三大流派
「さて、フラキエス名物の空飛ぶバイクよ。通称グランドスカイクロス。空陸両用のバイクだから、こんな名前なのかな? 誰か運転できる? 私のところには二人まで乗れるけど、それ以上は乗れないの」
その質問にジンはイキイキと返事をする。
「俺はちょっとだけならできるぜ。おい、ちびちゃんズ、ヘルメットかぶれ。俺の運転だ。楽しいぞ?」
ティーゼルは少し考える。そして、ジンの性格からして、彼の運転は不安と踏んだようだ。確かに、暴走運転しそうだもの。
「ティエリはあのお姉ちゃんのところに乗って」
「う、うん」
「おっと、ちびちゃん姉は嬢ちゃんのところか。まあ妥当な判断だな」
ジンはヘルメットとグローブを着用する。その手つきは手慣れていた。ルシエもそれを真似して、ヘルメットとゴーグルを着用し、ドロシーのグランドスカイクロスに乗り込んだ。
「ちびっこ、ちゃんと俺の腰にしがみつけよ。万が一、落ちたら、悪い。だからシートベルトしとけよな」
ジンの言葉に怯えながら、ティーゼルは元から白い顔をもっと青白くして手を震わせながらヘルメットとゴーグルを着用していた。
「冗談だ、怯えた表情をするな。ちゃんと風魔法でクッション作ってやるよ。間に合えばなぁ!」
ジンがそう言った瞬間に、ドルルンッとモーターが唸りを上げる。と同時に、機体が宙に浮く。そして、今まで溜めていた力を解き放つように、ロケットスタートを切る。風を切るような凄いスピードで、耳には空気が通り過ぎる音が鳴り響いていた。
「わぁ、凄い……!」
市街地にいた時は小さく見えていた時計塔が間近で見え、ルシエ達はその緻密な建築、そして壮大さに魅了される。
「魔法を使いながら空中に浮いたことはなかったが、確かに不思議な感覚だな。目が見えていたら、まるで映画のワンシーンみたいなんだろうな」
先程まで地に足をつき買い物をしていた市街地が真下に広がっている。まるで箒に跨って空中を自由に動き回る魔法使いになったような気分だ。ジンが言うように、映画のワンシーンのような、夢の光景だった。
「それにしても、随分嬢ちゃんは魔法が達者だよな」
「あなたもね」
ルシエはドロシーが卓越した魔術を使うことに疑問に思った。
「この国では他の人もそうなんですか?」
ただの一般市民が魔法を巧みに操る国なのだろうかという素朴な疑問。その疑問をルシエは聞かずにはいられなかった。
「ここら一帯はイスアークの魔術を使う人が多いからね。フラキエス国立魔術学校ではイスアークが代々紡いできた魔術について教わるの。イスアークは統合的な魔法を使うからね。三大流派全てに通じてる人が多いのよ。私もその一人」
「三大流派って、なんだ?」
ジンはポカーンとした表情でドロシーに聞き返す。すると、ドロシーは驚きを隠せず風の音に負けない大声を出す。
「えっ、あなた、三大流派も知らないで、この人の体を物色するようなアイジェスとケラウノスの合わせ技使ってたの!?」
「……いや、物色するって失礼な。貧乳なんだから見られても困らねえだろ。
これは兄貴から魔法を教えてもらってただけだし、よくわかんねぇ。感覚で使ってたわ」
ドロシーは先程の倍以上の声を出してジンを叱る。
「貧乳って失礼な人ね! 少しはあるわよ、少しは!」
「少しは、ねぇ」
ルシエも知らぬ間に物色されていたことを怒りつつも恥ずかしい気持ちになっていた。そして、ジンがニヤニヤしていることに腹が立つ。ルシエは心の底で、「なんだこの変態盲目野郎」と思っていた。
「知らないなら、しょうがないな。説明してあげる。
