第19話 ラスティ
短めです
必死に走る。全力で走る。時々瓦礫で躓きそうになるけれど、必死にこらえて走る。そう言えば、宗吾の家に向かっていた時も必死で走っていたっけ。
「大丈夫……だよね」
残して来てしまった宗吾の事を想いながら、それでも必死に走る。この首輪のせいで、何故か僕が狙われているせいで、泣きたい事に僕だけがデスゲームっぽい事になっている。でも、この首輪だってオルトさんとかなら外してくれるだろう。彼らは運営直下の組織なんだから。
それにしても、綺麗な一直線だった。まるで先の道が解っているかの様に、一直線に穴をあけて来ている。破壊された建物も、修復作業をしない限り元に戻らないというのはリアルさを追求し過ぎだが、今に関しては有り難く思う。
ぶるっ。
寒い、地下で石畳で、そんな空間に僕一人、裸で走っていれば冷えもする。これが現実だったら尿意をも要していただろうが、流石ゲームだ。ちょっと感覚はあるけど、それでも出ないのは有り難い。
……いや、現実で出てないよね?凄く心配になって来た。どうしよう、漏らしてたら宗吾に嫌われちゃ……いや、待つんだ僕。そもそも宗吾にそこまで執着してたのは何でだ?さっきも宗吾に助けを求めて、宗吾と一緒に居る事を望んでいる様な口ぶりで……うん、無い。それは無い。絶対にない!
自問自答を繰り返しながらも、足を止めずに外を目指す。なんとか迷宮の入り口に辿り着いたのか、上へと続く階段があった。それを駆け上がると、小さな部屋に行き着く。
「ここは……」
白い壁紙に、茶色い木材の床が映える。しかし家具の一つ一つが小さい。まるで……そう、子供部屋の様な。
「そう、ここは子供部屋。あの髭ジジイの子供の部屋だった場所」
即座に後ろを振り返る。背後から聞こえて来た声は、何処か低い声だが幼さの残る様な、異質な声だった。
「そう構えなくて良いじゃない。どうせ同類なのだから」
「……何の話だ?」
目の前に立つのは、やはりと言っては何だが死体だ。だが、感覚を借りているのか、襲ってくる様な事はしない。それに、同類とは何の事だ?
「あの髭ジジイはね、子供を取り戻す為に力を付けて、現実世界へと向かうつもりなのよ。笑えるでしょう、そんな事なんて無理なのにね?」
「お前が、マーク議長を誑かしたのか……?」
「誑かした、なんて……。私はただ、髭ジジイに協力するって言っただけよ?誰も現実への旅が可能だなんて一言も言っていないわ」
「そもそも、何で子供探しに現実に向かう必要が有る?」
「簡単よ、髭ジジイの子供がプレイヤーだからよ。その為に作られたなんて、哀れな親よね」
確かに、そんなシステムはある。親の居ない子供が、親の愛を求めて課金システムで誰かの子供に成る。その後は好きに出来るが、このNPCは人同様に心の有る存在なんだ。急に子供が消えて、探しに行かない訳が無い。それこそ、親の愛を求めて作り出された親であれば、尚の事。
「簡単だったわよ。この世界の真実と、子供がプレイヤーである事を言っただけで、あれよあれよと現実に出たいって言う程になって。ちょっとアドバイスするだけでこのザマよ。”私の様な銀髪金眼の幼女が現実世界への鍵だ”なんてどこぞのアニメみたいな事を言うだけでよ?それでも、面白い物が見つかったのだけどね」
そう言って僕を舐める様に見つめる。その視線が身体にねっとりと纏わり付く様で酷く不快だが、この死体から逃げる事も出来ないだろう。武器も何も無い、今の僕では。
「君は、ラスティなの?」
気になった事があった。彼女は今、”私の様な”と言った。そんな特徴を持つ者など、そうはいない。
「あら、そこに気付いちゃったの?でも残念。近いけど間違いよ。私はラスティじゃない」
「なら、ラスティは何処に居る?」
「目の前にいるじゃない」
「……この子が……でもっ」
「髪なら染めたのよ、あんまりに目立つものだから、来るべき貴女との会話までの間邪魔でしょう?あ、死体の山から取り替えただけよ?案外簡単だったわ、人の眼を入れ替えるのって。押し込んでヒールしたら治るんだもの、ゲーム世界様々よね」
この子が、目の前の浅黒い肌に黒い髪、虚ろな青い瞳の少女が、ラスティ……。ごめんよ、ミスティ。君も、彼女も、助けてやれなかった……っ!
「まったく、何を哀しそうな顔をしているのよ。あんたも同類でしょうが。コレまでにどれだけ殺して来たの?ねぇ、教えて?貴女はどれだけの力を持っているの?」
「……何の話?」
「〜〜〜っ!やっぱり、解ってないのね!?儲けたわ、これはボーナスポイントなのね?」
「何の話だって聞いてるんだ」
「全部説明するのも癪だから、少しだけ教えてあげる。この娘の名前はEP-04ディアナ・フリーディア。私の名前はEP-01アイシャ・フリーディア。私たちはこの世界では王家の人間で、現実の世界では実験動物であり、生産用肉便器よ」
「何……だよ、そのEPとか、王家とか実験動物って……」
「そのままよ?私たちの様な銀髪金眼の幼女は全員、EPの申し子なのだから」
「イヴ・プロジェクト……?」
「もう駄目よ、ここからは教えてあげない。どうせここで死ぬんだもの、優秀作品の名の為に私の糧に成りなさい!」
ラスティの亡骸が右腕を前に向ける。そこには、僕がオルトさんから貰った小太刀・茜が握られていた。
「ゲームで死ねたら、現実に戻れるって思っているなら間違いよ。現実では有る意味で死ぬ事になるのだから」
「……どういう事?」
「んふ、簡単な話よ?貴女がどこぞの富裕層に買われて行くだけの話だわ」
それだけを言うと、ラスティの身体が驚異的な速度で突進を始める。紅に煌めく刃が、僕の身体に豆腐を崩す様な簡単さで突き刺さった。
EPとかについて、詳しくは次回!




