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第2話 二人の因縁

リアルパート、書類関連の始末です。

一応金銭が発生しますからね。


ちなみに時給1200円です。条件が厳しいのと仕事内容がハードなので。

 カランカラン。

 ドアに着けられた、来客を知らせるベルが小気味よい金属音を響かせる。その瞬間、聞きなれない言葉を浴びせられ、僕は反応に困ってしまった。


「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」

「おじょう……っ!?」

「ぶふっ」


 背後で噴出したご主人様とやらは僕の幼馴染にして親友、そして居候先の家主である橘宗吾だ。あとで思う存分からかってやる。


「あの、メディルって人の連れなんですけど」

「畏まりました、旦那様はあちらにいらっしゃいます」

「旦那様!?」

「くくっ、駄目だ、笑える……っ」

「………………」


ぎゅぅ。


「あだだだだだだだだだ! 何でつねるんだよ楓!?」

「別に、なんかイラッときたから」

「グッジョブですお嬢様」


 なぜかメイドさんと意気投合した僕は、宗吾を無視してメディルのいる席へと向かう。


 土曜日、メディルさんとリアルで会うために指定されたお店に辿り着いた。この辺りは元電気街だったらしいが、今では萌え等のサブカルチャーを目玉にしている。そんな空間の喫茶店といったら、メイド喫茶と相場が決まっているのだそうだ。


「やぁ、遠いところをわざわざ済まないね」


 目の前に座る男性は、メガネに茶髪、地味に短めの髭を生やした二十代後半の男性。やたらと高そうなスーツの割には、あまり手入れされていないのかくたびれていた。


「すみません、宗吾がバカな事をして時間を食ってしまって」

「俺のせいかよ……しかし、メディルさん。あんた旦那様って呼ばせてるとか、そんなの似合わねーよ。ぷぷっ」


 ドンッ! ビシャ!

 コト。

 先ほどのメイドさんが、宗吾の水だけ乱暴に、僕の水は丁寧にテーブルに置く。そしてまるでゴミでも見るような冷たい視線を無言で宗吾に向ける。対照的にほっこりとする暖かな笑顔を僕らに向け、注文を取り始める。


「好きなものを頼んでいいよ、カエデちゃん。俺の奢りだ」

「良いんですか?」

「うん、リアルのカエデちゃんが見れただけで俺は……いや、あとでコスプレでも」

「しません」

「ちぇー。あ、宗吾君は自腹ね」

「ひでぇ。まぁ元からそのつもりですけど」


 うーん、奢りと思うと高いものを頼み辛いからな。宗吾の奢りだったら遠慮なくオメガパフェ・ブリザード 1200円ってのを頼むんだけど、一応初対面だし軽いので行こう。飲み物だけだと、逆に失礼だし。


「あ、すいません。ベリーベリータルトと、紅茶のセットでお願いします」

「ついでに俺のコーヒーのお替りもお願いね」

「畏まりました」

「あ、じゃあ俺は」

「では少々お待ちください」

「え、あの……」

「はい?」


 メイドさんは心底不思議な顔をして宗吾に対応する。若干無視しているのは気のせいだと思いたい。


「注文したいんですけど」

「水ならたった今、恵んで差し上げましたが?」

「ええー……恵んでって」

「何ですか、もっと欲しいんですか? 卑しいですね。いいでしょう、水ならレジの隣の通路の突当りにドアがあるので、黒い人型がついた方のドアを開けていただければ好きなだけ水を飲めますよ」

「そこトイレだよね!?」

「あら、ご存じないのですか? 災害時にどこの水が一番安全かと問われれば、公園のトイレの水と即答できるレベルですよ。絶体絶命都市ゲームで体験しました」

「あ、それ今度VRで出るらしいね。ずいぶん昔に実際の災害に対して不謹慎とか馬鹿げた理由で続編が作られなくなって寂しかったんだよね」

「さすが旦那様、目の付け所がナイスです。それに比べてこのカレー馬鹿は使えませんね。さっさとデュークに細切れにされて、トイレから流されてください」


 どうやら入店時での宗吾の笑いは、接客のプロであるメイドさんの逆鱗に触れたらしい。というか、この矢継ぎ早な攻め方、どこかで見たことがあるような。


「まぁ、その辺にしてあげて下さいよ、ナユタくん。カエデちゃんも驚いているからさ」

「仕方ありませんね、変態とバカのお相手は大変だと思いますが、頑張ってくださいねカエデさん」

「え、今ナユタさんって、え?」

「はい、クリムゾン・ドロップス所属のナユタです。リアルではここのメイドをやっております。以後お見知りおきを」


 なんだか、ゲーム内の見た目とはまるで違う。メイド服の華美な装飾のせいなのだろうか、僕のナユタさんのイメージってフォーマルスーツが占めてるから、全然イメージ湧かなかった。よく見れば顔立ちも似ているし、真面目そうな雰囲気もそのままだ。


