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第18話 行方

今回ちょっと長めです。およそ一万字。


今朝にはうpするって言っておいて出来ずにすいませんでした。

深夜に姉と愚痴大会開いてたんで、眠気にさそわれてガクリと。

悔しい、でも眠っちゃう!ぐぅぐぅ。的な。


加えて、途中出来ると嫌な展開だったので。

では、お楽しみ下さい。

「う……ん?」


 冷たい床に頬を擦り付けながら、僕は上半身を起こす。どうやらもう朝の様だ。昨日は何してたんだっけ?

 確か、カレー作って、そーごと二人で食べて、銭湯に行って、おやじ―ず?と遭遇して、ログインして……ゾンビ?


 駄目だ、僕はまだ寝ぼけている様だ。あはは、有り得ないよね……フリーディア・オンラインがゾンビゲームに様変わりだなんて。


 頭を振って眠気を吹き飛ばす。というか、ここは何処だろう。硬くて冷たい床だとか、こんな場所で眠るほどに僕は疲れていたんだろうか?


 視界が定まってきて、周囲の光景が目に入って来る。何だろう、薄暗い……それに、何だか嫌な臭いがする……。


 そこには、積み上げられた女性たちの死体があった。


「……え?」


 目を疑う。こんな光景が許されていいものか。山の様にうず高く積まれた死体の山は、頂上に行く程年齢が下がっている。天辺には幼女が多かった。


「なに……これ……」


 その死体は腐っておらず、さっきから漂う匂いはこの死体からではないのだと理解する。だって、この死体達は全て“凍って”いたのだから。


「カエデ……」

「その声、ミスティ!? どこにいるの!」


 周囲を確認するが、薄暗くてよく確認できない。ちろちろと燃える蝋燭だけが光源で、その光さえ遠くにある。だが、一つ分かったことがあった。

 僕は檻の中にいた。


「ごめんよ、カエデ……こうしないと、ラスティを返してもらえないから……」

「ラスティ……無事だったの!?」

「ああ、ラスティは生きてる。まだ何もされていないって……」

「僕は、ラスティの身代わり?」

「………………」


 沈黙は肯定と見なす。誰かが言った言葉だが、まさしくその通りだった。


「ねぇ、ミスティ教えて?」

「……」

「他の子供たちは無事なの?」

「ああ……あの人は約束してくれた」

「あの人って、だれ?」

「言えない。言ったら、全部終わりになる」

「そう……」


 きっとミスティも必死だったのだ。絶対に失いたくない人を失ってしまって、その人が返ってくるのであれば、どんな手段でも引き受けるほどに。そんな悪魔の囁きに耳を貸してしまう程に。


 ラスティが生きていたのなら、そういう行動に出てしまうのも無理はないだろう。幸い僕はプレイヤーだ。ラスティを取り戻して外に逃がしたら指輪を渡してギルドまで行くように伝えて、僕はログアウトすればいい。


「ごめん……」

「いいんだ、ラスティが帰って来るなら、仕方ないよ。それに脱出の手が無いわけじゃないからね」

「ごめん……」

「良いってば」

「本当に、ごめん。カエデはもう、逃げられない」

「え?」

「拘束の首輪って魔導具……それが着けられたら、どんな行動も出来なくなるって……あの人が」

「……っ!?」


 僕は自分の首を見ようと下を向く。いや、当然見えないんだけど、首と顎に何かの感触を感じる。ひんやりとした、鉄の感触。さっきまで体温で温まっていたのか、後ろの方はやや温い。というか僕、裸だった。


「ひゃあああああっ!?」


 裸に首輪って、どんだけアブノーマルなのさ!?


 せめて何か着る物を。そう思ってメニューを開こうとするが……出ない。


「えっ……」


 何度もメニュー表示のジェスチャーをする。システムコールでメニューを求める、メニューを念じる。全てが操作のためのコマンド。しかし、何も起こらない。


「どういう……こと?」

「俺には分からないけど、カエデを逃がさないための道具だって……言ってた」

「誰が?」

「……言えない……っ」


 そんな、そんなアイテムがあるなんて……そもそも、何故そんなアイテムが存在するんだ?


