第17話 奔走
おや? 町の様子が………………おめでとう!第一区は死体行軍に進化した!
TSVRMMOでまさかのゾンビ展開。未だかつて見たことないよ、私はね。
※このゲームは微細な粒子を3Dで再現し、それを細胞としてモデリングと流体表現、物理エンジンを使った完全現実再現型VRMMOでございます。
グロ表現が大得意なのですよ、さすがアメリカ原産のゲームですね!
今回はアプリ視点とオルト視点が加わります。
「ねぇ、ミスティ……本当にここで良いの?」
「ああ、ここだ。ここに皆がいるんだ。俺達みたいな子供や、街の商人だって避難してる。あんまりここの領主の事よく思って無かったけど、今日だけは感謝だよな!」
そう、ここは第一区の最北端にある城の様な建物。平民が暮らす街よりも幾分か高い場所に位置し、建物の周りには堀があり外敵を寄せつけない。今回の事を予想していたとは思えないが、水で満たされた堀をゾンビ―ズは渡れないようだ。しかしお蔭で領主館前に辿り着いた俺達にゾンビ―ズのつぶらな瞳と目が合う。
目と目が合う、瞬間に好きだと……いや、気のせいだ。僕は手持ちの爆破矢を密集しているゾンビーズにブチ込む。飛び散る肉片、爆風で堀に落とされ沈むゾンビ、そしてこちらに向かうゾンビは小太刀で応戦。著しく状態異常確率が落ちているせいで、ゴードン邸の時みたいな無双が出来ない。
「カエデ!俺が兵士からロープを投げてもらうから、それに捕まって登ろう!」
「うん!」
堀に入ってしまえば、ゾンビ達は追ってこない。僕は道を確保するために、再度爆破矢を三発打ち込む。あと二本しか残っていないので、大切にするべきだろう。
ミスティが声を張り上げて、兵士とコンタクトを取る。兵士は快くロープを垂らしてくれて、何とか邸内に入る事に成功した。
はぁ、危なかった……。
「何とか逃げ延びたな……カエデも大丈夫か?」
「うん、問題ないよ」
「そか、よかった。そうだ、皆居るんだぜ?セシリーにマルクにヒラル、ガルダやミーヴィだって……」
「あ、悪いけどそこまで覚えてないんだ。まだミスティとセシリーしかまともに話してないし」
「ん、そだっけか?ミーヴィなら分かると思うぞ、この前セシリーに飯だって教えに来たチビッ子だ」
「ああ、あの子か」
セシリーに凄い懐いていたのを思い出す。他の子達ともお話してみたいな、ラスティの事とかもっと聞けるかもしれない。
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最近、なんだか楓が物凄くエロく見える。
最初はこうじゃなかった。布団に入ってこられても余裕で眠れたし、ガキだなぁ……程度にしか思ってなかった。いや、男同士だからさ。
でも、最近は違うんだ。最初の頃の感覚じゃない、匂いも多分関係しているんだと思う。最初はあんな匂いじゃなかった、特に匂いもしなかった。けれど、最近は酷いものだ。近くでふわりと香るだけで股間のコッキングハンマーがスタンバイレディだ。媚薬ガスでも振りまいてるんじゃないかって位、一緒に居るだけで性欲を持て余す。
だからゲームの中に逃げているのだ。この世界なら、常識の範囲内の匂いしか再現されないからな。今の楓が振りまく、甘くて、抗い様のない情欲の香りは、きっとそこらの媚薬なんて目じゃ無い筈だ。
正直、ゲーム管理の仕事に誘って良かったと思っている。ずっと居候される事になっていたら、きっと卑怯な手を使ってでも自分の女にしていただろう。冗談じゃ無く。
だから、俺はその匂いを消すためにカレーを更に求めることにした。ゲームの中でなら、どれだけ食材を使っても懐は痛まない。加えて言えば、あの匂いに対応できるのは、俺の魂の化身とも言えるカレーしかないだろう。なので、今俺は「にんにくたっぷり餃子カレー」の制作中である。
まさか楓が食べた後のニンニクの香りにまで欲情したら、もう引き返せない所まで来るのは分かっているので、コレは作ったところで俺専用だ。ミイラ取りがミイラ取り取りにやられるだなんて笑えない。
ピロン!
