双子とリュウ
これは今から少し前の話だ。
雪の降る日の事だった。
もう飢えは限界に達していた。双子の兄妹は痩せ細って、殆ど骨だけの状態で心臓が動いているのが、不思議な状況であった。耳鳴りが強く鳴ったり、視界が歪んだり、寒さで感覚がなかったり、更には意識を失う時さえあった。
双子は生まれた時から貧困ではあった。だが幸せだった。裕福な人を羨ましいとさえ、思わなかった。両親も含め、四人で暮らす日々が兄妹には忘れられぬ大切な思い出だった。
しかし、あの闇が全てを変えた。
あれは真昼の事だった。ティーゼルは父親と畑仕事。ティエリは家で母親と料理をしていた。その時にあの闇が出現したのだ。
ティーゼルとティエリの目の前で、両親は命を落とした。父親は農具が、母親は包丁が闇の引力によって、胸に突き刺さったのだ。あの時、持っていたものが別の物だったら、という、もしもの話は考えても仕方がない。あの残忍な光景を二人は二度と忘れることは出来ないだろう。憎しみというより、恐怖でしかなかった。命を失うという事への恐怖。幼い二人には重過ぎる現実だった。二人は冷え切った父母の手の感触をいまだに覚えている。
ティーゼルとティエリはショックで気を失った。目を覚ますと、両親は消えていて、街はボロボロだった。運良く二人は闇に飲まれなかった。しかし、家は母親が吸い込まれたと見える跡形だけが残り、もう使い物にならなくなっていた。
二人は無事に再会を果たしたが、家には金目の物は何もなかった。荒れ果てた畑の食べ物も底をつき、街へ行っても、同じ状況らしく食料の価格が高騰していた。
兄妹は死を覚悟した。外で物乞いをしたが、勿論誰も恵んではくれなかった。凍え死ぬのか、餓死なのかどっちが先でもおかしくない状況だった。
そこに現れたのが、リュウ・アレクセイ。彼は二人に飲み物を与えてくれた。そして、リュウ自身の体内の貯蓄エネルギー、つまり化学エネルギーを魔法で熱エネルギーに"変換"し、温めてくれた。リュウは大変な目に遭って辛かったろうと同情してくれた。二人は涙を流し続けた。リュウは困り果てていたが、理由は何となく察していたのかもしれない。
リュウは来る日も来る日も二人の看病をしてくれた。だんだん固形物も食べられるようになってきた。しかし、そこまで尽くしてくれる理由はわからなかった。二人は生きる為に、それを断ることは出来なかった。
二人は元気になった。リュウにお礼を言うと、俺の好きで二人の面倒を見たんだから礼には及ばない、と別れを告げられた。
二人は彼と別れたくはなかった。
ここで別れてしまうと命の恩人への恩返しの機会が失われてしまうと直感したのだ。
そして二人はリュウに駄々を捏ねて、リュウも突き通していた信念もやがては折れ、二人の同行を認めた。
しかしながら、恩返しは出来ておらず、二人はリュウに迷惑を掛けてばかりであった。
朝ご飯をティエリが作ろうとして、真っ黒焦げにしてリュウに苦笑いされながら美味しいと言って食べてもらったり、ティーゼルはリュウの荷物を持つと言って、リュウの荷物を受け取ると重すぎて落としてしまい、中に入っていたものの幾つかを壊してしまった。そして、夜二人が寝るまでリュウは側で物語を話してくれる。楽しいお話。幸せなお話。いつの間にか眠りに落ちていて、起きると一番はやはりリュウで恩返ししようにも出来ていない。
それでも双子は諦めず、リュウへの恩返しをしようと日々努力している。
温かい大きな掌を、凍えきった小さな掌に差し伸べてくれた英雄への。