 ふと死体の山を見るが、見える範囲の死体には一つも首輪がかかっていなかった。それどころか全部全裸である。青白い霜がかかった“人だった物”は、その全てが僕と違っていた。


「僕を、狙っていた……のか?」

「その通りだよ、椎名楓」

「っ!?」


 闇の奥から、低くダンディーな声がする。僕は、この声を以前何処かで聴いている。いや、何処かでではない。つい先日、それもギルドホームで聞いた声だ。ああ、確かに。僕が連れ込まれた場所に居るべき人物の声だった。


「マーク・ビュッセル議長……っ!!」

「私の館へようこそ、現実へと至る鍵の少女よ」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「この事件の黒幕が判明した」


 ギルド、クリムゾン・ドロップスのロビーで、諜報担当のオルトはそう切り出した。


 現在ロビーにいるのは、満身創痍のメディルと、無表情ながら焦りが感じられるナユタ。興味なさげに外を気にするシスと俺の四人である。ドラクスはまだ現場で暴れているらしい。アプリはどこかのギルドホームに避難した様子。問題は、カエデの反応がロストしている事だった。


「しかしオルト。今回のゾンビ大量発生は、普通じゃ考えられない事だ。運営に確認してみたけど、原因不明だって返されたしね。唯一考えらるのは死霊術ネクロマンスの称号だろうけど、掘り下げてスキルアビリティや魔法書を確認したところで、ここまで大規模な事件にはならない仕様らしいぞ?」


 メディルは疲れた様子で言葉を並べた。だが、それにはやはりオルトが答える。


「ああ、例え吸血鬼が出たところで、こんなゾンビ騒ぎにはならんだろうさ。なにせプレイヤーまでがゾンビ化するんだ。もはやゲームの仕様上有り得ない」


 そう、プレイヤーアバターまでもがゾンビ化する事は、現状のゲームシステムでは説明できない異常事態である。そんな仕様はどのスキルでも魔法でも称号でも得る事は出来ないのだ。ならば、何故?


「そんな事より化物サッカーろうぜ!」

「落ち着けシス。上手い事言ったみたいなドヤ顔もよせ」

「むぅ、つまらない」


 そもそもこの現状は面白くとも何ともねーんだが?


運営うえはすぐにでも強制緊急メンテナンスに移行するつもりらしいが、まだ行動には出ていない。何でか解るかメディル?」

「うーん、メンテナンスでは解決出来ない重要な問題が発生している……とかかい?」

「当たらずとも遠からずだな」

「オルトさんは、それを突き止めたと仰いましたが……ここで話されて大丈夫な内容なのですか?」

「察しが良いね、ナユタ。流石は情報統合処理班だ」

「恐縮です」

「え、何?俺はハブ?」

「まぁ、そう言うなメディル。でだ、今回のゾンビ事件、当然だがゴードン・フィラエル伯爵暗殺が関係してくる」


 ピクリ……と、これまで興味なさ下だったシスが耳を傾ける。実際にその場で何があったのか、直に体験したシスならばこの特異性も理解できるだろう。


「夢魔法?」

「そうだ、今回の大規模な魔法の原因は夢魔法に起因する。でもそれだけじゃない」

「それだけじゃない……というと、やはり」

「ああ、プロジェクト・フリーディアが動き出したみたいだ」

「プロジェクト・フリーディア……やはり、動き出したのか


 三人の会話についていけないシスは、三人の顔を見るが真剣な表情なので、誰かが説明してくるのを待つことにした。


「シスは初めて聞く名前だろうが……そうだな、シスはファンタジー・スクール・オンライン事件は知っているな?」

「ん」

「あれのデスゲーム・プログラムを作ったプログラマーは捕まって極刑を食らった事になっているが、実際はまだ逮捕されていない」

「!?」


 酷く驚いた顔をするシス。そりゃそうだろう、戦後日本において最多の被害者をだした大殺人鬼だ。それが捕まっていない上に、今このゲームに居るのかもしれないと思うだけで恐ろしい。