「はい、僕はカエデです。よろしくお願いします」

「はい、一目でカエデさんだと分かりました。相変わらず可愛いですね、ちょっとお姉さんと一緒に働いてみませんか?」


 僕にナユタさんが来ているようなフリフリのメイド服を着ろと? 冗談じゃない。僕はぶんぶんと頭を振り、拒絶の意思を伝える。


「ナユタくん、人の働き手をもっていかないでくれよー」

「そもそもこんな可愛らしい子に、精神的ストレスがエベレスト並に山積みなあの仕事をさせる方が間違っています」

「どっちにしろ、雇用の問題でメイドは出来ないじゃないか。その点こっちは給料ではなく“協力費”って形で支給されるからね。何の問題もない」

「私たちの仕事がどれほどグレーであるかなど、今更問いはしませんが……それでも私は心配なのです、おそらくこの子はシスさんよりも年少の方ですので、アプリさんの二の舞になるのではと」

「あの、僕16歳なんですけど」

「そうなのですか? ではメイドも問題なく出来ますね。如何ですか? 銀髪合法ロリメイドが甲斐甲斐しくお世話している姿を動画に収めて、某動画サイトにアップすればきっと往年の釣り漫画の如くフィィィィィッシュって叫んじゃいますよ」

「それかクマーだね」

「さすが旦那様、伊達に変態ではありませんね」


 この二人、リアルだと結構仲いいのかな? その分宗吾がフルボッコだけど。


「宗吾、大丈夫?」

「ああ、完全に俺を無視する流れの中で、お前だけが俺を見てくれるんだな」

「聞きましたか旦那様、さりげなく告白に繋げるつもりですよ。何様のつもりでしょうか図々しい」

「そうだね、カエデちゃんは僕の物だよ。下っ端の君如きが手を出せる存在じゃないんだけどな」

「有り得ません、カエデさんは全人類の宝です。旦那様と言えど容赦はしません。かかってきなさい変態クソ虫、殺虫剤の準備は万全です」

「ククク、粋がるなよ偽冥土(フェイカー)が」


 なんだろこれ、もう収拾つかなくなってきたな。


「えっと、メディルさん。ひとまず話を始めてもらえるかな? あとナユタさん、アイスコーヒーでいいから宗吾に持ってきてあげて?」

「畏まりました、お嬢様。カレー馬鹿は五体投地で感謝しなさい」

「笑っただけでこの仕打ちとか」

「完全にアウェーだからね、空気読もうよ宗吾」




 書類関係をあらかた書き終えたあと、ナユタさんが持って来てくれたお替りの紅茶を一口啜り、ほぅっと息を吐く。どうやら一時間もせずに事を終えたらしい。


「さて、これで書類は全部だね。すまないね、この電子社会の時代とはいえ、契約にはやっぱり紙が主流でね」

「日本社会の汚点です。早々に紙など無くてもいいように、高レベルセキュリティの仮想ペーパーでも作ればいいものを」


 二人は現代社会に対する愚痴を延々とこぼし続ける。そこでふと気になった僕は、二人に尋ねることにした。


「メディルさんは、運営の人なんですよね?」

「ん? そうだよ。正式にはGMゲームマスターチームの中に設けられた、治安維持班の一人だね。他にも東部方面や北部方面の担当がいるから、計五人ってところかな。今後のアップデートで他国との交流が出来ると、その国用にまた人員を補充しなきゃいけないんだけどね」

「んぅ、メディルさんは、ナユタさんとどうやって知り合ったの?」

「それですか、私はメディルさんとは、別のVRMMOで知り合ったのです。ちょうど十年前でしょうか、【ファンタジースクール・オンライン】という、教育委員会と文部省が推進した低年齢層向けのコミュニケーションVRプロジェクトです」

