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私立岬野原高等学校文芸部  作者: 文芸部
2/6

斉東芣霖の場合

憂鬱だ。憂鬱過ぎる。

教室の隅で今日何度目かわからないため息をついて斉東芣霖(さいとうぷりん)は空を見る。窓の外から見えるのは、人の心情など完全に無視した綺麗な夕焼けだ。

「もう金曜日かよ……」

芣霖が一言喋ると隣の席に座っている男子(モブ)がびくっと肩を揺らした。

なんだと思い目を向けると、

「すっ、すみませんっした!」

急に立ち上がったと思えば九十度のお辞儀をお見舞いされる。そして男子(モブ)は教室を走り去っていった。

……またか。

いつもこうなのだ。

理由は性格だとか色々だと思うが、一番の理由はやはりこの体だろう。

他の人と比べて熊のような体格。二メートルある身長。底知れない体重。極めつけは、百人中百人がブスと答えるこの顔だ。

芣霖自身痛いほど理解している。なんて恵まれていない容姿なのだろう、と。

こんな体をしているおかげで性格はひん曲がった。男子というものに期待しなくなったし、女子というものになろうとは思わなくなった。

幼いながらに、まだ幼稚園児だった時から芣霖は悟ったのだ。

結局全ては見た目で決まるのだと。

しかし今憂鬱なのはそんなわかりきったことが理由じゃない。

小説。小説を書かなければいけないのである。

とびきり面白い小説を。

「何でこんなことになったかなぁ……」

芣霖はまた、深くため息をついた。


***


月曜日のことだ。

いつも通り、授業が終わるとすぐに部室に向かう。

「失礼します」

そう言って扉を開けば、二人が芣霖を出迎える。

「おーぷりりん~! 今日も早いな(笑)」

「あ、ぷりん。待ってたよ」

馴れ馴れしく声をかけてきたのは高橋翔太。何から何まで普通な為、印象がすごく薄い。

ずばずばとツッコミをしてくる性格で、それが無神経でうざかったりする。

「失礼な言い方しない。ぷりんは真面目なのよ」

そう言って高橋を叱るのは城之内眞奈美。この部活の部長である。

文芸部。ここが芣霖の所属している部だ。芣霖達は毎週月曜日、こうして集まっては地味に活動をしている。

部員は二年生が三人と、一年生が二人。なんやかんやで今日も無事に部員全員が集まった。

「でね、校長のヅラが」

「ひゃー! なんの怖い話よこれ!」

一年生が来たことで今日も部室内は賑やか、というよりうるさい。一年生も変わり種ばっかりで、オネエ(九条薫)にハイテンション女(松風長閑)とろくな奴がいない。

あ、そろそろ部長キレるなぁ……

芣霖は仕方ない、と会話を止めに入ろうとしたが、

「うううううううるるるるるるるるささささささささいいいいいいいいいいいぃ」

部長の突然の咆哮により開きかけた口が固まる。

他の四人も、唖然として部長を見つめていた。

「来週の部活までに原稿提出ね」

「え?」

「売れる面白い作品を来週までに書いてきなさい。適当なのはなし。そんな態度ってことは皆さん余裕よね?」

そんな無茶苦茶な命令と共に、部長の今日一番の笑顔が皆の目に映った。


美人は怒らせると怖いって、本当だったのだ。


***


「完全にあたしはとばっちりじゃねーかよ」

思い出すと芣霖はほぼ会話に入ってなかったではないか。主に問題児二人(九条と松風)が騒いでただけ

のに。

まぁ今更文句を言ったって仕方がない。もう金曜日、あと二日しかないのだ。

「帰って考えるか」

寝てしまうかもだけど。

自分の鞄を持って、芣霖は重々しい足取りで教室をあとにした。


***


眠い。

芣霖は布団に大きな体をを無理矢理ねじ込む。もうこのまま眠ってしまいそうだ。

芣霖の周りには数え切れない程の本が大量に積んである。小説から漫画まで多ジャンルを兼ね備えていて、全てアマ○ンで購入したものだ。

この部屋を見る度に母は「図書館でも開いたらどうだ」と呆れながらに言うが、自分の聖地に他人を踏み込ませるなんて。絶対に有り得ない。

そんなお世辞にも綺麗とは言えない部屋で、芣霖は眠気と闘いつつ、小説を書いていた。

ちなみにまだ、タイトルすら思い浮かんでいない。

「そもそも私が書いてる時点で面白いとか以前の問題だしなぁ」

あーだこーだと考えるが、やはり何も考えつかない。

そんなこんなしてるうちに、急に携帯の着信音が鳴り出した。

「誰だよこんな時に……っと、九条?」

すぐに確認すると、馬鹿そうな顔文字の題名がついたメールを開く。


『件名:部長がピンチ(>_<)

 本文:みんな!

