たくなかった。
「友…………也……」
僕は血で薄汚れたスニーカーで兄の手を踏みつけた。
足首を捻りながら、踵を兄の手に擦り付けた。
「あっ……あがっ…………や……めて……く…………」
ミシミシと何かが音を立てる。
僕は理想をこれ以上壊したくなかった。
だから、そんな兄の声は聞きたくなかった。
手にしていた銃を兄へ向けた。
「兄さん」
兄は顔を上げ、途端に目を見開いた。
口をだらしなく開けて。
その口元へ目掛けて発砲した。
言葉にならない叫びが、溢れた。
兄の手は僕が足で押さえていたために頭だけが後ろに仰け反る。
何かが飛び散ったが、大して興味は無かった。
痙攣を起こす兄の身体を見て、僕の理想がまた崩れていくのを感じた。
理想ほど脆いものは無いかもしれない。
それでも夢を見ずにはいられないから。
僕はゆっくりと引き金を引いた。
兄さん。さようなら。