第23話 まぼろし
さあ、第一章最終話。
文章力が駄々下がりな気がするけど、これにて一旦区切りです。
さぁ、ブリーチファンの皆さん、準備はいいですね?
「カエ……デ?」
ゆらゆらと揺れる丸いそれに話しかける。しかし、既に空っぽのそれは、何を見つめるでも無く揺れるばかり。
「……撤退だ。作戦は失敗した」
メディルさんが悔しそうな声で呟く。とても低く、怒りを必死に押さえつけたくぐもった声で。
「でも、カエデが……」
一歩、また一歩と、カエデだったものに近づいて行く。泣きながら銀色の剣を持つ、カエデそっくりの少女達を睨みつけながら、近づいて行く。
「Bは俺が連れて行く。皆は先に撤退してくれ」
「他のガキ共は助けなくても良いのか?」
目の前に立ちすくむ十数人の銀髪金眼幼女達。本来のメディルであれば、彼女達を救うどころかお持ち帰りしていた事だろう。しかし、この状況でそんな選択が出来る程、彼は剛胆ではなかった。
「さすがに仲間を殺した相手を、助ける気にはなれない」
「そうだな。E、それにF、撤退だ」
「…………はい……」
「まだ」
シスが、たったそれだけを呟く。この期に及んで何をすると言うのか?下手人の少女達を助けるのか、それとも殺すのか、またはこの施設の研究員を皆殺しにでもするつもりか?
否。
「カエデは人が良過ぎる」
この言葉に、全てが集約されていた。
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「あー、やっぱりか。何の抵抗も無く殺されやがった。一番の駄作だな」
「せめて首を切る時に、もうすこしゴリゴリやってくれれば良かったのにな」
「いっそ脳天をぶち破るくらいが丁度良かったかもな」
この施設の研究員、廃棄処分担当と試験運用管理担当の人物らが揃って外道な発言をする。かれらはこの施設において何をしているかは知っている。【リリス・プロジェクト】についても知っている。しかし、彼らの善意は既に腐り墜ちて久しく、代わり映えのしない研究成果を売り物にする事で横領紛いの事をしていた。
今夜もスナッフビデオを撮り、それでまた小遣い稼ぎでもしようと思っていた研究者達。彼らは知らなかったのだ。今夜、仮想世界の第一区、領主邸地下で何が有ったのか。報告を受けていなかった。
だから、彼らは想像出来なかったのだ。
その部屋に居る筈の無い、さっきまで画面の中にしか居なかった少女が、彼らの前で踊りを披露するなんて。
残されたのは、壁と床、数々の備品に振りまかれた赤い芸術。それを更に赤く染め上げる、一迅の赤い光の尾。ほんの一瞬の出来事なれど、この部屋から人が消えるには十分すぎる時間だった。
そしてそれは隣の部屋へ、さらに隣の部屋へ、やがて施設全体へ。同胞を殺す事に特化したその刃は、偶然にも凡人ですら殺し得た。声を上げる事すら許されず、気が付いた瞬間に死んでいる。そんな悪夢が花開いた。
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「どういう事ですか?」
ナユタが聞き返す。私は至極簡潔に、今の状況を説明する。
「カエデは、この子達を助けに行った。さっきからこの施設内の人がどんどん消えてる感じがする。きっとカエデ達」
「でも……でも、カエデさんはそこに」
「ナユタ、あれは幻。そう想像した誰かのイメージが、目に見えるだけ」
「それって可笑しいわよね?だって、ドラクスが今大事そうに抱えてる頭はどう説明するの?」
「幻。そう見たから、そう思い込んでる」
ナユタとアプリが目を見合わせて「理解出来ない」とばかりに首を傾げる。
「成る程、俺達はカエデに一杯食わされた訳か。しかしそんな事が出来るなんて、アイツは何者なんだ?」
「カエデはリリス。それ以外わかんない」
「どういう事なのか……理解し難いな」
未だに泣き続けるドラクス。しかし、大事そうに抱えていた頭。そして床に倒れている首無しの死体。そして水たまりの様に広がっている血だまりまでが、すうっと徐々に消えて行く。
「いつから僕が死んでいると錯覚していた?」
どこぞの死神みたいな事を言いいながら、開け放たれたドアから誰かが入ってくる。逆光でやや見え辛いが、その人物の身体には、幾何学的で赤く光るラインが何本も輝いており、右手に持った金に光る剣が白い身体を美しく照らす。ほんのりと赤い光を受けて照らし出されるピンクの様な銀の髪。
「私は解ってたよ?」
「ええー、一度言ってみたかった言葉だったのにー」
カエデは少しだけショックを受けた表情をして、光を散らしながら私たちの前に現れた。
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「あんた、幻術をリアルで使うって何者なワケ?」
「えっと……あれは僕がやったんじゃないんだよ。正確には僕がやったんだけど、あれを想像したのはこっちをチェックしてた研究員の人だよ。それを僕達が協力して幻影を見せたんだ。もう、僕達が殺して来たけれど……」
「…………そう」
そう、僕は現実で人を殺して来た。ゴードン伯爵の時なんて比較に出来ない程に素早く、確実に、”幻の剣”で切り裂いて来た。
「カエデ!!」
さっきまでorz状態だった宗吾が、僕を見てダッシュで近づき抱きしめてくる。あうあうあう、にゃんかそーご、すごくいいにおい……って違う僕!!
「宗吾、ストップストップ!」
「俺は、俺は……お前が死んじまったかと思って……!!」
うあああ、ガチ泣きしてるよ宗吾。男の涙とか欲しく無いよ!別にドキドキしてない、してないんだから!!
