The last of us
リュウの名前を聞いて以来、ドロシーの表情が強張っている。場の雰囲気にも緊張が走り、双子もルシエの背後に隠れる。数秒の間でも、長く感じられた。その重苦しい間を切り裂いたのはドロシーだった。
「あなた達、アレクセイと仲間だったの?」
低く重い声色でドロシーが聞く。
「そう、だけど、知り合い?」
その返答に、更にドロシーは声を低くし、怒号を飛ばす。
「知り合いも何も、腐れ縁よ。国同士のね。私が幼いとき、彼の国の侵攻によって私達の国を半壊にさせた。恨むべき相手よ」
その勢いに気圧され、ルシエも答えに苦しむ。リュウの過去もリュウの経歴も、ルシエは詳しく知らない。しかし、仲間として世界を救う信念は常々感じてきた。そして、背中に隠れている双子の命も救ったと聞いている。そのような人物がルシエは偽善者だとは思えなかった。
「いや、そんなはずはない。リュウは一国の王子だけど、そんな所業をするような人じゃない。他の国を壊すなんて……彼はこの世界を救うために立ち上がっているのに、そんなことをするはずがない」
そんなのお前の主観だと吐き捨てるかのように、ドロシーは続ける。
「だけど、事実よ。リュウ・アレクセイがしなくても、彼の父親が手を汚したんじゃないの?」
「わからない。だけど、彼は予言の一人として、世界を変えようとしてる。あなたが気に食わなくてもいい。フラキエスで最後の一人を見つけたら、私達はいなくなるから。それで満足でしょう?」
ドロシーは首をゆっくり横に振った。綺麗な金髪が横に揺れた。
「残念ながら、私が予言の最後の一人。ドロシー・イスアークよ」
ドロシーは手に付けていた手袋を外し、手の甲をルシエに見せる。確かに、そこには紋章が刻まれていた。
「あなたが……最後の一人?」
ルシエは目を大きく開いた。後ろの双子も、ルシエの服を強く掴むのをやめて、少し顔を出していた。
「私は国立魔法学校の一人の生徒であり、この国の王の娘の一人よ。私は魔術の研究をして、その真髄を知りたい。そして、この国に貢献するのよ、一国の王の娘として。旅に出て、死ぬなんて嫌よ」
ルシエは鬼気迫る彼女の声色のどこかに迷いを感じていた。その迷いの正体はわからなかった。しかし、ルシエは思いの丈をすべて語った。
「……本当にあなたは旅に出たくないの?」
その質問にドロシーは顔をしかめた。
「何よ、いきなり。わけわかんないよ、そんな質問」
ルシエは気にせず話し続けた。
「私はこの世界を知りたい。魔術を学校で学ぶものとして、この気持ちはきっとわかるはず。私は学校には行ったことがないけどね。ずっと社会から隔絶されたところに住んでいた。まるで、箱入り娘のように。
だけど、リュウがそんな私を世界に導いてくれた。楽しいことばかりではなかった。でも、知らないことがそこには広がっていた。私が無知であることを知ったわ。知らないことを知ることは自分を惨めにするものでもある。でも、それ以上に、知識は、人の夢は人を突き動かす原動力になる。あなたはそれを知っているはず。
それに、あなたの力があれば、きっと世界を救える。この世界を救うことはフラキエスを救うことではないの?」
今度はドロシーが気圧されていた。ルシエの瞳の煌きは、昔の自分を照らし出しているように感じた。知識を得て喜ぶ少女を思い出させていた。返答するドロシーの声色には、もう覇気はなかった。
「……私はそれでも行かない」
ドロシーは逃げ出すように、グランドスカイクロスに乗って、どこかに飛んで行った。