魔法都市フラキエス
炎と氷の国、フラキエス。フラキエスと言えば、と道行く人に尋ねるとほとんどの人間が決まってこう言うだろう。「魔法」だと。
どの国よりも魔法の技術が発達している。
但し、その質問への答えがもう一通りあるとすれば、「あんな所行く場所じゃない」だ。
そう、あの忌まわしき血塗られた時代の発端の地だからだ。そして、我がウェドニア国と犬猿の仲、イスアーク家の拠点も然り。しかし、最後の英雄はきっとイスアーク家の彼奴に違いない。
「おい、リュウ。そんな険しい顔すんな。折角の休息だぞ」
今現在、リュウ達がいるのは潜水艇の中。海水中の塩、つまり塩化ナトリウムでの発電、というわけではないが、現代技術の中でも最先端のものが搭載されているらしい。リュウの専門外の理系分野の応用は、到底理解しようがないので、説明されても馬耳東風だった。
「いやぁ、フラキエスって怖いじゃん?」
「このチビ二人でさえ、超楽しみにしてるんだぞ?少しは好奇心持ったらどうだ」
そうジンがいうと、にこにこしながら双子は仲良く反応する。
「料理マズイんでしょ!?」
「霧で前が見えなくなるんでしょ!?」
「なんか、好奇心持つところおかしくないか?」
ティエリとティーゼルはジンに何を仕込まれたのだろうか。
「旅を楽しむのは大いに結構!お前は英雄って名前を背負いすぎなんだよ、なー、チビども」
「「うん!」」
人見知りのティエリとティーゼルは、一日でジンと仲良くなったらしい。ルシエとは数日間口を聞けなかったのに。まあ、今となっては彼らの良きお姉さんのような存在になっているから、良しとしよう。
「どっちかというと、こんな風に、海を堪能出来る此処に居たいよ。俺にとって、フラキエスはトラウマでもあるからね」
今、ルシエ以外が居るのは、潜水艦に設けられている、アクアリウム。どうやら、アプエスタールの皇帝フェルディナンドは、国中で一番の潜水艦を用意してくれたようで、そんな娯楽施設が完備されているのだ。
「確かに、此処に居ると落ち着くな。しっかしルシエは?」
「船酔いで寝込んでる。普通の船ではそうでは無かったのに、潜水艦になって気持ち悪くなったんだって」
「そりゃ可哀想に。あとでイジリに行こっと」
そんな話をしていると、アクアリウムのドアが開く。搭乗員の一人、ヤンだった。
「失礼します。そろそろフラキエスに到着します。ご準備を」
「もうですか。早いものですね。わかりました。伝達、有難うございます」
ヤンが出て行くと、双子が瞬時に準備をし始めた。気が早い。
そして、皆で揃ってルシエの元へ向かう。
すると、ルシエは青ざめた顔で苦笑いを浮かべて立っていた。
「寝てていいんだよ?」
「いえ、一刻も早く此処から出たいから」
リュウはルシエの身を案ずるが、ルシエはどうやら閉所が苦手なようなので、そういうわけにもいかないらしい。
「じゃあ、今回はルシエ、ジン、ティエリ、ティーゼルは自由行動してて。俺一人で用件を済ませるつもりだ」
ジンとルシエは一人で行かせまいとしようと反論しようとする表情は浮かべるものの、何か理由があるのではと思いとどまったようだ。
「着きました!」
潜水艦のエンジンが完全に止まり、潜水艦のハッチが開く。双子、ルシエ、ジン、リュウの順番で外に出る。
開けていた景色は、壮大であった。街のど真ん中に大きな時計台があり、その四隅をペガサスのような銅像が配置されている。
街も賑わっており、トランペット、ユーフォニウム、トロンボーン、ホルンなどの金管楽器で心が踊り出すようなロンドを奏で、それに合わせて民衆も踊っている。
「綺麗……」
感嘆の声を上げたのは、ルシエだった。
「「ルシエ!ジン!行こ!」」
双子が、ルシエとジンの手を掴み、街中へと走って行った。ジンも彼らを追っていく。
「懐かしさに浸っている場合でもねえな。さ、俺も行くか」




