A knight〜動き出す夜〜
リュウは何故か一人で寝たいと言い出した。部屋は足りていたため、断らなかったが深い意味があるのだろうか。
「リュウね、いつも、一人で寝ようとするの」
恥ずかしながら声を出したのはティエリ。途切れ途切れだが、話しかけてくれたのは嬉しかった。
「そうなの?」
「うん。前は僕達が寝付くまでは一緒に居てくれてたんだけど、朝起きたらリュウが居なくなってるんだよね」
ティーゼルはティエリに比べて恥ずかしがり屋ではないみたいだ。でも声が小さい辺り、まだ緊張しているのだろうか。
「そう言えば、今まではホテルに泊まってたの?」
「うん、そうー。でも二つ部屋を借りてた覚えはないー」
「あ、あと、リュウが、昼寝したこと、見たことない」
何時、何処で寝ているんだ、あの人は……。
「リュウって不眠症とか?」
「違うと思うー」
「全くわけがわからない……」
毎晩寝てなかったら死ぬだろうし、寝てないことはないと思う。
「リュウのところに行ってみようかな」
と相談を持ちかけようとするが、二人は既に夢の世界に入ってしまったようだ。睡眠という欲求を抑えて話してくれたのだろうか。
そっと布団を二人に被せ、子ども二人用の寝室を出る。この子達を見守るために、私もここで寝る予定だが。
リュウの部屋に着く。
「リュウ、開けるよ?」
返事がない。部屋のドアを開けると、窓が開いているだけで、中には誰もいない。
どこに行ったのか。
スターリアの中心にある建物の中に、リュウはいた。ある人物と約束したからだ。ルシエ達の目を盗んで、二つの騎士の像が向かい合うようにして、机を挟んで壁に密接させてある他、必要最低限の物しか置いていない整った部屋である。
「マッシュ市長、こんな時間に申し訳ないです」
リュウが建物に入ると、呼び出した小太りの人物が豪華な椅子に座っていた。
「いえ、ご配慮ありがとうございます。ところで用件は何でしょう」
「もしアルカディアと国交を結んでいるなら、関係を絶っていただけませんか?」
リュウがアルカディアという言葉を口にした刹那、マッシュの眼光が鋭く光る。
「ほう、その訳を問わせていただきましょうかな?」
関係があることを否定しない。リュウは一度呼吸をして、姿勢を整えた。
「まず、アルカディア以外が破壊されかねない。アルカディアの権力は今や他の町も迫害されている。事実として私の国もそうです。知っていますよね。
自国の利益のために他の国まで侵略、植民地化としている時点でいつかこの世界は滅びる。一つの国に統率されたとして、一つの国が世界を統率できるわけがない。どこかで綻びが生まれ、人類は絶滅の一途を辿るでしょう。
二つ目はその理由から派生するものですが、このままこの世界の産物を使ってしまうと滅びる。ただでさえ、世界最高の軍事力を保持するアルカディアだ。そのアルカディアに塩を送る行為は世界にとって不利益です。
三つ目はこの国のためだ。全世界を巻き込む戦争が起こったとき、アルカディアは各国から仮想敵国と扱われ、味方をしているスターリアまでも巻き込まれかねない。寧ろ先に狙われるとストレートに言えば良いのかな。物資供給源を叩けば、いつかスターリアもボロが出る、とね。
まぁどの国にもそんな勇気はないだろうが」
最後の一言は聴こえないように言った。一連の話を聞き、マッシュは少ししてからアンサーを出した。
「申し訳ないことですが、我が国の繁栄のためには聖なる国との交易がないと生きてはいけない。
この町を統治する者としては国民の安全な暮らしが先決なのです」
リュウは蝋燭を消すような溜息を吐いた。
「このままその状態が続けば、どちらにせよ、この国は潰れますよ」
「では、戦いを始めたとして、勝利を手に出来るのでしょうか。
今、生き延びる可能性を上げるか、下げるかの問題なのです」
「物資供給さえ無ければ、我が国は此処まで荒廃はしなかったでしょうね」
リュウの顔は月明かりに照らされた復讐に満ちた獣の顔だった。
「そういうのであれば、お引き取り願おう。 私の国も闇の被害にあった。
まず自分の国の利益を考えるのが、国を治める者の道理ではないでしょうかな」
リュウは嗤った。
「そうですね。貴方にはわかってもらえると思ったのに、残念だ。失礼します」
「いえ、お会い出来て光栄でした」
素っ気ない握手を交わし、真夜中の対談は終わった。
「リュウ!」
ルシエは手を振りながらリュウに近づく。
「あぁ、ルシエか」
「探したのよ、どこにいたの?」
リュウは少し驚いたような顔つきをする。
「少し夜風に当たってたんだ。基本寝れない体質でね」
勿論嘘だ。全く違う。だが、この少女は簡単にその嘘を信じた。出会って間もない人間を容易く信じるものではない。
「そう。夜になると狼になるーとかだと思って焦った」
ルシエははにかむ。この少女を信頼しているわけではない。ただ、純粋無垢なところがある。リュウにとって、口先だけが通じるのは好都合だった。
「そうかもね」
リュウは不敵な笑みを浮かべる。
「え?」
ルシエの表情が急変する。揶揄うのもここまでにしよう。
「冗談だよ。さ、戻ろう」
「冗談きついよー」
暗い夜道を二人肩を並べて歩いた。
それは出会った日が過ぎ、次の日になっていた。また一日が始まった。長い長い一日が。
NGシーン
ルシエ「ドアを開けるよ〜」
ガラッ。
リュウが部屋でいたのでは無く、得体の知れぬ鶴が部屋で機を織っていました。
鶴「カッタン、カッタン」
ルシエ「……」
バン。