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三日月の使者  作者: あなご寿司
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プロローグ

・・・・「なぜ人は争いを続けるのですか?」


 静まり返る部屋に響く幼さの残る声、その主はヘルバーニアと呼ばれる王国の王子であった。


「殿下も10歳になれたことで、人間の真理について興味をお持ちに?」


 少し呆れたように教育係を見据えながら宰相のリヒト・ヴォルケンが王子に尋ねた。

 現在、ヘルバーニア王国は隣国のポーリシア公国と5年に及ぶ戦争状態であり、東の端は魔の者の生息域と接している為、気を抜けない状況を余儀なくされている。


「なぜ双方にとって利益にならないことをするのですか?」


 王子であるオーランド・ヘルバーニアは宰相の問いに対して再度問いかけた。

 その光景にタメ息をつく国王と貴族たちを横目に一人の騎士風の男が口を開いた。


「殿下、私がお預かりしている領地が正に魔の生息域に隣接している場所ですが、魔物から獲れる素材や魔石、さらにはあの領域にしかない鉱石や植物など多くの利益をもたらしておりますぞ。」


 その威厳に満ちた風体と発言に、周りの貴族は王子が納得してくれると安堵した。


「なるほど・・・、闘争の中で生き、戦果によって出世してこられたオーカーフェルト殿らしいご意見ですね。」


 王子の声色には戦いを生業とする者への侮蔑のような感情が込められている。

 しかし、その負の感情を受けたガリウス・オーカーフェルトは高笑いをし、王座へと向き直った。


「王よ、なかなか骨のある御子息でございますな。」


 その言葉を聞いた国王フォーグ・レイ・ヘルバーニアは僅かに口角を上げ


「お前の息子には負けるがな。なんでも入学前の息子に剣を一本持たせて、魔物の巣に置き去りにしたらしいではないか。」


 その言葉を聞いた王子と貴族の表情が凍りつく。


ヘルバーニアでは学校は8歳で入学し、14歳で卒業するため、ガリウスの息子は7歳以下で魔窟に放り込まれたことになるのだ。


「まあ魔法は一切使えない落ちこぼれですが、体術や武器術はそれなりに出来ますので、早めに死地を経験するのは将来にとって良いと思ったまでです。」


 ガリウスは当然と言わんばかりに返答するが、これには王も呆気にとられている。

 そんな中で表情を一切変えないのは宰相のリヒトである。


「国王、ガリウスは昔から変わりませんし、息子のマティアスには昨年会いましたが、あの子なら魔窟から一人で生き抜いて生還したと聞いても驚きません。」


 リヒトは当時を思い出しながら話を続ける。


「あれはオーカーフェルト領に向かう途中で、ソリエールの森に入った時でした・・・」


 その話は部屋にいた者たちの想像を超えるものであった。

 これが、マティアス・オーカーフェルトが王国の歴史に名を残すことになる第一歩であった。



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