垣間見える闇
結局、狭苦しいルシエの家で泊まることになった。
「いやー、とても有り難い。変に街を出歩くと目立つもんでね」
「「「十分目立ってた」」」
子ども二人と声が同調してしまう。二人は驚き(とは言ってもルシエも少なからず驚いたのは確か)、顔を赤らめた。恥ずかしがり屋なだけなのであろうか。
「あ、そうだ。自己紹介がまだだったね。
僕の名前はリュウ・アレクセイ。呼び方は任せるよ。ただ、堅苦しい敬語とかはやめてほしい。
このちびっ子は、男の子がティーゼル・ホワイト。女の子はティエリ・ホワイト。双子の姉弟だよ」
ぺこりと、顔を合わせず、お辞儀する小さい姿はとても可愛らしかった。
「私も言ってなかったね。改めて自己紹介するね。
はじめまして。ルシエ・ジャンク。ルシエでいいわ。よろしくね」
「ああ、よろしく。
少し質問させてもらっていいかな」
リュウは崩した姿勢で体を近づけてくる。厚かましいというわけはなく、周りに聞かれてはならないという様子だ。
「なんなりとお答え致しましょう。でも、まず、私の質問を一つ答えてほしい。その様子じゃ、他の人に聞かれたくない話をするんでしょう?私をどうして信頼できると思ったかを教えてくれる?」
質問に対して、ニコリと彼は微笑む。
「そのことか。特に意味なんて無いよ。強いて言えば、すぐに謝ってくる態度とか、正直そうなところかな。あと身分を気にしない態度が好印象ってだけかな」
「身分……。あぁ、あああ。すみません。私、平民なのに」
ルシエは醜いモノに姿を変えるが如く、縮こまる。
「いやいや、かしこまらない方が良いんだ。それに身分なんて関係あるかい?
じゃあ、今度は僕の質問をさせてもらうよ。このスターリアは、アルカディアを"聖なる国"と呼んでいるかい?」
質問の訳がわからなかった。
「呼んでるところを聞いた覚えがないわ……残念ながらね」
「そう、なら何か外交はしてないのかい。例えばこの地の特産物とか」
私は考えた。ルシエの家は農家だが、そういった物を輸出するとは聞いたことがない。だが、特産物は輸出するのだろうか。
「わからない。でもこの地の特産物は"ファミニウム"が採取されてる。有数の国でしか取れないし、可能性はあるかも」
「なるほどね。市民は知らない。確実だ。
この国は“黒”。いや、マッシュ市帝は少なくとも黒。何も知らない者に罪はないな」
彼の目が一転した。和気藹々《わきあいあい》とした目が真剣な眼差しに変わる。まるで家族を愛するライオンが餌を狩る鬼気とした猛獣に変わるようだった。背筋に寒気が走った。
「ごめん、君には関係無い話だったね。忘れてくれ」
そう思ったのも束の間、彼はいつも(とは言っても会って間もないが)の顔に戻った。
この人は何者で、どういった過去があるのか。あの憎しみに満ちた目はルシエが今まで見てきたものの中で、最も恐ろしいものだった。
NGシーン
リュウ「僕の名前はリュウ・アレクセイ。
このちびっ子達が…………えーと…………どっちがどっち?」
一同「「「おい」」」