第3話 林檎の少年
ゲームパート。
とはいえ、このお話は経験者が自警団作ってるようなものなので、ほかの作品みたいに一から世界を楽しむ仕様じゃないんですよね。
裏パートで書いてみようかな。
ゲーム内、クリムゾン・ドロップスのギルドホームで、夜勤組のミーティングが開始された。
と言うのも、今回は僕が初参加であるため、誰にその面倒を押し付けるかという話になってくる。宗吾、ドラクスは嫌そうな顔をした。おいこら。
その様子を見て、シスは相変わらずの無表情で僕に提案してくれた。
「なら私と組む」
いや、確定だった。提案なんて生易しいものじゃなかった。こちらとしては素直に嬉しいんだけどね。
「はい、よろしくお願いします先輩」
「シスでいい」
「そう? じゃあシス、今日は何をすればいいの?」
「ん、私たちの仕事は基本パトロール」
メディルさんも会話に入り、仕事の説明を始める。
「そうだね、君たちは基本パトロールが主な仕事だ。俺達の班はまだ人が少ないから、他の町にはヘルプが行っている。気にしなくていいよ」
どうやら同僚の人を駆りだして、ヘルプに回しているようだ。実際に外を回れる人間は、この班では僕とシスとドラクス、あとメディルさんの四人だ。今は第五区まで開拓されているから、後々さらに人が必要になる。どうやら健全なNPCを巡回に使う手も考えているらしいが、役立ちそうなNPCが見つけられていないのだという。
今、第一区から第五区までの人口は、NPCだけでおよそ十万程が居るという。それに他の領地もそれぐらいだと言うので、サーバーが悲鳴を上げているのではないかと心配になってしまうが、どうやら杞憂らしい。
「それで、不審な人がいたらギルド章の指輪を装備した状態で接触すればいい。そうすればタグが付いて、こちらで捕捉できる」
「なるほど、それでNPCなら情報収集、プレイヤーなら状況次第で説教室送りって訳ですか」
「そゆこと」
大まかな仕事の内容はこれくらいらしい。他の仕事は追々教えてくれるとのこと。
「いくよ?」
「あ、待ってシス。一応武装だけはしておくから」
僕はメニュー画面を開き、空いている時間に買っておいた戦闘用武器と服を装備する。もちろんズボンである。デニムパンツにフリフリの白いキャミソール(透けない)を装備し、上には裾にレースがあしらわれた袖部分が広い黒のボレロを着こむ。これはヒスイが選んでくれた服で、少し大人っぽさを出しつつ動きやすい恰好という希望が込められている。本当かどうかは知らない。だってリアルじゃパーカーとか着てる適当コーディネイターだもの。
腰ベルトにオルトから貰った小太刀を装備し、準備完了。
しかし、方々から寄せられる視線が不満げに僕に突き刺さった。
「え、何? 何かいけなかった?」
「ファンタジー世界でカジュアルファッションしてる時点で、俺としては突っ込み所満載だと思うけどな」
ドラクスが呆れた物言いで責める。まぁその気持ちは分かるけどさ、だったら何でスク水とか体操服とかナース服とか売ってるんだよ、このゲーム。
「カエデちゃん、その恰好はいけない! すごくエロい! 背伸びしてる感じがかなりエロい!!」
「黙れ変態ロリコンゴミ虫、体の中からバルサン焚いてあげましょうか?」
相変わらず恐ろしい突っ込みだが、そこはナイスと言っておこうかナユタさん!
「シス、ダメ……かな?」
「大丈夫、すごく可愛い」
「よかった……」
いや、待てよくないぞ? なんで可愛いと言われて心底安心しているんだ僕は!?
