第20話 せめて人らしく
サブタイは有名な奴から間を取っただけですが。
今回はアイシャ・フルーディアのみの視点です。
フリーディア・オンラインの真意に近づきつつあるお話です。
ああ、簡単だ。あっけないくらいに簡単に死んだ。流石はボーナスポイントだわ。
ラスティと呼ばれたディアナ・フリーディアの身体を操り、目の前の餌が持っていた小太刀で胸を突き貫いた。何の防御も無い、簡単な作業だった。当然だ、防具はおろか全裸なのだから。それに、この娘の身体はレベルをあまり上げていないのだろう。基礎防御力も低かった。
小太刀から手を離す。どうやら状態異常の炎上は発動しなかった様だ。運だけは良い様だが、さっきの一撃でもう絶命している様だった。急所を突いたのだから、それこそ当然の結果である。例え際弱の切れ味でも、私自身の攻撃力が勝っている筈なのだから。
私が持つ称号は【死霊術】【氷魔法】【霊術】【交渉】【剣士】【夢魔法】【再生者】【暗躍者】。ディアナの身体を使って話しているのは、死霊術と暗躍者の称号を同時に使っているだけだ。
レベルが30だというのに、これ程の称号を持っているのは偏に私の本来の能力が原因だ。【供喰】という能力、私が生まれ持った、現実で手に入れた本当の力。フリーディア・オンライン(このせかい)では有る程度調整された能力が使える様になっている。支配下の者の力を共有する力。現実では同族にしか使い道が無いこの力。面白い程に機能している。
私はAの名を持つ何代目かのEP-01アイシャ・フリーディア、制作段階で最も優れた個体として最終調整に出された優秀作品。
マリアとしての立場を許される、高待遇が約束された存在。交配する相手を自分から選べる権利を持つ。私たち実験動物が初めて得る権利だ。
そもそもEPとは、来る世界の終焉に向けて人類に残された最後の手段。生き残る事が絶望的だと判断した人間達による、未来への架け橋。それがイヴ・プロジェクトであり、私たち量産型母胎なのだ。
世界に存在する全ての種と交配出来るように作られた万能子宮、それを用いてあらゆる環境に対応出来る亜人を作り出す為の母胎を作り出す計画。
私たちは生まれた時から、雄を欲情させるフェロモンを持ち、否が応でも子を生す事を宿命づけられている。おまけに胎児の成長期間が早く、三ヶ月に一回は出産出来るように調整されている。更に一定確率で同じイヴが生まれる様に仕組まれているのだから、質が悪い。例え犬や、は虫類に犯されても、ほぼ確実に受精する万能さだ。既にそういう先輩達は出荷されるか、玩具になっている事だろう。
けれど、そんな私たちにはもう一つ得意な点が有った。どうやら、”ESP”というものを手に入れたらしい。時に思うだけで物体をねじ曲げたり、相手に伝えたい事が口に出していないのに伝わったり、蓋の無い鉄箱の中身を当てられたり。この力のおかげで、私たちは一時の自由を得る事が出来るようになった。
それこそが、この世界である。
【フリーディア・オンライン】とは良く言ったものだ。私たちにとって唯一の自由は、この世界だけなのだ。
それでも、私たちにはルールが科せられている。このまま何もせずに獣の蜜穴と化すか、この世界で他の実験体を蹴落として一人10ポイントを手に入れ、合計100ポイントを貯めて交配の相手を選ぶ権利を得るか。だから私は、どんな卑怯な手を使ってでも勝ち残る。
既にこの世界で価値観を磨かれた少女に、他種族の子宮となるには辛過ぎたのだ。
しかし、彼らは敢えてそれを善しとした。過酷な状況に耐える為の、精神の負荷実験と称して。