「未だに何処かで狙ってるんだ。新しい現実となる世界をね」

「そうだ。メディルや俺達は実際にヤツとゲーム内で何度かやり合った事があるしな……俺TUEEEEが大好きな変態野郎だった」

「デスゲームでチート使い放題とか、悪夢ですよね」

「ヤツは必ず、目標となるゲームに潜伏する。正々堂々と、リアルの顔のままでな」

「だが、あいつは乱入者によって追い立てられる事になった。政府が送ってきた特殊な軍人達の手で、追い詰められた」

「だが、政府はあろうことか、そいつを匿ったんだ。丁寧な口調で「戻りますよ」って言ってな」

「奴と政府が何を企んでいるのかは知らないが、今回の夢魔法は実験に過ぎないと思っている。そもそも、夢魔法だけじゃここまで大規模にはならない筈だしな」


 シスは真剣に話を聞く。オルトはそれを見ると、言葉を慎重に選んで続けた。


「ラスティって呼ばれてた、カエデにそっくりな少女の話は聞いただろう?問題はそいつだ。俺の調べでは本名は“アイシャ・フリーディア”中央国家の姫君にして、第七王位継承者だ」

「姫……だと?」


 メディルとナユタが驚いた顔をする。そりゃあそうだ、中央の姫様が何でこんな辺境の街で奴隷として売られた上に貧民に紛れて暮らしているのかってな。


「だが、問題はそこじゃない。ここからは、俺が直に犯人から聞いた言葉だ」


 ゴクリ。と、息を呑む空気が広がる。


「『アイシャ・フリーディアは、現実へと至る回廊への鍵だ。しかしその力はどこかへと失われてしまった。だが、姫の似姿を見つけたのだろう。まずはそれを捕えろ』ってな」


 空気が凍る……とは、こういう時の事を言うのだろうか。メディルもナユタもシスも、目を見開いて絶句している。


「現実への回廊……?奴ら、このゲームの外へ行く気なのか?」

「有り得ないですよ、そんな事出来る訳がっ」

「出来るさ、勿論肉体は必要だろうがね」

「私達が、その肉体ボディ……」


 しんと静まり返る四人。


「だがそうなると、カエデくんが危険だ!早く呼び戻さないと」

「今、カエデさんとの通信は途絶えています。状況から見るに、敵に捕まったのかと……」

「オルト、その話何処で聞いたの?」

「マーク・ビュッセル議長の屋敷。今回の黒幕は、恐らく奴だ」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「どうして、貴方が僕の事を知っているんですか?」

「おかしな事を、以前依頼をしたでしょう?カエデ嬢」

「僕のリアルネームを知っている事について、ですよ」

「おや?貴女はご自分の事をご存じ無い様だ……ならば、皆まで話す必要もあるまい」

「おっさん、早くラスティを返せよっ!」


 会話の途中でいきなり割り込んでくるミスティ、しかしマーク議長はふぅ、と深いため息をついてミスティに顔を向ける。


「君はこんな所で何をしているのですか?早く居るべき場所に帰りなさい」

「は?何を言って……」

「聞こえないのですか?しょうのない“死体”だ」


 ………………死体?


「今、何て……?」


 声が震える。今、この男は何といったか?「しょうのない“死体”だ」と?


「言葉の通りですよ、貴方に裂く魔力が勿体ないので、とっととあの世へ帰りなさい。“死体解放ネクロアウト”」


 ドチャドチャッ!


「………………え?」


目の前には、さっきまで申し訳なさそうに俯いていた少年の体が、地面に血を撒き散らしながらバラバラに転がっていた。その顔は恐怖に引き攣り、見るのも躊躇われる姿へと変貌していた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 何で!?なんで?

