神算鬼謀の為政者達
今回はフェルディナンド戦の前置きです。こちらもブラックジャックとなっているので、ルールはBrain VS Foutuneにて詳しく記載しています。
カシーノ・スエールテに入ると、少し離れた前方に長い階段がある。そして、それを登り切った先にあるのは、閉ざされた扉。
今、遂にそれが開かれる。
「満を持しての登場か」
彼からは皇帝としての威光を感じる。王たるリュウでも、それを感じずにはいられなかった。百戦錬磨のフェルディナンドは、若い長であるリュウにとって目上と言っていい。国柄などは全く関係ない。戦は経験と発想。それ以外、何でもない。
「フェルディナンド陛下……。申し訳ございません。負けてしまいました」
アルは席を立ち、フェルディナンドに譲る。そして、側に控える。
「知っとるよ。まあ負けるのも無理もない。この若造は、あの『神算鬼謀のアレクセイ』なのだから。寧ろ、今まで黙って傍観してた余も悪い」
「神算鬼謀のアレクセイ……もしかして、翡翠の策士のあの、リュウ・アレクセイですか」
「なんか、俺、色んな呼称があるな……」
リュウがそう呟いていると、フェルディナンドの目が此方に向く。
「カジノに、一国の王が一興しに来ても何も言わんが、カジノ潰しは頂けんな。特に、何を考えてるか分からん若造にはな」
「その言葉、お返ししますよ。カジノで一国の稼ぎを得ているならば、何を考えてるのか全く分からない。それは国の為だとでも」
「若造が抜かしおって。国の統治を投げて、欧州の西端まで興じる王が余の顔に泥を塗るとは、全く嘆かわしい話だ」
「くどい。貴方も、国の統治をせず、このカシーノ・スエールテに居座り続けているではないか。偽善も大概にしたら如何でしょう」
アルという見事な家臣が国王の鏡なのだろうと思っていたが、飛んだ思い違いだ。今まで出会ってきた為政者の中で最も気に食わない。あのアルカディアを治める者の方が幾分か筋が通っている。認める気は全くないが。
「此処は何処か分かって、そのような生意気な言動をしているなら、何も言う事はないが、迂闊な事を言えば、我が軍が主を殺しに来るが、それでも良いか」
「ほう。来賓にあの世への餞別とはお怖い。更に顔に泥を塗られたいのなら、お好きにして下されば、結構ですが。王は常に死を覚悟し、世界を股にかけるのですから」
フェルディナンドは高らかに笑った。
「全く気が抜けん奴だ。思っていたより、骨のある奴で安心した。噂より劣るならば、今此処で首を切り落としていた。さて、お主たる者、何か用があって此処に赴いたのであろう」
フェルディナンドの対応が変わった。きっとリュウを試していたのだ。リュウとて、それに気付かなかった。相手は歴戦の殿なのだ。油断大敵。
「条件提示だ。余にこのブラックジャックで勝利を収められるなら、主の条件を飲もう」
「……貴方からの条件は?」
「無い。主に賭ける価値があるかどうかを見定めるだけだ」
フェルディナンドやジンといい、どうしてこの国の住民は賭ける価値に拘るのだろう。
「なら、勝てたら条件を飲んでもらえると」
「ああ、だが、一度この余っているデッキを見せてくれないか。勿論主にも見せる」
リュウは頷く。その瞬間、デッキを持ち上げ、リフルシャッフルのようにトランプの角を持ち、バラララララという音を鳴らしながら、カードを一枚ずつ、脳で認識出来るか否かのスピードで捲り始める。
「ふむ。では、始めようか」
すると、欧米で主流なオーバーハンドシャッフル(横向きにシャッフルすること)、東洋のヒンズーシャッフル(日本で主流の縦向きにシャッフルすること)、更には八枚の山に分けたショットガンシャッフル(分けた山に一枚ずつ数が均等になるように混ぜるシャッフル)を織り交ぜてカードを切る。
シャッフルを見る限り、手捌きが半端ではない。やはり、アルが言うように、尋常な敵では無いのだ。
フェルディナンドはトランプを切り終わり、トランプをテーブルの上に置く。
「主のコインは今何枚だ」
「ざっと70万コイン」
「なら、10万コインで勝負というのはどうだ。但し、他のルールを使う時に金はいらん」
リュウは頭の中でメリットとデメリットを秤にかける。
「……良いでしょう」
7回のうちに決着をつければいいだけの話だ。メリットしか無い。
「運はどちらに傾くか」
フェルディナンドは不敵に笑った。
フェルディナンドやアルが運のルビにスエールテという単語を使っていますが、スペイン語で運を表す単語らしいです。
ちなみにカシーノも賭博場ということで、カシーノ・スエールテというカジノ場ということです。
あと、アルの名前の由来はアルカポネです。賭博業でも有名なギャングですね。作中ではアメリカ生まれでもないし綺麗な性格をしていますが、転生だと思っていただければ幸いです。
作者の無駄コラムでした。