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世界の始まり方

 目の前にいる完璧なハイエルフ様の話をする前に、この世界の概要についてもう少し話をしよう。


 あの移行宣言から15年が経ったある日、再び管理者から人類へと通達があった。

 移行は順調に進んでいる、現状を維持していれば問題はない。

 そして今からこの地球を再利用する種族がやってくるから、仲良くするように。

 ざっくり言うとこの2つが主な内容だった。


 1つ目の内容は多くの人間を安心させた。

 あれから管理者からは何の音沙汰もなかったので、現状維持って本当にこんな感じでいいのだろうか?という不安が心の隅に常に付き纏っていたからだ。


 2つ目の内容は多くの人間を驚愕させた。

 再利用というのは以前に言っていたから受け入れられる。

 自分たちが新たなステージに移行するのだ、ならばここを新たなステージとして移行してくる存在がいるのだろうという推測は元よりされていた。

 けど種族ってなんだよ、人間じゃないのかよ、移行が終わってからじゃないのかよ?という驚きと、仲良くしろって言われたって、違う世界の人間かも定かじゃない相手と本当に仲良く出来るのか?という不安が生まれるのは致し方なかった。

 しかし腹を括る事に慣れていた人類は、管理者が言ったのだから仲良くしよう、死亡したくないしな!もし向こうが友好を拒否して襲ってきても移行するだけだし!と、案外すんなり受け入れ態勢を整えた。


 そうして各地に新たな人類となる存在が散見され始めた。

 それがハイエルフの彼女が前述したユグドラシアの住人達、こちらでの空想上の亜人達だったのである。

 森の深い地域にはエルフが、活火山近辺にはドワーフが、海岸にはマーメイドが、人が長く住んでいた家屋にはピクシーが、パワースポットとして有名だった場所にはフェアリーが、いつの間にか現れ、住み始めていた。

 出てきた人物達が空想上の亜人達だったのは良い方向で予想外でだった。伝承通りなのかも分からないのに、勝手知ったるといった感じで不安がかなり軽減されたのだ。

 大きな不安はもはや、言語どうしよう!という事ぐらいだった。


 しかしコミュニケーションの不安も速攻で解消された、彼らが誰でも使える意思疎通の魔法によって。

 魔法の登場である。魔法の、登場である!

 と、話が逸れそうなので、魔法については後日語ろう。


 会話が出来るなら何の憂慮もない。相手を知り、自らを知ってもらえば、大抵の問題は起きない。

 むしろその魔法のお陰で現状の世界がより良くなった。人が少なくなったのに、海外との交流は以前よりも増えたのだから。


 彼らの持つ魔法と技術、俺達の持つ科学と技術、互いに無い物を教え合い、補い合い、称え合う。

 人類と彼らの関係は時を経る毎に良好になっている。

 俺達現人類にとっての世界の終わりは、彼ら彼女らの新人類にとっての世界の始まりは、予想以上の幸福で満たされていた。




 さて、世界についての説明はこれぐらいでいいだろうか。

 次はもっとミクロに、俺と目の前にいるハイエルフ様について話そう。

 まず俺から。

 名前は世良望と書いてせらのぞむと読む。

 現在21歳の国の雑用係…じゃなくて異世界外交官なんてものをやっている。

 容姿も能力も人並みな俺だが、少しだけ変わった事情を持っている。

 それは俺が生まれたのが世界移行宣言の前日で、80億人目の人類、最後の人間として生まれ落ちた人間という事だ。

 そんな存在だからか、現在の技術群を頭と身体に叩き込まれたというのも他と少し変わっている部分かもしれない。


 野郎の説明はこれにて終了。これ以上は誰も望まないだろうし、そもそもこれ以上説明する内容がないです。

 では前にいるハイエルフ様について話そう。


 名前をアルストロメリア、ユグドラシア世界を統べる長の娘さん。つまり王女様である。

 ……改めてなんで俺の前にいるんですかねぇ。異世界外交官をやれとお国から言われましたが、ロイヤルファミリーの扱いなんて分からねぇ粗野な人間ですよ俺。

 まああれだな、最後の人間とかいう貴重っぽい肩書に案内役も世話役も全部押し付けてしまえ、という手抜きという名の悪意ですね、わかります。


 彼女について話せる事は多くない、つい先日引き合わせられたばかりだしね。

 外見について述べるなら、三日三晩褒める言葉を尽くして表せば彼女の美しさを伝える事が出来るかもしれない。

 今はそんな時間がないので、泣く泣く細部を抜かして特徴だけを述べる。

 金髪の長髪、完璧な造形のお顔、165という女性にしては長身でスタイル抜群。まあ理想のエルフ像を思い浮かべればそれが彼女である。

 しかし、一部が想像とは違うかもしれない。彼女は程よい美乳なのだ。微乳ではない、美乳なのだ。

 さすがハイエルフ!ただのエルフとはスペックが違うぜ!

 いや、エルフの女性には数人しか会った事がないので、エルフという種族が貧乳確定なのかは知らん。

 まあ、会った数人の女性は控えめであった。あっ、いや、性格がですよ?


 これ以上外見について語るのは危ない気がしてきたので、内面について。

 とは言え、会ってからの期間が短いのであまり情報はない。

 現実、現場を知っている完璧なお姫様という印象しかないな。



「ノゾム、今日はどういたしましょう?このままこの世界について教えて頂けるので?」


「それもいいけど、今度はアリアの仕事を手伝おう」


 アリアとはアルストロメリアの最初と最後を繋げた愛称だ。

 名前が長いので親しい人はアルとかメリーとか呼ぶ、ノゾムも略称で呼んでくださいと言われたので、結構長く悩んだ末、アリアと呼ばせてもらう事になった。

 そして彼女の仕事とは、こちらに移行してきたユグドラシアの住人の動向調査だ。

 王女自らそんな事すんのかと思ったが、ハイエルフでなければやれない仕事らしい。

 長く長く続く一族の統治で実証され続けているその高潔さから尊敬の念を抱かれているハイエルフ、全種族最強の魔法使いとして畏怖の念を抱かれているハイエルフだからこそ、彼らの動向を見るのならこれ以上の適任はない。

 もしユグドラシアの住人がどんなに酷い諍いを起こしていても、彼女が間に立てば、同じ席について話し合いの機会を設け、話し合った内容から彼女が裁定をし、その答えを素直に受け入れる。そんな土壌が既に出来上がっているのだ。

 なんというかハイエルフという存在は、俺の馴染みのイメージで言うなら水戸黄門のような存在なのだ。


「そうですか、でしたら富士山という場所に行きたいです。あそこはドワーフとエルフの領域が非常に近い場所なので、真っ先に視察に行っておきたかったのです」


 ああ、やっぱりドワーフとエルフって仲が悪いのね。

 しかし外交官として案内する場所が最初から修羅場とか、なんとも幸先不安だねぇ。

 まあこれもお仕事と思って割り切ろう。

 困った事は全部アリアに任せればいいだろうし。


「ではノゾム、行きましょう。私、車という乗り物で行ってみたいです」


 弾けるような笑顔を浮かべるアリアから顔を背け、


「はいはい、お任せくださいお姫様」


 俺は照れ隠しでぶっきらぼうに答えるのだった。

 早くあの眩しい笑顔にも慣れんとなぁ。

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