「さて、東の内乱で取り逃がしたEP-04は殺せたし。おまけも一匹殺せた。もう第一区も用済みだわ……あと一人、あと10点で私は解放される。んふふ、今度は南に行ってみようかしら。最後の自由だもの、南国のビーチでゆっくり殺すのも悪く無いわ」
完全な安全圏に身を置き、さらにカエデを人質に取る事で危険を回避したアイシャはこの時、既に勝ち誇っていた。このあとは、この娘のアバターを死霊術で操ってドラクスとかいう男を籠絡でもしようか。そんな事を考えている時だった。
一瞬、赤い何かが横切った気がした。
同時に切れるディアナの死体とのリンク。地下の空間に意識を引き戻される感覚。まさか、あのドラクスとかいう男が、私のバックアップを受けた髭議長を倒したとでも言うのか?そもそも、私が意識をディアナの死体に繋げる前に、アレは凍結状態にしておいた筈。
視点を合わせる。が、やはりソコには氷付けの男のアバター。死亡マーカーが出ていない時点で、まだ生きているのだろうが時間の問題だろう。それにしても、じゃあ何故リンクが途切れたのか?魔力不足か?自身のメニューで確認するが、やはりしっかり残っている。まだ八割も残っている。どういう事だと訝しむ。
タタンッ……。
何かの音がする。足音か?もう追っ手が来たのか、と。こいつらの仲間は中々優秀だな、なんて思ってると外へ出られる迷宮に出来た一直線の穴から、何かが飛び出して来た。
「なっ!?」
速い。何とか身をよじって右側にステップ、いやジャンプして事無きを得る。
何だコレは、速すぎる。幾らゲームとは言え、この速度での移動は異常だ。だいたい、さっきの足音だって遠くで聞こえた筈だ。なのに、次の瞬間にはもう私は捉えられていた。ちらりと見た所では黄色っぽい剣と、赤い服みたいだけど……。通り過ぎた先を見るが、そこには何も無かった。おかしい。音も立てずに今度はどこへ行った?
「何が……」
無音。まさか剣を振り、その結果切断に至るプロセスを含む全ての行程で、無音。ただ、何かが通り過ぎた風と、直後に聞こえるジャッ!と言う音に耳を疑う。私の右腕が、無い。肘から下が無い。床を見ると、ソコにはやはり、私の腕が落ちている。いつのまに?今の風が?かまいたち?
理解出来ない攻撃に顔を歪める。何が起こったのか、誰がやったのか。なぜこんな事になっているのか。歪んだ顔のまま、目の前の闖入者に眼を向ける。
いた。今は止まっている。此方を見ている?誰だろう、赤い。とても赤い。幾何学的なラインが全身を満たし、そのラインが煌煌と紅く輝いている。手には黄色っぽく光る長剣、魔力剣だろうか?実体はなさそうだ。そして瞳も黄色、いや金か?顔にまで出ている赤い光のラインが、金色の瞳を穢している。そして髪は、全身から放たれる光りに染められて赤く見える。だけど、あれは白だ。いや、見慣れた銀髪だ。銀髪に金眼で、体中に赤いラインを輝かせる幼い少女。私の似姿とも思える、美しい少女が、いる。
信じられない、信じたく無い。こいつは私が殺した筈なのに、胸に小太刀を突き刺した筈なのに。なぜ傷跡すら無いのか!?
刹那、またしても視認が難しい速度で走り出す少女。赤いラインの残光が帯を引いて、私に迫る。名をなんと言ったか、ああもう。聞いておくんだった。あとで研究員をから詳細を聞こう。
私は自分用に氷の盾を用意し、未だに現実へ帰れると思い込んでいる哀れな髭議長に命令する。
「アイツを倒しなさい!あいつは鍵じゃないわ、むしろ貴方の妨害をする敵よ!!」
「やらせんぞおおおおおおおおおおお!!」
髭議長に氷魔法の支援技【氷鎧化兵】を付与する。ついでなので、折の中の凍った死体の山にも【死霊術】と同時に【氷鎧化兵】をかけて行く。さらに【氷槍】を持たせて準備完了。数は万全、片腕でよくぞやった私!