 ミスティが、ばらばらになって……なんでっ!?


「良かったですね少年、これでようやく貴方も報われた」

「どう……いう……?」

「簡単な話ですよ、彼は私が操っていた死体だったのです。ラスティと勝手に名付けられた哀れな姫、アイシャ・フリーディア様」

「僕が……ラスティだって?」

「はい、以前捕獲したこちらのアイシャ様は自害成されまして……仕方なくもう一つの方に手を延ばさせて頂きました」

「何……を、言って……」

「理解出来ないのであれば仕方ありません。ただ、貴方のその美しい肉体は我々が入るべき器なのです。その汚らしい魂をこちらに捨て置き、私共のような高貴な人間に使われてこそ、その器の価値があるのです」


 分からない、この人の言っていることが分からない。頭がこんらんする。理解を拒否する。もう、何が何だか分からない。


「もう良いでしょう、そろそろこのちっぽけな世界にも飽きていたのでね。その体、明け渡して頂こう」

「……………………」


 考えることが出来ない、迫る手を払う事も出来ない。床に目をやると、そこには幾重にも絵が描かれた魔法陣。マーク議長の手には、一冊の古めかしい本。詠唱は開始された。もう止めることは出来ない。僕はこの世界に置き去りにされ、現実の僕の体を、この中年が使う事になる。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!!


 そーごに会えなくなる、そーごにご飯を作ってあげられなくなる、そーごに頭撫でてもらえなくなる、そーごとまだお出掛けしてないのに、そーごに何もしてあげられてないのに、そーご、そーごぉ……。


 ぼろぼろと溢れだす涙を拭いもせずに、ミスティの肉片が転がる地面を前に、僕はただひたすら泣き続ける。


「やだ、やだよぉ……そーごぉ……っ!」

「馬鹿な娘よ、誰に助けを請うても無駄だ。なにせ此処は私の屋敷の地下迷宮の先にある牢獄だぞ?その辺の子供が迷い込めるほど、安い作りでは無いわ」

「そうなん?割と簡単に来れたけど」

「そーご!」

「……馬鹿、な……」


 そーごだ、そーごが来てくれた!しかもあの装備は、散々僕を困らせた装備だ!

……なんか段々腹立ってきた……。


「うぉ、カエデ!?お前なんつーカッコしてんだよ、誘ってんの!?」

「み、みるなぁ!見ないで助けろぉ!!」

「無茶苦茶言うなお前……とりあえず、檻から出してやる」

「無駄だ!その檻は最も硬い黒鉄鋼で作られているのだ、貴様如き優男に」

「はいはい、フラグフラグ。おぅら!」


 ガゴン!!