「二人はちょうど対象外だったから、知らないかもしれないね」

「そうですね、僕達はちょうど幼稚園卒業の年だったので……」


 【ファンタジースクール・オンライン】

かつて文部省と教育委員会が監修したという、国を挙げての全国的プロジェクト。発展途上であったVR技術をいち早く教育に取り込むために、半ば強引に押し切り全国の小学、中学、高校の生徒全員にVRヘッドギア【ネクステージ】を配布し、タブレット教育浸透までの遅れを取り返そうと躍起になっていた。


そこに、付け込まれてしまった。


全国の生徒がログインし、それが確認されたとき、全てのログアウトボタンが消失してしまった。正体不明の人物から送られたメールには音声メッセージが添えられていた。


『君たち日本の未来を担う子供たちに問う。命とはなんだ? 心とはなんだ? 正義とはなんだ? それを教えてほしい。君たちプレイヤーは、この小さく広大な世界で命をかけて生き抜くのだ。期限は三年間、その間ただ生き残ればいい。どんな手段を取ろうと構わない、ただ生き抜け。強者に媚び諂い時を待つのも良し、誇りを捨てずに死ぬも良し。すべては君ら生徒たちの自由だ』


 そしてこのゲームで死んでしまえば、VRヘッドギア・ネクステージが高圧電流を脳に流し込み、現実でも死ぬことになる。無理矢理外そうとしたり、期限内に脳波が途切れたり、電源が外部バッテリーに移行され一定時間が経っても、同じく死亡する。

 そんなデスゲームが繰り広げられていた。


 この時の生徒は『空白の三年間』と呼ばれ、後に特殊な施設でカウンセリングプログラムを受けたと、ニュースでは締めくくられていた。


「そのゲームで私たちは知り合い、助け合い、生き残ったんです」

「だからこそ、だね。フリーディアは自由を売りにしてはいるけど、完全な自由なんて物は欲望の坩堝だ。それは悪意の塊でしかない」


 一瞬、記憶の片隅に残るあの兄弟がチラつく。あの眼は確かに、悪意と欲望に染まった、いやな笑いを表現していた。


「それに対抗するには、パンドラの箱の奥にある一欠片の希望に縋る事。自由の名のもとに選別された正義に頼ることにしたのさ」

「それで、私に連絡が入ったのです。一緒に戦わないかと」

「そう、だったんですか……」

「初めて聞いたぜ、二人のなれそめなんて。それで付き合い始めたのか?」

「いえ、単に協力関係です」

「俺はもう結婚してるしね」


「「………………えっ!?」」

「メディルさん結婚してたの!?」

「予想外すぎる……マジでか、このおっさん」


 確かに予想外すぎる。今までのロリコン発言や行動からして、結婚とかしない人なのかと思っていたのに、なんだか裏切られた気分だよ。


「ははは、そんなに嫉妬しないでくれよカエデちゃん。ちゃんと奥さんは合法ロリだよ」


 メディルさんはスマートフォンに入っている写真を見せてくれた。どうやら大学で知り合った人らしいが、本当に小さな体に幼い顔立ちをしている。しかも結構可愛い。というか誰も嫉妬してないのですが。


「俺の奥さんも可愛いけど、カエデちゃんは神秘的な可愛さがあるよね。ついクンカクンカしたくなるよ」

「とんだド変態ですね、そのおかげで惚れずに済んだのは僥倖でした。あの時、支援に回った小学生女子を見る目が酷く不気味でしたので、百年の恋も気化冷凍されました」


 メディルさん何やってんスかーッ!?


「でも手は出さなかったさ。イエス・ロリータ・ノータッチは業界の常識だよ?」

「どこの業界ですか!?」

「え、聞きたい? じゃあちょっとソコのホテルまで……」

「あ、もしもし警察ですか? はい、ド変態のロリコン野郎が幼女をホテルに連れ込もうと」

「すいませんっしたああああああああああああ!!」


 美しいまでの五体投地でナユタさんに謝罪の意を表明するメディルさん。それに対し、ナユタさんは遺憾の意を表明して更なる責め苦を展開していった。


 あーもう、帰りたい。

メイド喫茶の店員なのに、なんでこんなに会話してる暇があるんだ……。

ほかのお客はどうしたんだ。


簡単です、ナユタが店主。これでOK

つか年齢的に考えて30歳近くでメイドとかやべぇ。


少し改定&修正。

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