一縷の希望
ジンSIDE
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この国の王に喧嘩を吹っ掛けた、と見ていいリュウの行動。それはカジノを騒然とさせている。
七つの基本魔法の一つ、伝導によって、リュウはナイフを体内で待機させ、それを瞬時に右手に移し、それをデッキに突き刺したのだ。
リュウを暗殺しようとする兵も出てきている。ジンは念の為に銃を構える。ルシエもそれに気付いたようで、魔法で糸にしていたガイアを剣の状態に戻していた。
『貴様……』
『観客の皆さん、落ち着いてください。俺に殺意は無い』
スピーカー越しに二人のプレイヤーの声が聴こえる。リュウは両手を挙げて、攻撃の意志がない事を証明している。
『よく、このデッキを見てください』
場がやっと静まってきた。
『俺がナイフを刺したのは、他でもない。よく、見てください。上から取るはずのカードが二枚目になってませんか?』
確かに、一番上のカードは全くずれてはいない。しかし、デッキからはみ出ているのは、上から数枚目以降のカード。
カードを配る技術の一つ、セカンドディールか。セカンドディールは一枚目を取っているかのように見せ、実は二枚目を引くという技術。それをあのスピードで行うなんて。それを見極めるリュウも範疇を超えている。
『この事を証明するには、これが的確だった、というだけです。危害は加えるつもりはないです。
いや、これが始まりじゃない。貴方のイカサマは、最初のカードの確認から始まった。とても信じられないが、あのスピードでカードの位置を全て記憶し、シャッフルも自分の思い通りになるように混ぜた。そうですよね?』
『まさか、見破られるとはな。
私がしていたのは、セカンドディールだけじゃなく、サードディールもしていた事以外何も違いはない。お前の勝ちだ』
サードディール。上から三枚目のドロー。イカサマをしていたとはいえ、このレベルまでくると、感嘆の声を上げたくなる。
フェルディナンドは握手を迫る。
『まだ勝ってません。タネを見破っただけだ。言ったでしょう。"ブラックジャックで"一度でも勝てば、条件を飲むと』
やっぱり、彼奴らは面白い。最後まで諦めないルシエ。忠義を忘れないリュウ。彼奴らなら世界を変えられるかもしれない。いや、絶対変えられる。
リュウSIDE
「さぁ、続ける時のルールだが、一度君がシャッフルして、デッキを扇型にして一枚ずつ自由に引くというのは、どうだ?」
「……ふむ。面白い。良いでしょう」
リュウは貫かれたデッキを持つ。変に破れているので、混ぜにくい。10回ほどシャッフルしたところで、扇状に開く。
「では、此方から二枚取らせて頂きます」
リュウは躊躇いなく、真ん中の方から二枚引く。しかし、まだカードは表向きにしない。
「……アル、代わりに引いてくれ」
「私がですか。リュウさん、宜しいのですか」
運がとりわけ良いアルが引く事に対し、リュウは多少不快に思ったが、それを承諾する。
「その代わりに、ディーラー側も今回だけ両方アップカードにしてもらえますか?」
フェルディナンドは頷く。
両者同時に、全てのカードを表向ける。
リュウのカードは、5と9で合計は14。
フェルディナンドのカードは、両方共、K。
14対20。
つまり、リュウは6か7を出さなければ、完全敗北。
「……参ったな」
絶望の深淵に立たされた、リュウ。もう、為す術はない。
「リュウ、諦めないで。大丈夫。きっと当てられる」
リュウの真っ暗になった心に、一縷の光が射し込む。紛れもない、勝利の女神の微笑みだった。
ボヤキー
ジン「あれ、俺の出番来たと思ったのに、たったの700文字だけかよ……」