「行きなさい!たかだか低レベルプレイヤーの一人くらい、蹴散らして見なさい!!」
全力で倒しにかかる僕達。精神的に脆い髭議長と、お得意の氷鎧死体槍兵団をでっちあげ、目標に向かわせる。槍を前面に構え、突進するゾンビども。リーチの長い槍を持ったゾンビだ。生半可な攻撃ではまた刺し貫かれて死ぬだけだぞ、ネームレス!!
まずは氷鎧竜になったままのでかい図体をした髭議長が爪で攻撃をする。かなりの速度での突きが放たれるが、またしても赤い帯を引いて回避。そこへゾンビの槍が殺到する。何度も、何度も、多方面から襲い来る穂先をかすりもせずに避け切っている。逆に魔法剣でゾンビが断ち切られている。腕を斬られ、足を斬られ、それでも襲い来る攻撃かいくぐり、私へと少し、また少しと近づいてくる。
ざり。
本能的に後ずさる。なんだこれは。これが本当に低レベルなボーナスポイントだと言うのか?私は何に手を出したのだ?くしゃくしゃに歪んだアイシャの顔からは、もはや理解不能な相手に対する恐怖心しか読み取れない。
数十隊居たはずの、氷の鎧で覆われ氷の槍を持つ集団の殆どを斬り捨て、氷鎧竜と同化したマーク議長の攻撃をかいくぐってバラバラに解体し、彼我の距離は五メートルもない。この間、あの少女は無表情で戦闘している。もはやあの綺麗な金色の瞳は濁り切り、仄かに赤い光を受けて不気味でさえある。
ぺた、ぺた……全裸で襲い来る、赤く光るラインを身体に宿す少女は、こちらの隙を伺いながらも確実に距離を詰める。
何がいけなかったのか。何処が間違っていたのか。もう何も解らない、考えられない。
もう魔力の全てを使い切っている。使役したゾンビも殆どやられ、手元にある二体のゾンビの氷鎧の密度を上げたが、何処まで持つか。
案の定、氷鎧をものともせずに切り伏せる謎の魔法剣。まるで草をかき分ける様な無造作さで此方へと接近してしまう。こんなことで、こんなことで私は!制作段階で最優秀だと太鼓判を押され、この世界であと一匹狩るだけである程度の自由が与えられる権利を手にする私が!こんな、何も知らない奴が!!
そうだ、こいつが持っていた隠し弓。面白そうだから奪っておいたんだ。たしか右手に………………あ、そうだ、さっき斬られちゃったんだ。
前方に向けた右手の、肘の先が無いのを見て思い出す。手が無い。もう何も出来ない。コレで終わるの?せっかく頑張って殺したのに、せっかく頑張って騙したのに。これで、終わりなの?
私に向けて振り下ろされる、一切の感情が読み取れない剣戟。赤く光る全身を満たすラインと、金色の剣の軌道のライン。とても綺麗で、最後がこれなら良いかも知れないと、ほんの少しだけ思ってしまった。
観念して、眼を閉じる。これで終わりなんて嫌だけど、こんな訳の分からない化け物に殺されるなら、せめて恐れたりしてやらない。怖がってやらない。既に足が震えていようとも、涙があふれようとも、もっとここに居たかったと願おうとも。それを表に出してやらない。さあ来い、私の覚悟は十分だ。
「………………あれ?」
待てども何も起こらないせいで、私は素っ頓狂な声を上げてしまう。閉じていた眼を開けるが、そこは真っ暗な闇。ああ、私は死んじゃったのかな?でもゲーム死んでも、目覚めるだけのはずなのだけど。
ふわりと、闇がたなびく。違う、これは闇じゃない。布が目の前に垂れ下がっている。視線をそらすと、そこは金色の閃光と白色の閃光が散っている。よく見たら布も完全な闇じゃない、どうして闇だと思ったのだろう?逆光で見えていなかったのか、それはどう見ても深紅のマントだった。
深紅のマントが翻り、露出する服は白、所々に鉄色の部分鎧を付けていて、黒い髪とのコントラストが美しい、長身痩躯の男性が白く輝く両手剣で化け物の剣と鍔競り合いをしている。
