第4話 初対面の再開
エンジェル・イン・オンライン読んでました。
めっさ楽しいです、強制女装にネカマプレイ。
よし、新しいのはそっちで進めよう。
「う……」
眩しさに手をかざして、ゆっくりと目を開ける。見慣れない天井、いつもとは違っていい香りがする空気、何よりフカフカのベッド、いやソファーか。ゆっくりと上体を起こして辺りを見渡すが、自分が普段暮らしている貧民街とは違い、何やら高そうな調度品や家具が所狭しと置いてあった。ここは貴族の家なのだろうか?
「あ、目が覚めたかい?」
声に反応して、その方向を見る。そこには茶髪とメガネと笑顔の似合わない男がいた。
「………………」
「ああ、警戒しなくていいよ。シスがあの店に金を払って、その場は収めたらしいから」
シスというのが、俺が気を失う前に見た女の名前なのだろう。こいつが貴族なら、どうせあいつも貴族だ。気を使う必要はない。
「君をここに連れてきたのはシスの意思だから、俺がとやかく言う資格はないんだけどね。君を助けたのは偶然だ、二度とこんな奇跡があるとは思っちゃいけない。次は確実に死ぬと考えておくと良い」
「うるせえよ貴族サマ、お前らに俺たちの生き方をとやかく言われる筋合いは無いんだよ!」
俺の怒鳴り散らす声に、この男はフッと笑った。何故か嫌な感じがしない、たまに俺たちを見る貴族たちの、嫌な雰囲気が感じられない。
「いいね、そういう反発心は大事だ」
「喧嘩うってるのか?」
「とんでもない、それに俺たちはそもそも貴族じゃない、冒険者だ。そして俺達クリムゾン・ドロップスは君たちを救う義務がある。よければ仕事をあげよう、どうだい?」
男は相変わらず、似合わない笑顔でそんな事を言ってきた。冒険者というなら俺を奴隷として扱うつもりだろうか、最悪この男を殺してでも……そう考えていると、男の背後のドアから二人の女が出てきた。一人は見たことないが、もう一人は知っていた。いや、探していた。
「ラスティ!?」
俺が大声を上げて彼女の名前を呼ぶ。ずっと探していた、銀髪に金の瞳を持つ少女の名前を。
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「ラスティ? ナユタさん、そんな名前のキャラ持ってるんですか?」
「いえ、私はこのキャラだけですよ。ビジネスですので」
「こらこら君達、彼の前でメタ発言はやめなさい」
少年は驚いた姿そのままで固まってしまった。僕は彼の前のテーブルに、グラスに注いだジュースを置いて下がる。少年の視線は終始僕の顔を不思議そうに見ていた。
「えっと、僕に何か?」
「僕……? ラスティ、何言ってるんだ。俺だよ、ミスティだよ!」
ええー、知らないし。そんな真に迫った顔で言われても分からない。
「ご、ご免なさい。僕はカエデって名前なんだ。君の言うラスティって子とは、別人だと思うよ?」
「そんな、俺が見間違えるはず無い! 君はラスティだ、どうして俺を覚えてない!?」
メディルさん達を見るが、僕らを見て何か考え込んでいるようだった。早く助けろ。
「ふむ、それほど似ているとなると、アバターデータはそこから……? いや、リアルでも同じ容姿だったって事は、逆説的に考えるべきか? いや、それにしても……」
「落ち着いてください、えっと、ミスティさん。本当に僕はラスティさんじゃ無いんだよ。そっくりだって言うなら、似ていただけなんじゃないかな?」
「そんな……やっと見つけたと思ったのに……」
「……えっと、詳しく話してくれるかな? もしかしたら力になれるかもしれない」
少年は暫く間を置いた後、語り始めた。
「俺達は東の貧民街で暮らしてる、親無しなんだ。子供たちだけでなんとか生きてる。その為には盗みもやるし、人を殺した奴だっている。そうでもしないと、生きれないんだ。俺だってもう少し大きくなれば、酒場で仕事を受けられるんだけど……」
確かに、この世界は冒険者至上主義だ。何かを売るには国、領主からの通商許可証を配布してもらわないといけない。そして、それには多額の金か、市民の証明書が必要となる。彼らはそのどちらも持っていなかった。だからこそ、彼ら力無き子供達は犯罪に走るしか道が無かったのだ。
「それで、この前ラスティと二人で獲物を狙ってたら、こっちを見てる二人組に気付いたんだ」
「二人組……?」
「ああ、見るからに悪そうな奴だったから、嫌に覚えてるんだけど。その次の日にラスティが襲われたって聞いたんだ」
この姿と同じ人物が、二人組の男に襲われた? 僕は夢で見た記憶を手繰り寄せる。生憎と少女側の視点だったせいで、少女自身の容姿は分からないが、あの二人の男の顔は間近で見たため記憶に残っていた。
「でも、通りすがりの剣士が助けてくれたって、嬉しそうに話してたよ。俺は暫く外に出るなって言ったんだけど、お礼が言いたいって言って、次の日出ていったきり……」
僕だ。その時助けたのは僕だ。状況からいって、もう忘れてしまっていたけど僕だ。
じゃあ、この身体は? そのラスティって子の体なのか? しかしリアルの体にまで影響が出ているのはどういう事だ? 背筋に悪寒が走る。気味の悪い想像をしてしまった。
この世界のNPCは、あまりにも人間に近い。それは僕達の行動パターンや言動ログを集積し、自らの成長に取り入れているからだ。そしてそれはウイルス進化にも似た、一つの異常が引き起こした結果だと聞く。
このNPCは魂を持っていた。僕のリアルの肉体を支配する程に。
「有り得ないよ」
メディルさんが真剣な顔をして僕に告げる。彼もそこに行きついたのだ、しかしオカルトすぎる話である。彼ははっきりと否定した。
「その体がラスティさんの物とは限らない。偶然の一致かもしれない、いや、何か原因がある筈だ。もしかしたら、ラスティさんはプレイヤーだったのかもしれないし」
「そう、ですよね。僕が馬鹿でした……。すみません、今日はもう落ちて良いですか?」
「ああ、ちゃんと自室でね」
了承をとると、僕はおぼつかない足取りで二階にある自分の部屋へと向かう。未だに初期状態の部屋なので、明日は気分転換にインテリアをいじくろう。そんな現実逃避をしながら、僕は自室を目指した。
「待ってくれよカエデ! 俺は納得できてな」
「やめるんだ」
「何するんだオッサン、もしかしたら姉妹かもしれないだろ!?」
「やめるんだ、もう一度彼女を失うつもりか?」
「どういう事だよ……?」
その日僕の耳に残ったのは、二人のこの会話が最後だった。
憑依合体、ラスティ!!
的なノリですね。いや、あれ体変わらんけど。
さーて、この後どうやって落とし前つけようか。