「そんな……何が起こっているのだ……?ただの剣戟一回で……」

「簡単だろ、俺の剣の方が硬いだけだ」

「そーご、どうやって此処に?僕がいるってどうやって知ったの?」

「あー、なんつーかな。昔の知り合いに案内されてな」

「知り合い?」

「貴様ら無視をするなぁ!!」


 どうやら会話からハブられたせいでご機嫌ナナメな様子。さっきまでの余裕っぷりは何処に行ったんですかね?プークスクス。


「おい、おっさん。カエデは返してもらうぞ?お前の妄想に付き合わせる義理も無いからな」

「何をトチ狂った事を……この私が貴様の様なガキに負けるとでも思っているのか!?」

「いやいや、おっさんさぁ……どれだけ自分がフラグをまき散らしてるか解ってるのか?」

「さっきから訳の分からない事をベラベラと!」


 マーク議長は言い終えると同時に、足下で何かを爆発させて推進力とし、魔法使いならざる速度で接近する。同時に詠唱も終え、周囲にスタンバイされた氷の槍が舞う。


 それだけ、だった。


 マーク議長の周囲に展開された氷の槍は、その全てが宗吾の魔法で撃ち落とされた。正面からではなく、下から伸びる赤黒い闇の針によって。


「【処刑ペナルティ血殺針ブラッディニードル】」

「な……っ!?」


 ドラクスの得意とする狡っ辛い手。見た目の大自然さと熱血正義という称号からは想像出来ない闇魔法の称号、【真祖之闇血ダークネス・ブラッド】、かの有名なドラキュラ伯爵の業を体現した魔法体系である。捕縛、拷問、殺人、そして熱くも誇り高き貴族としての力強さ。それらを持ったドラクスの称号だ。たしか最初に手に入れた称号がこれだったと思う。一番最初の称号は、レアな物が出易いと聞くけど、一体何をどうしたらこんな称号が出るのか、未だに不明だ。


「どうした、氷遊びはもうおしまいか?」

「ふざけた真似を……っ!【氷狼召還】」


 マーク議長の周囲に再び魔力が集まり、氷の身体を持った狼が三体現れる。そのどれもが殺気立った眼をしており、今にもドラクスに飛びかかろうと隙を見ている。しかし、マーク議長の狙いはソコではなかった。


「三体を生け贄に捧げ……出よ、【暗き闇の氷魔狼】!!」

「「どこのカードゲームだ!」」

「何を喚いているか解らんが、この氷魔狼ならば闇魔法に耐性がある。貴様の様な下郎の魔法など効かぬと言う事だ、このミドリムシが!」


 いつから生け贄システムが実装されたんだ……いや、生け贄というか……合体した様に見えたんだけど。でも首は一つだしなぁ……あ、眼が六つある。あれか、あれが魔な部分か。


「誰がミドリムシだ、チョビヒゲジジイがっ!【処刑ペナルティ断首刑ギロチン】!!」

 

 狼の首が縫い止められ、ギロチンの分厚く赤黒い刃が首を分断しようと迫る。しかし。

 ガチンッ!

 マーク議長の言った通り、暗い氷の鎧が赤黒い刃を阻む。


「無駄だ、その様な汚らしい魔法で我が最高の召還獣が倒せるとでも……」

「なら物理で殴る」

「え」


 ガゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!


「なっ……」


 闇の霧へと変化し始めていたギロチンの拘束力を生かして、止まっていた氷魔狼の眉間を黒い剣で横に凪ぐ。と、同時に首が綺麗に抉り飛び、頭部に残るのは下顎だけだった。うわぁ、えぐい。


「なんなのだ、貴様のその力は、何なのだ!!」

「言いたく無かったんだけどな、言わせてもらうぞ。『お前の様なNPC如きに負ける訳がねーだろうが』だ」

「クソが、クソがクソがクソがあああああああああああああっ!!」


 マーク議長は更に詠唱を開始する。しかし何故か宗吾は攻撃に出ない、勝てると確信している様だ。それとも、彼の熱血正義の性格が招くマンガ的展開だろうか?


「夢魔法【胡蝶転夢こちょうてんむ】、氷魔法【氷鎧竜ひょうがいりゅうフリーグヴォード】!!」


 マーク議長の身体が分厚く暗い氷に包まれ、その身を巨大な氷の竜に変えて行く。


 【氷鎧竜フリーグヴォード】召還に使用した魔力に応じて、その鎧を強化する防御力に優れた竜。勿論最上級魔法の一つなので、それなりの魔力を召還自体につぎ込む事になる。普通ならば、せいぜい青い鎧が限度だろう。

 これ程の密度の氷を纏わせて召還したのでは、術者が消え去ってもおかしくは無い。なのにマーク議長はそれを成しただけでは飽き足らず、その身体を竜に取り込ませた。おそらく、コレが夢魔法の目的だったのだろう。

 そもそも、彼はこんな姿に成ってまで何を望むのか?


 現実に行く為。


 作られた存在であるNPCが、人の身体を乗っ取って現実へ行く事は可能なのだろうか?