『ドラクスさん、今どちらにいらっしゃいますか?』
ギルドリングを使ってナユタさんからの通信が入った。
「はぁ、今は自室で研究中です。勿論カレーの」
『ああ……はい。今、第一区の街が大変な事になっているんです。事態の収拾の為に、襲撃者を倒してほしいのですが』
「スルーですか……って、街がどうなっているって?」
『バイオハザード状態です』
「は?」
『ご自分の目で確認してください。実行班は全員掃討に移ってもらうよう指示してあります。ですが、シスさんと連絡が取れなくて』
「わかりました、見つけたら折り返し連絡します」
『助かります』
「あの、カエデはどうしました?」
『カエデさんも現在掃討戦に参加されています。既に聖堂教会も落ちているそうなので、避難所としては機能しません。ギルドホームのロビーを避難所として使ってください』
「了解」
ナユタさんとの通信を終え、仕事着に着替える。しかしこれは暗殺用ではなく、戦闘用の軽鎧。グリーンメタルで出来た光沢ある美しい緑、その強度は対戦車ライフルを間近で受けても凹む程度。そのくせ軽さは葉っぱのごとく。俺の持つ鎧の中で、最高級品であり、魔法補正が高い特殊能力付きだ。何度これで暁をぶっ叩いたことか。
そして壁に立てかけてあった一振りの剣を取る。これは一見ただの木剣だが、炭素化しているために黒い刀身とダイヤモンド以上の硬さを誇る堅牢さを併せ持つ、【老木の黒剣】だ。
鎧と同様に軽く硬い武器であり、何より魔法効果を高める力を持つ【樹系活性】という固有スキルアビリティを持つ。これにより、一定時間周囲の樹木から魔力を取り込むことが出来る。鎧には似た固有スキルアビリティ【光合成】があるため、魔力切れを起こすことはまず無いのだ。これを手に入れた時に、俺自身の魔力を枯渇させて油断した暁を、急速回復した魔力で叩きのめした日々が懐かしい。
俺は戦闘用装備に身を包み、第一区にあるボロ屋から飛び出す。そこには、腹に大きなクレーターを持った、ゾンビがいた。というか、こいつオ―ロウじゃねえか。太田芳郎、クラスメイトだぜ……。プレイヤーがゾンビ化するって、本当に大変な事になってるな。
腹筋を失ったオ―ロウは、壁伝いにこちらへ来ようとしているが、とりあえず頭を潰して行動不能にしておく。古今東西、ゾンビの弱点は頭なのだ。海外ドラマや映画の申し子、カエデの手腕によりちゃっかり俺も調教されていた。
「しかし、何でゾンビなんだ?」
暫く走りながらゾンビの殲滅にせいを出す。中央平場に来たところ、他にも交戦している奴が居るようで、少し安心したのか言葉が漏れる。
「不明、ゾンビと言えばゴードン邸以外思い付かない」
「シス!無事だったか」
「余裕」
ゾンビに訳の分からない風穴を開けながら、片手でピースをするシス。本当、こいつの称号一覧を覗いてみたいわ。
「シス、狙うなら頭だ。無駄な被害を減らせる」
「ん、わかった」
ボゴォ!
目の前のゾンビの頭が一瞬で砕け散り、跡形も無く吹き飛んだ。うん、分からない事は無理に分かろうとしなくて良いんだ。心が壊れちゃうからね……ってアニメで言ってた。
「粉砕・玉砕・大喝采?」
「それ、滅びのなんちゃらだったの!?」
「そういえば、カエデは?」
「わからん、どこかで戦っていると思うんだが。探しに行ってみる」
「ん、ここは任された」
どう考えてもチート級の破壊力で暴れまわるシスに中央広場を任せて、俺はカエデを探すために貧民街へえと急ぐ。あいつはミスティに会うと言っていた。なら、ここ以外に思い当るところはない。暁時代の楓なら心配なんかしないが、今の楓は酷く弱い。レベル1じゃ、数の暴力に対抗する手段なんてそうは無いだろう。例えレベル1のNPCが多い第一区の街だとしても。
必死に駆けるが、生存者がまるでいない現状に絶望感を抱く。定食屋のおばちゃん、道具屋のミリア、カレー屋のマハディム様……まさか皆死んだ訳じゃないよな!?