「たす……かった……の?」
目の前の男性が大きく力を込めて、少女の身体を押し飛ばす。同時にくるりと回転を込めて、その光の白刃が、私の首に……。
崩れ落ちる視界の中で、緩やかに身体に走る赤いラインの光を散らせて行く少女の姿が見えた気がした。
「はっ!?」
マンションの自室ベッドで現実に帰って来た。いや、目が覚めたと言った方が良いのだろうか。どうやら最後の記憶から意識を失っていた様だ。既に昼を超えている。
「結局……あの子は何だったの?」
確かに刺し殺した筈の少女が、簡単におびき出した馬鹿な少女が死んだのは確認しては居なかったけれど。それが原因でこんな事になるなど誰が予想出来ようか。
「それに、最後に現れたあの男性……」
強かった。あの金色に輝く剣と同種の剣を持っているのだろうと思う。あれはどんな称号から手に入る武器なのか?魔法剣士とかだろうか?だとしても、あの状況では私が一方的に教われている状況の筈。なのにどうして私が殺されたのか?いくら考えても謎は拭えず、疑問は増えて行くばかりだ。
「あの人……なんて名前なのかな?」
不意に出た言葉、どこか熱が篭った、夢見がちな声色。そんな権利が有る筈が無い。そんな事は解っている。けれど、あれがもし私を助ける為の最善手だったとしたら?私を助ける為に、駆けつけてくれた……騎士様。
顔が熱い。妄想が止まらない。あの人が、私をこの運命から解き放ってくれる王子様だとか、この計画を潰して私を助けてくれる正義の味方だとか。頭をぶんぶんと振って自分を落ち着かせる。私はそんな夢見がちな恋少女じゃなかったはずだ。
それにしても暗いな、こんなに部屋暗かったっけ?
さらり。
黒い糸束の様なものが、視界を邪魔する。何だろうと引っ張ってみる。
「いたっ」
痛い?
何で?
この糸束は何なのだろう?
その糸束の元を辿る。頭皮だ。これは、もしかしなくても私の髪なのか?
後ろに流れている長い髪をすくって、目の前に持ってくる。
黒い。
質は悪くなっていないのだろう、綺麗に光りを反射している。けれど、黒だ。
慌てて姿見を見る。この部屋は私が『嫁ぐ』までの間、束の間の自由を許された空間だ。勿論外に出る事は出来ないが、食事等は一週間に一回研究員の人が買い出しをして来てくれる。そんな居住空間だから、上等とは言えずとも姿見くらいはあった。
その鏡に映る少女は、透き通る様な銀髪に煌めく金の瞳。その面影は欠片も残さず、黒い髪に茶色の眼が配置されていた。
これは、どういう事だろう?染めた訳じゃ無い筈だ、眼の色だって説明が付かない。訳が分からない。あの忌々しい奴隷の証とも取れる銀髪金眼が、綺麗さっぱりと消え失せている。
それでも、私は戸惑うだけじゃ終わらない。
何の為に【フリーディア・オンライン】に行っていたのか。私自身の自由を掴み取るため。せめて人らしく、生きて行きたかったから。せめて人らしく、死にたかったから。そんな素朴な願いさえ叶えられない身だったから、あの世界に仮初めの自由を求めた。
けれど。ああ、私は自由だ。例え多種族との交配性能が残っていた所で、既に一般人と見分けが付くまい。幼女では生き辛いだろうが、今のまま殺されるよりは億倍マシだ。
そうと決まれば、こんな所からは出て行こう。それが私にとって、求め続けて来た自由なのだから。
※これSFですから。
さて、カエデさんの変化と戦闘方法から何かを連想した方は居るでしょうか?
某機◯戦士◯ンダム◯Cですね、あの可変機巧は大好きですよ。サイ◯フ◯ームが全身に使われているとか魂を揺さぶるよ。
そして、再び出て来た”謎”の大剣使い。果たして味方か敵か……と言う所で次回!