 可能だとして、何故僕が狙われる?何故ラスティが狙われる?

 マーク議長の趣味なのか?とんだ変態さんだ。


「解せないな、マーク議長。お前は夢魔法をゴードン伯爵から”奪った”んだろう?」

「当然だ。この高貴な魔法は私にこそ相応しい」

「アンタ、どうやってゾンビを作った?どうやってプレイヤーをゾンビに変えた?」

「下らない事をほざいて時間稼ぎか?若造のやりそうな事よ」

「………………」

「来ぬのか?それとも怖じ気づいたのか?」

「悪ぃ、アンタの事誤解してたわ」

「何を言ってぬぐぉっ!?」


 広い地下牢の闇の奥へと、巨大な氷の竜になったマーク議長を剣で切り飛ばす。流石に硬かったのか、あまり切れた感じはしないが、かなりの距離をノックバックさせた。どんな筋肉してるんだろう……あ、ゲームか。


「カエデ、逃げられるか?」

「え?で、でも宗吾は」

「逃げられるかって聞いてる」

 

 何か焦った風な言葉遣いに、つい身を縮めて怯えてしまう。ああ、こんなに弱かったっけ、僕。


「悪い、起こってる訳じゃ無い。でも、大体のシナリオは読めたから。お前を逃がす事を最優先にする」

「どう……いう……?」

「説明してる暇はない!早く逃げるんだ、後で説明するから」

「やだよ!宗吾を置いて行くなんて出来ないよ!」

「カエデ、コレはゲームだ。先にログアウトしてくれたって構わない。その時間は稼いでやる」

「出来ないんだ、ログアウトどころか、メニューが出せないんだ」

「……は!?」

「ミスティが、この首輪のせいだって……」

「ちょっと貸せ」


 宗吾が僕の首輪に触れる。あ、ヤバイ、顔を近づけてくるとか、うあうあうあうあうあうあうあ。


「大丈夫かカエデ、顔が大変な事に成ってるぞ?」

「どんな事態に!?」

「いや、物凄くだらしない感じに」

「やあああああああああああああああああっ!!」


 力の限り暴れるが、さすがレベル1だ。無駄な抵抗ご苦労様ですって程にダメージが通らない。


「はいはい、悪かったよ。それにしても、その道具……GMが使う拘束具と似てるな……。いや、勿論手錠だけどな?」


 ですよね、GMが普段から首輪を人に引っ掛けてたら、僕は宗吾をツンドラ地帯のかくやという目線で見つめなくてはいけなかったよ。


「なんにせよ、NPCが持っていて良い物じゃない。カエデはさっさと外に逃げろ」

「で、でも、僕地下迷宮とかわからないよ!」

「大丈夫だ、壁に穴があいてるから、それを辿ればいい」

「……さすが宗吾だよ……」


 迷路踏破(物理)の恩恵にあやかり、僕は一目散に外に向かう。どうやらギルドの皆には宗吾から連絡が行っている様だ。どうかメディルさんには会いませんように。


 そんな願いをかけながら、僕は外へと走って行く。全裸に首輪という、趣味の悪い格好をして。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「よくも、よくも、よくもおおおおおおおおおおっ!」

「お、元気そうで何よりだ。マーク・ビュッセル議長。もう一発どうだ?」


 もう一度同じ場所に剣戟を当てる。

 吸血鬼の怪力を加えた、かなりのAtkとStrを誇る攻撃。


 そう、俺の称号は【真祖之闇血ダークネス・ブラッド

 吸血鬼に代表される変身や魔法、その他拷問や罠、そして極めつけが”怪力”である。

 それに加えてゲーム中で四番目に硬いと言われる【老木の黒剣】を使っての一撃だ。いくら魔法で圧縮された高密度の鎧でも、既にヒビが走っている。もう一度同じ箇所に攻撃を入れれば砕けるか。


