ウェドニアの執念
リュウSIDE
「その程度か、ウェドニアの王よ」
リュウの頭を、レイオスが踏む。もうヴェロキラプトルになる気力も無い。
「俺の負けだ……レイオス」
「なら、死ね!」
何とか、体を捻り、レイオスの振り落とすナイフを避ける。
「おいおい、まだそんな体力残ってんのか、よっ!」
「がはっ……」
レイオスの蹴りが、リュウの鳩尾に入る。
「お前が死ねば、他の奴等は許してやるからさぁ〜。もう面倒臭いんだよねぇ」
「なら、どっかいけよ」
「いやぁ、殺していかなきゃ、俺達のリーダーのユリウル=マルク様に迷惑じゃねえか。折角リュウ=アレクセイを殺せるってのによォ」
「殺せるもんなら、殺してみろ。ウェドニアの執念で、逃げ切ってやる」
「そんなボロボロの体で何処まで逃げれるのか、なっ!」
また蹴りが鳩尾に入る。口が鉄の味で満ちて、気持ち悪い。
「そんな泥臭い執念は要らないんだよねぇ。もっと、熱い勝負がしたかっただけでぇ、今のお前みたいな虫の息の奴とは全く楽しめないんだよねぇ」
「……そんなの、知るかよ」
リュウは最後の力を振り絞って立つ。リュウはふと、思い出した。ルシエの、任せたという言葉を。
「へぇ、まだ立てるんだぁ。なら早く立って。影で殺すから」
ルシエ、ジン、ティエリ、ティーゼル。今、リュウが死んでは彼等が困る。英雄達のリーダーとしての、役目。それを果たさなければ、英雄に選ばれる価値もない。
「……フォルムチェンジ、プテラノドン」
太古に生きた翼竜、プテラノドン。鳥類と爬虫類の丁度中間の存在。空を飛ぶ為の翼や鋭利な嘴を持つ。
「空を飛べたからって何だ?お前にはもう体力が無い。飛んでいるのを追いかけ回して仕留める事だって出来る」
プテラノドンに化したリュウは、翼を自暴自棄になったように振り回す。
「何だ?仲間が来る時間稼ぎの為に、やぶれかぶれの攻撃か?舐めるんじゃ、ねぇよ!!!」
翼を掻き回すリュウに向かって、レイオスは、蹴りを入れてくる。
ーー掛かった。
レイオスの足が、異次元の魔獣に刻まれたように裂け始める。
「ぐっ、いってぇ!!なんだこれは!?」
「お前の、負けだレイオス。完全なる詰みだ」
リュウはフォルムを解除しながら、レイオスに言い放つ。
「何をした、テメェ」
リュウは指をパチンッと鳴らす。すると、レイオスは身体中が切り刻まれた。
「な、なんだ……と?」
レイオスは血塗れで、足を切れていて、立つ事も出来なかった。
「ウェドニア奥義の一つ、鎌鼬。これは、出来るだけ奥の手として取っておきたかったが、お前への賞賛だ、レイオス。
そして、お前も俺を殺さなかったから、俺もお前を殺さないでおくよ。次会ったら、命は保証しないが」
鎌鼬、それは未だ何故起こるか解明されていない現象。説として、冬に起こるため、旋風、真空、寒冷、電気などが考えられている。
リュウはそれを魔法で擬似的に起こした。これはウェドニアに伝わる奥義の一つで、風を体全体で巻き起こし、その風を七つの定石のうちの一つ、ベクトル"変換"で全てを合成。すると、微風が突風と変わり、体を刻む。
「最後に、ウェドニアの執念、舐めんじゃねえよ。そんなに殺したければな、俺の恩人でもあり、現アルカディア7幹部主席ジャッカルを呼べとマルクに伝えておけ」