男の戦い
Brain VS Foutuneから続いている、ブラックジャック回です。VSアル決着編です。
此方でもルールは多少説明してはいますが、理解出来ないルールがあれば、お手数ですが、Brain VS Foutuneに詳しいルールが載っていますので、そちらでお願いします。
今度は、今までと打って変わって、5万コインを賭ける。今までの十倍。
「大きく出ましたな。それは勝ち筋を見つけた、ということですかな」
リュウは鷹の目で睨まれるような気分に陥る。
「いえ、侮辱とかそんなものでは無いですよ。ただ、イーブンマネー(最初に配られた二枚の時点で、ブラックジャックの時に使用出来るルール。これを使用すると、相手もブラックジャックでも勝てるようになるが、配当が少し減る)で勝った。それ故の鼓舞です。よく言うでしょう。勝って兜の緒を締めよ、と」
「なるほど、そういうことでしたか」
しかし、まだアルは疑っているようだ。それでいい。
心の惑いは、いつか破綻を来す。心の紐が縺れていくように。そこに一矢を報いれば……。
だが、そんな甘い話でも無いだろう。
リュウのカードは8と8。アルのカードは、9。
「スプリット(最初の二枚が、同じ数字のカードが来た時のみに使える特殊ルール。それを別々に分け、プレイする事が可能)」
右手でスプリットの合図を指しながら、リュウは賭金を追加する。
これで両方が負ければ、10万コインの損失。だが、これが最善。
そして配られるのは、5と7。つまり一方は13、もう片方は15。
「両方共、ヒット(カードを一枚引くこと)で」
13に配られるのは、6。19。
15に配られるのは、4。奇遇にも、両方が19に落ち着く。
どうする、19ではアル相手に勝てる気が全くしない。だが、ここでヒットしたところでAか2でなければ、バスト(21を超え、負けを意味する)してしまう。殆どの確率で、バストなのだ。
いや、そうかといって引かなければ、スプリットが只々、無駄になるだけだ。しかし、これでバストしてしまっても元も子も……。
リュウはスパイラルに入ってしまった。こうなってしまった以上、抜け出す事が難しい。片方だけ、ヒットしてしまおうか、その片方がバストすれば、なら両方共賭けてみるか、賭けてみる価値はあるのか。そんなような事が延々と頭の中を回り続ける。太陽の周りを回り続ける地球のように。
「如何しますか?」
突然話しかけてきた、アルの顔を見る。きっと、ずっと考え込むリュウに痺れを切らしたのだろう。
そう思って顔を見たが、表情はそうでもない。リュウは完全に勘違いをしていた。顎髭を生やした、冷静な熟練のディーラーに相応しい凛々しい顔をしているが、心の奥底では、熱い思いを滾らせている。そんなオーラが漂って消えない。彼は疑っていたのではない。リュウの手に興味を示しているのだ。
そうだ。相手はディーラーであり、男なのだ。リュウも挑戦者であり、男だ。
これは男同士の戦いなのだ。
「……両方とも、ヒットォ!」
右人差し指で、机を二回叩く。その音が、カシーノ・スエールテに響き渡った。そう、いつの間にか、カジノ中の人々が、二人の戦いを傍観していたのだ。しかし、黙り込んでいた観客も騒がしくなる。そして、遠くからルシエの声も聴こえる。
「……本当に面白い人だ。感服しましたよ。私の完敗だ、どんな数字が出ても。貴方以上の負けを認めた事は無い。フェルディナンド様に対しても、これほどまでの敗北感を感じた事は無い」
アルは二枚同時に、カードを表向きにする。アルはそのカードを見ずに言い放った。
「……貴方の、勝ちだ」
それは、リュウに配られたカードは二枚共、2のカードを示していた。彼はずっとイカサマをしていなかった。そう、正々堂々とブラックジャックのディーラーとしての役目を務めていただけだ。最後のカードが分かった理由。それは単純明快。彼のキャリアが物語っているのだろう。
NGシーン
リュウ「ルシエの声が聴こえるな……」
その頃ルシエ達はーー
ルシエ「人混みで、全然見えない!」
ジン「盲目だから全く見えないけど、耳で全てが把握出来るぜ!」
ルシエ「如何なってるか、教えて」
二階では、ルーレットの時とは立場が入れ変わっていた二人。