「じゃ、行く」
「あ、うん。行ってきます」
こうして黒の布面積の少ない涼しげなゴスロリワンピースに身を包んだ金髪ツインテールの少女と、カジュアルファッションな銀髪幼女のコンビは人目を惹きまくったという。
どちらかと言うと、僕らがナンパされて問題を引き起こしているような気もしたが、しつこいナンパさんには、シスが後ろからこっそり近づいて専用武器で一発。あえなく説教室送りとなっていた。決して個人用途の職権濫用ではない。
時刻も一時を過ぎ、ライトユーザーがほとんどログアウトしてしまった街を、尚も巡回する。普通だったら、ここで切り上げてもいいのかもしれないが、この世界はNPCも犯罪に走る。それを未然に防ぎ、かつ悪行を露呈させ、その上で最悪殺さねばならない。
ある程度歩き、露天通りを抜けたところで何か揉め事が起きている様だ、人が集まり、叫び声が聞こえてくる。
「カエデ、ちょっと待ってて」
「あ、うん」
人垣の中を、その小さな体躯でどう進むのかと思ったら、超人的な脚力で人ごみを飛び越えて、その中心と思しき地点に吸い込まれていく。
さすがゲームだ、現実だったら人を退かすのも手間だろうに。
ちなみに、今の僕は同じ真似が出来ない。所詮Lv1である。
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私はカエデを待たせて、問題が起きているであろう人垣の中へと飛び込む。文字通りハイジャンプして人の頭上を飛び越えて、問題の中心に飛び込んだ。
そこでは、一人の赤毛の少年を複数の大人が殴る蹴るの暴行をしているシーンがあった。胸糞悪い。急いで止めることにする。
「やめる」
私は【教会直属治安管理組織】から許可を貰った証であるネームタグ入りのカードを見せびらかしながら、渦中に足を踏み入れる。この世界での私たちの扱いは、聖堂教会が治安維持のために募集したギルドと言う事になっている。
しかし大人たちは不満だらけの顔で私を睨みつけた。
「うるせぇ! 大体お前らがちゃんと仕事しないから、こんなガキどもが俺たちの商品を盗むんだろうが!」
「否定。この状況を招いているのは、国民である貴方達の力不足」
「じゃあ、こいつらに何もかも盗まれるのを、指を咥えて見てろってか!?」
「違う、この子は罪を犯した。けど、ここまで殴る必要はない」
少年は地面に横たわりながら、盗んだであろう林檎を大事そうに抱えている。おそらく返しても受け取ってもらえないだろう。
ふと林檎の値段を見る。120C、普通なら30C位なのに、四倍にまで跳ね上がっている。他の品もそれぞれ異常な値上がりを起こしていた。
市場調査はオルトやナユタがしてくれている。とはいえ、ここまで違法な値段じゃなかったはずだ。
「盗られた林檎は一つ?」
「いや、三つだが」
「ん、360C」
「お、おう。いや、違えよ! こいつらを擁護するつもりかよ!
「店主、商品の値段が相場からかなり高い。何を考えてる?」
「ぐ、いや、値段設定なんざ個人の自由だろうが!」
「何を、考えてる?」
「………………」
黙り込んでしまった店主、ブラフだったのだけど本当に何か裏があるようだ。けど、そこは私の領分じゃない。今はそれをネタにこの少年を回収しよう。
「少年は預かる。ちゃんと注意しとく」
「ちっ、わかったよ……好きにしな」
「ん」
私と大差ない身長の少年を担ぎ上げ、そのままもう一度ハイジャンプして離脱する。店主はこっちを睨んでいたが、気にすることはない。どうせ、すぐに捕まる。
カエデの元に戻ると、少年担いで帰ってきたことに驚いていたようだった。どうやら少年も驚いたようで、既に気を失っていた。私達でここでパトロールを切り上げ、オルトに内部調査を頼んでギルドハウスへと戻る事にした。
やっとこさ物語が動き始めました。
説明ばかりで飽き飽きしていたと思いますが、ここから本番です。
赤毛の少年はショタキャラです。ええ、大好きですとも。