イスアークの魔術は正統魔術って言われてる。これはアイジェスという魔法に重きを置いてる魔法を使うの。これはあなたが使う魔法では人の位置を感知する五感を強化する役割を果たしているの。簡単に言えば、強化魔法がアイジェス。肉体や精神、その他の物体、様々なものを強化するの。概念を強化はできないけどね。
次は昔から続くアカシック。この魔法がなければ、他の魔法はできなかったと言われてる。これは魔法に必要なコストを生み出す魔法なの。あとは死者を蘇らせるネクロマンスと呼ばれるものも、アカシックに入るね。ただ、その死者は生きていた時の原型なんて留めてない骸骨だけどね。
そして、最後はケラウノス。これは火、水、光、闇、木、氷、雷などの自然界における力を生み出す魔法。あなたが風を起こしてたのはこの魔法。ただ、エネルギー効率が悪いから、本当は正統派な力なんだけど、他の流派より少し劣ってるね。
最近は機械と魔法を組み合わせるハイブリッド型が上昇気流に乗ってるみたいね。名前はフィアセロって言ったかしら。私も詳しくは知らないんだけど。
……って聞いてた?」
ジンはまるで聞いていなかったかのような腑抜けた声を出す。ティーゼルとティエリに至ってはずっと景色を眺めていた。真剣に話を聞いていたのはルシエだけだった。
「……へぇ、長い説明ありがとよ。ま、理解できたところでって感じだけどな」
長い説明をしていたドロシーは怒りを隠さずにジンを罵る。
「あんたねぇ、この魔術の学問を進めていったことで、魔法陣や詠唱なしで魔法を使えるようになったのよ? 少しは感謝しなさいよ」
「感謝しろったって、別に嬢ちゃんが発明したんじゃねぇんだろ? 知らねぇおっさんにゃ感謝しねえよ。俺ァ、お偉い爺さんと調子に乗った奴は嫌いなんだ」
「んー、まあ、それに関しては同感ね。偉いからどうって話ね」
出逢ってあまり時間は経っていないが、まるで今まで友達だったかのような、喧嘩したり同調したりする二人の関係にルシエは少し憧れのようなものを感じていた。それはリュウとルシエにはどこか心の距離を感じているからでもあった。
「ガシャンッ」
突然、乾いた破壊音がする。まるでプラスチックを地面に落としたような。その音がした方角は真上。現在地より高い場所はそう、時計塔の上しかなかった。
「なんだ? 時計塔の上の方のガラスが割れたぞ」
飛来してくるガラスに遠ざかるように二人は運転する。
「あれはぁ……人?」
ガラスが割れた窓から人影が飛び出してくるのが見えた。
「変身したっ、ジン、あれはリュウよ!」
ルシエは目を細めながら、その人影を見ていた。そして、翼をはやした生物に形を変えた瞬間、その状態を把握できた。
「リュウって、あのリュウ・アレクセイ?」
「そうだけどよ。嬢ちゃん、とりあえずちび助頼んだ。俺はあいつを助けてくる。あいつ一人だと嫌な予感がすんだ」
ジンは自分勝手にティーゼルのシートベルトを外し、ティーゼルを掴んでルシエ達の乗っている機体に向かってティーゼルを放り投げる。
「うわ、うわぁぁぁぁあ!!!」
ティーゼルは青ざめた表情で数秒空中を泳いだ。
「いや、なん……ってもう! 人の話を聞きなさーーーい!!!」
ドロシーは空気のクッションを作り、ティーゼルを救う。これはドロシーが言っていたケラウノスだとルシエは断定できた。そして、同時に彼女が超人的な魔法使いであることがわかった。
NGシーン
ルシエ「わぁ、凄い……!」
ジン「まるで○ティーブン・○ピルバーグの映画みたいだな。ジン、オウチカエルーー!!!」
ルシエ「自転車で空飛んでないからね? バイクだからね?」
ジン「バイクって英語では自転車だろ」
ルシエ「確かに」