六王会議
同刻、魔法都市フラキエスの地下深くにて、知られざる会議が行われていた。六王会議。権力を持つ六つの国の王が集結する。
「……わかった。下がれ」
従者の一人が一国の王に伝言を告げる。
「聖王イスアーク。一体、この国で何が起こっている?」
そう質問するのは、スターリアの市帝マッシュ・ムータ。
「スターリアの一件以来、行方不明だったリュウ・アレクセイがこの国で発見された」
聖王と呼ばれた男が端的に応答する。
「……なんだと? それはこの会議に参加するためか?」
「違う。アレクセイはこの会議には招聘されていない。スターリアの一件までは生死不明だったからな。
どうやら、この会議で手薄になった警備を狙って入国してきたらしい。この地下の警備にあたる人材のいくらかを地上に行かせた。だから、心配しなくても良かろう。アレクセイを保護するのは時間の問題だろう」
聖王は冷静に事実を伝えると、一人の男が高らかに笑い出した。
「流石、私が認めた男だ。こうでなければ、面白くはない」
その男はアプエスタールの王、フェルディナンド。
「アプエスタールを訪れていたのか!」
「なぜ、自国に来たことを公言しなかった。リュウ・アレクセイは"亡国の王"。一刻も早く、彼を保護し、彼を止めなければならない」
「そんなことはどうでもいい。あいつは好きにさせておけ。でなければ、世界はつまらない」
声が機械音声のようになっている王は自身の願望を言い放つ。
「機王、戦争は憎しみしか生まない。そんなことをしようと六王会議を開いているのではない。世界の安寧のためだ」
「聖王イスアーク。お前は事勿れ主義なのは知っている。だが、行動を起こさなければ世界は変わらない」
機王と呼ばれる機械仕掛けの人間に、冷静沈着を装っていたイスアークは怒りを露わにする。
「戦争は起こすものではない! 起きて何がなくなる! 民だ! 民は消費するものではない! 民は守るためにあるものだ! 民無くして、世界の復興はありえない!」
「その考えが若いんだよ、イスアーク。戦争はカジノなんかの娯楽よりも莫大な金が動く。また、戦争は全ての技術も発展させる。そうやって、人間は進歩してきただろう? 戦争を起こして、世界を元に戻せばいい。
なぁ、機王、戦争を起こしたければ、私が資金を集めよう。だが、取り分は山分けだ」
フェルディナンドの表情からは不敵な笑みが溢れる。
「面白い。ならば、俺の国では武器を調達しよう」
機王と呼ばれる人物はフェルディナンドの謀略に嬉々として便乗する。
「……剣王エトワールよ、なぜ口を慎んでおるのか」
ムータはこの場で唯一、一度も口を開いていない王に静かに話し掛ける。その老成した男は表情一つ変えずに、応じる。
「あなたこそ、法王ムータ殿。世界の法とも言える、法王の存在が黙っていては、世界の法が失墜したと言っても同然。あなたが話すべきです」
「もう話し合いでなんとかなる場ではない。戦争が起きれば、法律など関係がなくなる。交戦的な王が戦争を勃発させようとしているのであれば、話は尚更複雑怪奇だ」
もう手遅れだと言うムータに、エトワールという人物はやれやれと言った表情を浮かべる。
「この場は一度、剣王である私が預かる。異論は認めない。反論するようならば、私の剣でその舌を斬り伏せよう」
剣王と呼ばれる人物は自身の一尺ばかりの鞘に納められた剣を持ち上げると、誰もが口を閉じた。
「まず、アレクセイとアルカディアとの戦争は一切起こさせない。それは、この場の六王の誰一人として手出しは許さない。私が手出ししたときには、自分の腕をこの剣で斬り落とそう。
そして、アレクセイは確保すべきだ。彼を放っておけば、戦争に繋がる。彼は一切の罪は背負っていない。彼は被害者でしかない。だが、彼は報復で盲目になっている。止められるなら、今だ。この国に、王が揃っている今、彼を止めよう」
その男の言葉は希望を彷彿とさせるものだった。しかし、希望の中に絶望が生まれる。
黒い煙のようなものが会議の場に滲み出てくる。その場の王は全員がその存在を知っていた。闇のポータル。その中から、一人の怪しい男が現れる。細い肉付き、痩せて角ばった頬、長細い腕、長い体躯、黒いスーツ、どこを見ても弱々しい見た目をしていた。しかし、誰一人として、その男に勝てるビジョンが見えていなかった。剣を振ろうとも、剣が折れる。機械で撃ち抜こうとも、銃弾が跳ね返る。魔法でねじ伏せようとも、その魔法は無効化される。その未来しか見えなかった。
「そうはさせないよ、エトワール・グランクロワ。
折角、アレクセイが動き出して面白いところだったのにさ。君が動くのは『物語』通りじゃないんだよねぇ〜。
消えてくんない?」
「……冥王!」
「あぁ〜、そのあだ名は割と気に入ってるんだよ。ありがとう、剣王。
さて、この会議は俺が来て、お開きお開き。さぁ、みんな帰る支度はできたかな? まだ、できていない悪い子はどこかなー?
おっと、一人だけ波動が違うなあ。やっぱり君か。エトワール君」
誰一人として、その場に逆らえる者はいないかに見えた。剣王を除いて。『希望の星』という異名を持つ剣王は屈することなく、立ちはだかろうとする。
「お前の好きなようにはさせない。この世界の悪で満たさせやしない。世界は燦然たる光の下にあるべきだ」
「その表現も好きだなあ。君は剣王ではなくて、詩王とかはどうだい? オレにそんな剣で勝てはしないだろう?」
「やってみるか? 冥王。俺は構わない」
エトワールは目を見開く。その凄みは見られただけで、石に変えられたように固まりそうなほどのものだった。その場の空気はビリビリと音を立てているようで、その場の誰もが戦慄していた。
「……残念。お前とやるには、時期尚早だ」
剣王の凄みに対抗するかのように、飄々としていたスーツ男も応じる。その威圧感を捻じ曲げるように、異質な空気になった。重力が反転したかのうような違和感。
「サーティーン、解放」
負けじと剣王の剣がまばゆい煌めきを放つ。まるで、この世の全ての希望を求めるかのうように。
「させないよ」
しかし、その希望をへし折るかのように、五つの黒い煙が現れ、五人の王を包む。すると、五人の王は別々の場所に消えた。
「お前の野望を! 必ず! 根絶やしにする! その時を待っ……」
「オレの遊戯が台無しになるところだった。さて、アレクセイの動きでも見ようか。イッツショータイム」
裏話
リュウ「今回は登場シーンなしかと思ったら、ここでか」
テロップ「作者は『前回投稿から二年も空白の期間を作るつもりはなかった。プロットをなくして、方向性を作り変えるのに時間が掛かった』と供述している」
リュウ「早よ作れカス! メインキャラだから、分岐エンドを作ろうとしてたことも知ってるけども! とりあえず、作者は地の文作るのめんどくさいという理由で、会話文だけ書いて下書きに放置するのはやめましょう」