Silence is golden〜快刀を携えた獣〜
いよいよフェルディナンド戦も大詰めです!土日なので2本ずつ投稿しました!(疲れました)
ルシエSIDE
現在:40万コイン
残り:4回
周りの目が怖い。出来る限り視界に入らないように、下を向いて歩く。
勝利の女神って、持ち上げ過ぎだし、恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。今日は宿に帰ったら、リュウに仕返ししなきゃ。
「ルシエ、本当にごめん。でも、少し時間が欲しいんだ。この場で頼めるのは、君だけ。ジンは参加しないという口約束があるからね」
「……時間稼ぎの内容を教えて」
「時間を稼ぐというより、カードドローの数を出来るだけ多くしてくれないか。何か違和感を感じるんだ」
「わかった。これで負けたら、承知しないわよ」
リュウはそう言うと、笑った。
「は、初めまして。ルシエと言います」
フェルディナンドは微笑んだ。
「緊張しなくて良い。肩の荷を降ろしてくれ。別に負けても、主人は殺さぬ」
「え、待って下さい。私達、結婚してないし、主従関係でも無いです……」
「なんと、仲間を売ったというか。主は何をしておる。しかも女性なのだぞ」
リュウはフェルディナンドからのお叱りを苦笑いを浮かべながら、そっぽを向いて過ごした。
「女性は、手厚くもてなすのが礼儀。申し遅れた、お初にお目に掛かる。余の名は、フェルディナンド。この国の長だ。どうか気楽にしていってくれ」
フェルディナンドは見た目からして、ギャングのボスなので、余計ルシエの恐怖心を煽っていたが、彼の笑顔を見ると、優しい老父のようにも見える。
「ありがとうございます」
どうも、悪い人ではなさそうだ。ルシエの恐怖心は消え去る。
「では、10万コインを」
しかし、そう思ったのも束の間。フェルディナンドの顔色が変わる。モニターで見ていても、少しピリピリとした重圧を感じていたが、これまでだとは。ルーレットの時とは、大違いだ。重圧に心が潰されないようにするので手一杯。
取り敢えず、言われた通り10万コインを差し出す。
やはり、見えないスピードでカードが配られる。そして表向きにされている。
ルシエのカードは7と8。相手のカードは、10。
「さぁ、どうする?」
「ヒット(カードを一枚引くこと)」
引かれたカードは、7。合計は、22。
「惜しい、バスト」
「もう一回、お願いします」
ルシエは10万コインを差し出しながら言う。チラリとリュウの姿を一瞥すると、灰色のフードをかぶり、手をズボンのポケットに突っ込み、何処を見ているかわからなかった。
「勿論だとも」
どんな数が出ても、ヒット。例え19や20なってもヒット。
それを続けた。全てがバストという結果になる。
「何を考えている?」
「リュウのため。彼を信じていますから」
ルシエはリュウの方を見る。リュウはフェルディナンドの手元だけを見ていたようだ。
「ルシエ、もう良いよ。ジンのところに戻ってくれ」
「いいえ、ここにいる」
「やれやれ……」
ルシエはリュウと席を入れ替わる。その時、ルシエは聴こえた。リュウの深い呼吸が。
「残り一回か」
何か、リュウの様子がおかしい。
「快刀乱麻を断つような良いアイデアは浮かんだかね?」
「沈黙は金、雄弁は銀と古来から言い伝えられるように、俺は多くは語らないので」
リュウの手が少し震えている。
「私がコインを出す」
そう言うと、リュウは手を止め、ありがとうと礼を言った。
そして、ルシエがコインを出す瞬間、それは起こった。
テーブルはガンッという大きな音を立てた。ルシエは驚き、その方向を見ると、リュウがトランプのデッキをナイフで突き破っていた。
カジノの中がその刹那静まり返ったが、その直後、観客が慌てふためき始める。
フードをやっと脱いだリュウの不敵な笑みが、モニター一面に映し出されていた。
ボヤキー
ジン「遂に俺一人か……」
ー作者からのカンペー
ジン「なになに、次の回は、俺の立場から……やっとか!遅えよ!」