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私立岬野原高等学校文芸部  作者: 文芸部
3/6

九条薫の場合

○月□日 水曜日。天気は晴れ。


部長からの無茶ぶりを言われた私は、とりあえずネタ探しのために部長を観察することにした。そのことを昼休みに長閑ちゃんに言いにいくと『薫ちゃんってばマジ薫ちゃん』と意味不明なことを言われ、笑われた。

暫く二人で噂話やら部長の可愛さについてなんかを話していると、ふと、長閑ちゃんが机に突っ伏しながらも顔だけを上げ、こちらを見つめていた。


「どうしたの?」

「気になったんだけどさー なんで薫ちゃんはそんな口調なのー?」

「さあ? 気がついたらこうだったのよ。もしかしたら姉達の影響かもしれないわね」

「へー 家でもそうなのー?」

「家ではこの口調は控えてるのよ。父親が聞いたら卒倒するから」

「それはちょっと見てみたいかもー」

おもしろそーと長閑ちゃんはケラケラ笑うが、うちでは父が出張先から帰ってくる度に倒れるため、最初は面白がっていた母も姉も、今ではめんどくさがっている。

「あ、そうだ!」

さっきまで怠そうだったのが嘘のようにばっと体を起こし、にやりと口角を上げた。何か面白いことを思いついた時の顔だ。


「ギャップ萌えとかどう?」

「ぎゃっぷ……萌え……?」


いきなり言い出した言葉がよくわからなくて首を傾げた私に、長閑ちゃんはそうだよ! 楽しげにと答えた。


「いつも女口調の薫ちゃんが、男口調になったら、きっとぶちょーもイチコロだよー!」

「そういうものなのかしら?」

「うんうん、間違いないよー。どっかのテレビか雑誌で見たことあるからー」

「うーん。それじゃあ、今度試してみようかしら」


部長観察日記の端っこに『ギャップ萌え』と小さく書き加えた。



○月△日 木曜日。天気は曇り。


部長を観察していて気がついたのは、最近やたらとため息を吐くことが多いのだ。部長の友達である石井先輩によく愚痴っている姿もよく見かける。

何か悩み事でもあるのかしら?

きっと部長のことだ。月曜日の出来事についてだろう。面白い小説を書けって言った手前、自分が書けなくて悩んでいたりするのかもしれない。

部長は強がりだから、今更あの発言を撤回することは出来ないだろうし、かと言って〆切に間に合わなければ、皆に失望されると思い込んでいるだろう。

皆が本当の部長を知っていることを部長だけは知らないのだ。


「そういうところも部長らしくて、私は好きなんだけどね」


観察日記に桜色のペンで『部長は可愛い』と書いておく。



○月■日 金曜日。天気は曇り後晴れ。


二年の教室の前でコソコソと部長を見ていると、途中で翔ちゃん先輩に会った。

若干引かれた気がするが、別に私はストーカーではない。

小説のためなのだ。言い訳とかじゃないのよ?


それと今日は部長ではなく、部長の友達である石井先輩に用があるのだ。

放課後、石井先輩が一人のタイミングを狙って話しかけた。


「あっ、あんた確か……」

「どうも文芸部の九条です」

「どうしよ、眞奈美帰っちゃったよ?」

「いいんですよ。石井先輩に聞きたかったんで~」

「ん? なあに?」

「部長どんな感じでしたか?」

「眞奈美?」

「はい~。締め切りの事、何か言ってませんでした?」

「ああ、ハイハイ。何か、またアイツ暴走したらしいじゃん」

「おっしゃる通りです」

「今週中ずっと、書けない~書けない~。って、言ってたよ。しょうがないよね、アイツも」

「部長のそんなところも、魅力的なんですけどね~」

「へえ、君ってそうなんだ。何ならメールとかで励ましてあげれば?  ポイントアップ!  なんつって」

「じゃあ、そうします~」


どうやら、私の思った通りだったようだ。本当に部長は不器用らしい。

もっと私たちを頼ってくれたらいいのに。

この前買い替えたばかりの真新しいスマホを取り出し、文芸部の皆へ、部長を励ましてほしいと書いた旨のメールを作成する。


「送信……っと!」


皆に送ってから、自分も部長に向けたメッセージを打ち込んでいく。

少しでも、部長の励みになるように。

私に出来ることはそれくらいだ。


「さて、と。私も小説を書かないとね」


何を書くかは大体決まっている。

少し恐くて、空回りする事が多いけれど、でも本当は強がっているだけの不器用でか弱い女の子が主人公。

そしてそんな彼女に恋をする、一人の少年の話だ。




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