二年にわたりフリーディア・オンラインを続けて来た古参組にとって、最も長い時間を過ごした第一区の変わり様は筆舌に尽くしがたい程に変貌していた。
「ん?……あれは、女性か?」
小型のゾンビに追われ、必死に逃げている女性を見つける。生存者だ。俺は全力で接近し、追いすがるゾンビの頭を潰す。そして女性を抱きかかえると、一旦避難するために建物の屋根にジャンプして逃げ込む。
「大丈夫ですか?」
今のこの雄姿を見たら、楓のヤツ惚れるんじゃないか?と思う程に紳士な態度で女性に接する。
くすんだ金髪はショートカットに、薄汚れた服だが洗濯は行き届いている様だ。きっと長年の汚れなのだろう、生地も大分薄くなっていてボディラインが丸見えでエロイ。いやいや、そうじゃない。
「君、名前は?」
「あ、はい!えっと……私の名前はセシリー、貧民街で子供たちの世話をしていた者です」
「していた……?」
貧民街と言ったら、カエデが向かったであろう場所だ。そこに居たはずの少女がこうして逃げていたとなると、壊滅状態なのだだろうか?
「他の子供たちはどうした?」
「……さっきの、子達が……」
「あの、子供のゾンビ達が……?」
セシリーと名乗った少女は、顔を俯かせて涙を必死で堪えている。聡い人だ、今は泣いている場合じゃないと理解している。
「生き残った子は、居ないんですね?」
「はい……私は縫物をしていて、異変に気付いてあげられませんでした……大きな悲鳴が聞こえて、ようやく様子を見に行った時には、もう……」
全滅に等しい状況だった。
彼女はそれだけを伝えると、声を出さない様に静かに泣いた。
だとしても妙だ、それまで街では何の異変も無かったという。普通に材料を買い、依頼を受け、そして帰って暫く縫物をしていたという。もしかしたら、感染源は貧民街にいるのかもしれない。
「セシリーさん、とりあえず貴女を安全な場所まで護送します。その上で、貧民街の様子を見てきます」
「お願いします!他に生き延びている子がいたら、助けてあげて下さい!!」
「ええ、全力で」
俺はボロ屋まで屋根伝いに移動し、セシリーさんをギルドホームロビーに届けると、踵を返してまた街に戻った。恐らく全滅しているであろう、子供達を見つけるために。
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こんばんは、アプリコットことアプリです。
潜入調査を一ヶ月かけてやって、ようやく尻尾を掴んだと思ったら……対象がゾンビに食われてました。私の一ヶ月を返せ!
というか、このゾンビは何処から来たのか……女性よね、服装から見ると。でも明らかにチラ見されるあの象さんは一体……。いや、気のせいよね。きっと種族・ゾンビに違いないわ。
屋敷の三階に位置する部屋の窓から街を見下ろすと、ゾンビだらけの恐慌状態に陥っている様子。何がどうしてこうなった……?
しかし考える時間をくれないのか、もぐもぐしているゾンビは私に気付くと、肉塊を捨ててこっちに歩いて来た。
「流石にゾンビを殺すくらいなら、トラウマだって出ないわよね?」
壁に掛けてあった片手剣を手に取り、手にならすためにヒュンヒュンと振り回す。うん、ちょっと重いかな?飾りだから脆いだろうけど、私のレベルは70代で剣術持ちだから下手に壊すことも無いだろう。
予想より早い拳に少し驚いたが、それを避ける瞬間に手を肘の関節部分から切り落とす。力が弱くとも、スピードを上げたプレイヤーにとってこれは造作もない事である。本物のスピードバカはこんな小手先の技術は使わないけどね。
しかしこの攻撃が効いていないのか、もう一つの手で私の脇腹に拳を突き立てる。常人では発揮できるはずのない膂力に耐えきれず殴り飛ばされる私。壁に叩きつけられ、軽いスタンに見舞われてしまった。
馬鹿力のなせる業か。そういえば、人間はリミッターがあるおかげで、自らの体を傷つける程の力を抑制しているとか、聞いたことあるわね……。このゲーム、何処までリアル志向なのかしら。眼前のゾンビの斬られずに残った筈の腕は、関節部分から白い骨が露出しており、また指もバキバキに折れて所々から血と骨が飛び出している。ここまでゾンビと相性の良いコンテンツはないんじゃなかろうか。そう思える瞬間だった。
ヤバいかな、未だにスタンが解けない。軽いスタンって言ったの訂正するわ。酷いスタンよコレ。一般的にはスタンは三十秒間が基本だ。しかし既に一分が経過している。だというのに解けないスタンだなんて、どれだけのStr補正が効いているのか。
「ヴぁガガギ――ブクブク」
何かを言おうとしているのか、口をがちがちと開閉するが、出る空気と溜まった血が邪魔して言葉になっていない。いや、そもそも言葉を話すことは出来るのだろうか?
