Be ambitious
勝つには、合計で7か単発で7を引くしかない。それか引き分けでもう一度勝負を持ち越すか。
しかし、どちらも希望は薄い。
「……ルシエ、好きな数字は?」
ルシエはいきなり話しかけられて慌てふためく。
「な、7だけど!」
「じゃあ、利き手は?」
「りょ、両方使えるんだけど、基本左手を使う!」
「全世界人口の10%か。まあそんな事はどうでも良いんだ。俺は、俺から見て左側の7番目を引く」
「え、ちょっと待って!それで負けちゃったら、私のせ」
「ルシエのせいじゃないよ。今まで勝てなかった俺の責任だ。
それに今信じるべきは仲間だ。今は俺一人で戦っているんじゃない。俺は、ルシエとジンと戦っているんだ。ジンはこの場には居ないが、俺がさっき殺されそうになった時、守る素振りを見せてくれた。だから、今度は俺が仲間を信じる番だ。それで当たらなくても後悔は無い」
フェルディナンドはその会話を聞き、笑う。
「勇ましいな、青年よ。その態度だけでも、余は主を賞賛するに値すると思う。きっと主は、この勝負に負けたら、余には交渉しないであろう。余は主と同盟を組めずにきっと生涯後悔するであろうな!ハッハッハ!」
「本当に、貴方は肝の座った方だ。きっと、この先、運、神が汝に加護を与えて下さるでしょう」
今まで沈黙を保ってきたアルは、フェルディナンドに便乗する。
「ヒットォオオオオッ!!!」
そのカードを引きながら、高らかに宣言する。
訪れる静寂。物音一つしなかった。『眠らない国』のカシーノ・スエールテができて以来、声が眠ったのは初めてだった。
痺れを切らしたジンが二階からルシエのもとに走ってくる。
「おい、数字はなんだ!?」
誰も答えはしなかった。最初に口に開いたのは、フェルディナンドだった。
「おめでとう。お主の勝ちだ。
リュウ・アレクセイ。そして、ルシエ、と言ったかな。久し振りに良いものを見せて貰ったよ。若い者の全身全霊のその勇気を」
観客からは、今日一番の歓声が上がる。この建物が潰れそうな程の、振動。ルシエは閉じていた目を開けた。フェルディナンドとアルは予言していたような顔で笑っている。
リュウはカードを見る。
それは、なんと偶然にも二枚が重なっていて、よく見てみると、3と4を示していた。
「やったな!リュウ!」
ジンがリュウの肩に手を置く。
「ありがとう、ジン。そして、ルシエ。それだけじゃない。フェルディナンド皇帝、アルさん、観客の皆さん、ありがとうございました。
そして、迷惑を掛けましたね。全コインを貴方にお返しします」
フェルディナンドは不可解といった顔を浮かべた。
「主の用はなんなんだ。儲けることなど頭には無いのか」
「俺の目的は、できるだけ丈夫な潜水艦を一隻と、俺達に危機が迫った時、武器を提供し協力するという要望だけです」
「たったそれだけか?」
フェルディナンドは魂消たというような顔をした。
「はい。それが保証されるのなら十分です」
「フハハハハハハハ!!! 実に面白い奴だ!!! 気に入った。
ただ、今日はもう遅い。泊まっていくといい。武器工場の横に宿泊施設が併設してある」
「ありがとうございます。仲間と共に休ませていただきます」
精神は当然ながら、体力はルシエを回復するために殆ほとんど使ってしまった。
「然らば、明日もう一度この場所で落ち合おう。ではな、英雄」
フェルディナンドはリュウ達を見送る。そして、アルや観客、それだけでなく、カジノ内のディーラーまで、全ての人が拍手で、三人を見送った。
「なんだか、歓迎されてるのに、居心地悪いね」
ルシエはそう笑って言う。ジンも笑う。
「お前らが作った状況じゃねえか」
出口に近づく。しかし、妙な感じがした。
「ルシエ、ジン。外に出ても一時も油断を許すな」
リュウだけが真剣な眼差しを浮かべていた。
NGシーン
ジン「俺さ、ずっと暇だったから、トランプ占い覚えたんだ」
ルシエ「私にやってよ」
カードを三枚引く。
ジン「はい、ルシエの胸の大きさ」
ーAAAー
ジンはその後百発ほど殴られたそうです。