「なぜだ、私が此の様な下衆に負ける等、有ってはならんのだ!」

「安心しろよ議長様、そこらの冒険者プレイヤーにだって余裕で負けてるぜ?」


 嘘である。流石にここまでの使い手を見た事は無い。おそらくは金の力と、才能のダブルパンチなのではと思われる。奴がさっき手にしていた本は魔法書。しかも人一人分を余裕で書き込むタイプの魔法書だ。そんなものは伝説級の魔法書くらいなものだろうに……。


 魔法書とは、人生の集大成であると言える。その人の行って来た事、求め続けた事。その結果を魔法として確立され、魂をインクにして魔法書に書き込まれる。例えば魔法書は、火魔法の称号を持たない人間でも、詠唱する事でその人生をなぞり、称号をなぞり、結果を生み出す。簡単に言えば【外部詠唱駆動機】みたいなものだ。


 称号魔法は技名発生だけで済む。一応詠唱文は説明に書いてあるのだが、フレーバーテキストのようなものとして認識されている。読まなくてもいい。しかし魔法書は膨大な文中の一説を探し出し、読む事でそれを行使する。ドッグイヤーや付箋がびっしりと付いているのが、魔法書というものである。


 しかし、マーク議長が持っていた魔法書は、まっさらだった。ドッグイヤーは少なければ解らないが、付箋が一枚もくっ付いていないのはおかしい。それに、あの装丁。真っ白な表紙が目を引く本だった。


「ふざけるなよ人間が!!」

「その人間に成りたいって言ってんのは何処のどいつだチョビヒゲドラゴン!!」


 瞬時に氷鎧竜の懐に潜り込み、もう一度の剣戟を見舞おうとする。が、横から飛来する何かを防御するため、途中で体制を崩してしまった。


「やばっ」

「所詮は小僧!もらったああああっ!」


 氷鎧竜の黒い爪が俺に向かって上から飛来する。意外と速くて、この体制からは避けられそうに無い。何とかダメージを軽減しようと地面を蹴るが、ほぼ同時に敵の爪が襲いかかった。


 ガゴンッ!


 グリーンメタルの鎧が歪んだ感覚がある。幸い抜かれては居ない様なので、出血も無い。このままゲームオーバーには成らなそうで助かる。ゲームオーバーに成るにしても、もう少し時間を稼がねばカエデが追いつかれる。それは避けなくちゃいけない。


 自分の身体を確認する。HP制ではないこのゲームでは、自身のアバター状況が死へと直結する。幸い、吹き飛ばされた時に瓦礫が当たったかすり傷が多いぐらいで、そこまで大したダメージではないと判断する。


「まったく、この鎧高かったんだぞ?」


 あえて余裕そうに振る舞うが、この状況を鑑みればあまり良い状況じゃないのは解る。さっきの横から遠隔の一撃、他にも敵が居ると言う事だ。この髭竜がカエデを追いかけたら、一発で見つかる事だろう。


「で、ソコに居るのは誰なんだ?」

「あら、解ってたの?」

「流石に攻撃を喰らっておいて、無視出来る程剛胆じゃないんでね」

「そう、ならいいわ。私の魔法じゃないから、ちゃんと隠れていられるのか心配だったのよ」


 ふわりと、舞い降りる様に闇から姿を現した少女。いや、幼女。

 その髪が、顔が、瞳が、体躯が、記憶を鮮明に蘇らせる。違うのは声だけで、どこか大人びた様な、諦めにも似た低めの声色を響かせる。


 そこには、カエデにそっくりな銀髪金眼幼女が立っていた。

あともう少しで一章が終わりですので、もう暫くお付き合いください。


今回はちょっと外道風味が少なかったかな。

なので次回、外道に外道を重ねる外道をお見せしましょう。


私の外道の師匠はジル・ド・レェと竜之介です。あの二人はヤバいね。


※魔法書に関して

作中で触れられている通りですが、近いうちにプレイングガイドに詳細を書き出します。よければそちらをどうぞ。更新に関しては活動報告で行います。

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