    部長がなんか作品まだ書けてないみたいなの~

    自分から面白い作品を書けってみんなに言っちゃったから、どうしても書かなきゃって悩んじゃってるみたい(+o+)

    提案なんだけど、みんなで私たちのアイドル部長にメールを送って励まさない?

薫より☆』


……私たちのアイドルってなんだよ。

思わず突っ込んでしまいそうになった口を閉じる。

というか何故そんなことを知っているのかが気になるが、

「部長も悩んでるのか……」

皆に強引に言った手前、何としても書かなければとか思っているのだろうか。

「真面目な人だなぁ」

部長宛に『無理しないで下さいね』と適当な励ましを送り、目を閉じる。

まだ何も書けてないが、何とかなるだろう。多分。

そうして芣霖は夢の中へ誘われていった。


***


やばいやばいやばい。何がやばいって、もう時間がないこと。芣霖は絶望的な気持ちでカレンダーを見る。

「あああやっぱ日曜日……終わる気がしない……」

机の上に置いてある小説用ノートに目を向ければ、真っ白なページが芣霖を現実に叩きつけた。

何やってんだあたし。

土曜日にも時間はあったはずなのに、ツイ○ターに引きこもった結果がこれである。

現在も『やばい小説出来てない』と呟いてる始末だ。

「散歩でも行って気分転換しようかな」

そうすればアイデアも湧いてくるはず、と少し現実逃避気味な言い訳をして、芣霖は支度を始めた。


***


清々しい程の晴天。散歩にはもってこいの天気だ。

とりあえず近所の公園まで歩き、ベンチに座る。携帯を確認すれば、先程の呟きに返事がきていた。


『俺も終わってないどうしよ』

『ワタシもよぷりりん先輩……』


T人間と部長の嫁□(大体誰かわかるだろう)からだった。

「お前らかよ、てか、お前らもかよ」

心底げんなりして携帯を閉じる。

ふと前を見ると、向かいのベンチに座っているお爺さんと目が合った。

「……なんか悩み事かい?」

「え、あの」

急に話しかけられた。芣霖はびっくりしたが、何だか優しい雰囲気のお爺さんに、気付けば悩みを話していた。

「小説書いてるんですけど、全然ネタが思い浮かばなくって」

「ほう」

お爺さんはにこにこと芣霖を見て答えた。

「お主が世の中に思ってる事とか、そのまま書いてみたらどうだね」

世の中に思ってる事とな。

 最近の若者は、人を指差して笑ったり年上に対して生意気な態度をとったり人を怪物扱いしゴミを投げつけてきたり(全て実話)とまったく教育がなっていない。人の欠点を笑っちゃいけませんと小学生の頃先生に習わなかったのか。それに公然マナーのなっていないことと言ったら。携帯見ながら歩くわそれでぶつかっても謝らないわ世の中教育方法間違ってんじゃないの? 大人でも引きこもってるくせしてTwit○

erで政府にいちゃもんつけてる奴やら人を誹謗中傷することに生きる意味を見出してるクズやらほんと終わってるわ。そもそも政府も意味わからん政策ばっかして民族問題とかを先に解決しろ! 警察は恐喝するわ証拠品なくすわ信用もクソもねぇな……………とまあ、 

「不満しかないんですけど…」

ほっほっほと陽気な笑い声が響いた。

「別にそれでもいいじゃろ、それも一つの作品じゃあないか」

……そうか。別に駄目とか決められてないもんな。芣霖には目からウロコだった。

「ありがとうございます、帰って書いてきます」

急いで立ち上がると、すぐさま礼をいい家へと向かって猛ダッシュ(と言っても体力がないので早歩き程度だが)した。

自分の思っていることをそのまま。何を書いてもいいのだ。愚痴でも不満でも、それもまた作品なのだ。

何だか書くのが楽しみになってきた。



……月曜日。作品があまりにも呪いの文になってしまった為、部長の鬼のような怒りと部員の引いたような視線を受けるのは、また別の話。


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