欠陥だらけの最強の布陣
アプエスタールのカジノ街から少し離れた森林に入る。
「本当にここらで良いのか?」
確かに、レイオスの襲撃に遭った時は、木に紛れて逃げやすいのだが……。
「この森の中心部に、湖がある。そこの水で良いんだろ」
「まあ、毒入りで無ければそれで十分だ」
「レイオスって何者なの?」
「アルカディア7幹部の一人、影の暗殺者と呼ばれるレイオス。奴は影を操る魔法を使う。幹部の中でも三本の指には入る強者だ。確か、アルカディアの暗殺部隊を取り仕切るリーダー格の一人だったはず」
「それぐらい、私達の存在がアルカディアの邪魔になってきているという事ね」
「ポジティヴに捉えればそうだが、ネガティヴに捉えれば、これからはもっと警戒レベルを上げなければならない、という事だ。今のような事が無いようにね。
ところで、ジン。君は暗殺の標的では無いのに、俺達の味方をしてくれるのか?もうこの先に湖があると知れただけでありがたいよ。逃げてくれても良い」
「何馬鹿言ってんだ。カジノであんなもん見せられたら、同じ未来を見てみたくなるだろ。俺もお前達に着いて行く。お前らが何と言おうとな」
ジンはそう言い放ち、笑った。
「予言によると、世界平和を手に入れたら俺達は死ぬぞ?それでも良いなら、共に行こう」
リュウは皮肉を含みつつ、返答する。ジンが仲間になる事は、こちらにもメリットが多い。あの双子はデメリットもあるが、ジンは百人力だ。いや、一騎当千の実力があると言っても過言では無い。
しかし、レイオス相手には少し相性が悪い。レイオスは影を操る事だけでなく、自慢の脚力がある。リュウ、ルシエ、ジンの中で一番レイオスとの相性が良いのは、リュウ自身に違いはあるまい。
しかし、現在リュウの持っている武器は無い。その上、リュウの愛馬のワルキューレもこの場には居ない。
「なら、最善の策は、防陣を組む事しか無いな」
「防陣?」
ルシエが不思議そうな顔をしている。
「ジンが先頭に立って、ルシエは後ろで盾を作る。そして、俺が隙を突いて倒す。簡単に言ってるが、これは全員の息が揃わないと出来ない……だがこれに賭けるしかない」
「それじゃまだ不完全じゃないか?」
ジンの言う通り、真上ががら空きなのだ。上から奇襲されたら、全てが終わる。リュウも動物に変化する技を使ってフォローはするが、攻撃は地上よりも劣る。
「……そうなんだよ。俺は、残り一人の英雄が誰だか知ってる。そいつは次に向かう国にいるんだ。気に食わない奴だが、そいつが揃って、やっとこの防陣が完成するんだ。しかし今はそれを待ってる暇もない。今やるしか全員が生き残る方法が無い」
「しゃーねー、やるか」
最後の奥の手を見せるようなものだ。これで機会を逃せば、これからの旅は障壁だらけになる。
勝利を掴むしかない。