それでもやはり離してくれなくて、僕は諦めて宗吾の頭を撫でて上げる事にした。宗吾の頭を撫でるなんて、普段じゃ出来ない事だし。
「それはそうとカエデくん、さっさと撤退しないと他の研究員か警備兵が」
「来ないよ、全員……僕達が殺した」
「カエデくん……君は……?」
「さっきの姿は見たでしょう?アレ自体は僕にも良く分からないんですが、あの状態なら普段以上の力も出せるんです。それに、この身体が教えてくれたんですけど、感応波が使えるって。だから、さっきまでここに居た仲間も、他の部屋で生きていた皆の協力で、館内の研究者と警備員は全員殺したんだ。彼女達の恨みを晴らす為に、協力していた全員を共犯者として」
「それがさっきの幻だったってワケなのね……。ああもう、心臓に悪いわよ」
「ごめん」
たった一言だけど、僕はアプリさんに、そして皆に謝った。
「それで、メディルさん……あの子達の事なんだけど、助けてもらえる?」
「流石にあの量は厳しいんだけどね……まぁ会社を脅してでも面倒見させるさ。こっちには【千弱持冥土】が居る事だしね」
「余裕ですね、むしろアイドルとして売り出しても良いくらいです。この子達は生まれた時から美しいダイヤなのですから、磨けばさらに……いえ、いっそ新しいメイド喫茶を開くのも手ですか……!」
どうやら彼女達の今後が確定したようである。がんばれ、みんな。
出入り口からぞろぞろと、同じ姿の少女達が入ってくる。総勢二十九人だった。僕を入れて三十か、丁度いい数だね。
「あとは、お前だけだよ。楓」
「なんだ、気付いていたのか。さすがリリスだな、楓」
ひょっこりと姿を現す男の楓。以降は暁と呼ぶ事にしよう。
「暁、で良いよね。紛らわしいし」
「うん、構わないよ。僕の名前を誰が使おうが気にしない」
半分諦めた口調で言い放つ暁。その仕草は、既に僕が知っている僕ではなかった。ほんの数日の間に、僕に何が起きたと言うのだろう。……いや、それは僕も同じか。ほんの数日の間に、あんな”夢”を見る程まで宗吾に依存していたみたいだし。
「ねえ、楓。僕は間違っていたのかな?」
「正しいと思うよ。将来的に確実な破滅が訪れる事を知って、それでも人を生き残らせようとするなら、その意思は間違っていない」
「そう……だね」
「でも……それでもっ、こんなやり方は間違ってる!人の命を弄んで、心を踏みにじって、それで成せる正義があるなら、それはとっくに悪なんだ!悪である事に気付かない悪なんて、最も軽蔑すべき悪だよ!!」
「………………」
「暁は僕だ。きっと止めようとしただろう、彼女達を助けようとしただろう。それでも、だからこそ、君は諦めちゃいけなかった!!僕と言う存在を作った事で、壊れちゃいけなかった」
「楓……君は……」
暁は驚いた表情で俯いたままだった顔を上げて、僕と目を合わせる。
「解るよ、僕だもん。僕の……いや、この身体の……ゼノヴィアの事、大切だったんでしょう?だって、僕達が助けたあの時のイヴだったんだから」
「そこまで、共有されていたのか」
「うん、アイシャはどうやってかそれを知って、むしろそれを利用してラスティを……」
そう、ラスティことディアナを助けたというのも僕……いや暁だ。でも、状況が違ったんだ。ただ迷子になっていた奴隷の少女に飴をあげただけ。それで、まだお屋敷に雇われている時に、そのお屋敷に連れて行っただけなんだ。あれを突発クエストと判断していた僕はすぐに思いつかなかったけれど。
だが、その出会いによって、彼女の死体は変容された挙げ句人形にされたのだ。
「ねえ暁、君が犯した罪は重いよ。でも、やっぱり君は暁だよ。僕がそう願って、理想と描いた救世主。あの時、僕を助けてくれて、ありがとう」
おかげで、アイシャを殺さずに済んだ。
さっき斬って来たから解るんだ。こんな幻の刃でも、本人が斬られたと感じてしまえば、”現象”が成立してしまう。現実をねじ曲げる刃が肉を斬り、骨を断つ。まるで本当に斬られたかの様に、ひとりでに。
「楓、僕はどうしたら良いのかな?」
「ゼノヴィアの事を諦めろ、なんて僕は言わない。この感応は彼女の物だから、解るんだ。彼女が奥に居る事を……だから暁、僕を守れ。そこからやり直そう。残念ながら、僕には戸籍も何もないからね!」
暁がゼノヴィアと過ごした時間を思い出す事が、僕には出来ないけれど。自分が壊した少女を取り戻す為に悪にさえなる君なら、僕はそのうち消えてもいいから。
こうして、僕は帰って来たのだ。
居場所の無い世界で、寄りかかる木を見付けて。
「いつからカエデが死んでいると錯覚していた?」
でしたー!ひゃっほー。
カエデ自身に能力は無いのですが、イヴとしてZのゼノヴィアが持つ【感応】を最大限に利用した結果でした。
あの状況で、どんな予測をするかによって幻は変わっていたのですが、研究員の一人が思い描いた状況が、『あっけなく首を飛ばされる』だったわけです。
さて、これで『天使の歌声を』と『俺の幼馴染みがチート過ぎてい世界に飛ばされました。』の次話を書く事が出来ます。
そちらもお楽しみください。
あー、宗吾いつ殺そうかな。
第一章最終話手前まで
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沢山の読者様に読んでもらえて、嬉しい限りです。
ありがとうございます!!