両手を失った女性のゾンビが口を開けて私に近づいてくる。きっと、さっき言ったのは「いただきます」とかだろうか。なんて礼儀の良いゾンビだろうか。でも私を食べようとしても意味無いわよ、私はプレイヤー。死んだところでギルドホームの自室で死に戻りするだけだわ。
しかし部屋に新たに侵入してきたゾンビを見て、私は戦慄した。あれは、冒険者だ。ユーザーメイドのネタ防具(着流し着物)を着ている時点で明白だ。あの薄暗い肌に虚ろな目、おぼつかない足取り、確実にゾンビだ。
理解が及ばない。何故プレイヤーまでもがゾンビになっているのか?
つまり、このゾンビに噛まれれば、私もゾンビになるのか?
そんなのは嫌だ。あんな醜悪な姿になるなんて、ゲームだろうと嫌だ、仮想世界だろうと絶対に嫌だ、生理的に受け付けない!
無情にもガチガチと歯の噛み合わさる音が近づいてくる。こいつら、足が遅くて動きが緩いから、その分恐怖心を煽って仕方ない。ログアウト出来ればいいのだけど、自室や宿屋で簡易自室とした場所以外でのログアウトには五分程度の行動不能な待ち時間がある。戦闘中に場を白けさせないためだが、こんな時の為に即時ログアウトの課金アイテムでも売っておいてほしい。経費で落とすから。
目の前に到達し、後ろの冒険者までもが近づこうとしている中、私は恐怖心や嫌悪感から涙が溢れていた。仕事で人を殺した時と同じ、深い後悔と無力感に見舞われる。
瞬間、目の前のゾンビが掻き消えた。
いや、左を見ると壁に大剣で縫い付けられている。何が起こったのか分からず、周りを見渡す。こちらに近づこうとしている冒険者が、まばゆい白光の大剣で両断されたところだった。同時にその体が吹き飛ばされ霧散する。あれは他のプレイヤーだろうか?それにあの光は、"正義"系のライトエフェクト、その中でもあんな綺麗な白光なんて……。
しかし私には見覚えのない人みたいだ。真っ白な服に鋼の部分鎧、高い身長を覆い隠す真紅のマント、漆黒の短髪を揺らしながらも怪しく光る紅の瞳。まるで絵本の中の英雄が持つ正義の剣と思しき白光の大剣。この人が誰かは知らないけれど、助けてもらったお礼を……言わなく……ちゃ……。
そこで私の意識は途切れ、再び目を覚ました時は見知らぬギルドのソファーに眠らされていた。
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「やべぇやべぇやべぇやべぇ!」
クリムゾン・ドロップス諜報班班長にして、武器防具調達組でもあるオルトこと俺は、とんでもない情報を手に入れてしまい、メディルとの合流を目指してボロ屋を目指す。一応メールで情報を送ってはいるが、やはり言葉で話した方が素早い議論が出来る。ギルドリングの通話は何故かメディルに通じないが、何があったのだろうか。またナユタに折檻されてるんだろうか?あいつも懲りねぇもんな。
速度特化のアクセサリーを身に着け、なんとかボルトも余裕で追い抜ける速度で街を走る。しかし、行く先々でゾンビが群れを成していて、思うように進めない。そんな時、中央広場で大暴れしているシスを見つけ、護衛を頼むが無視されてしまった。仕方が無いので服を五着まで好きな物を買ってやると言うと、手の平を返したように急かす現金なガキがそこに居た。どうかメガ単位の服じゃありませんように。
「なにしてる、早く行く!」
「あいよー」
このガキはやたら黒かったり、フリフリな服を好むから、単価が上がって仕方ないんだよな……違う違う、そうじゃない。
「シス、お前にも話しておくべきかもしれないが、ギルドホームに着いてからの方が都合がいい、暫く黙って護衛を頼む」
「大丈夫、興味ない」
「そうかい……」
ああ、うん。こういうヤツだよシスは。俺が必死で集めて来た武器防具を全く使わずに自前の装備で乗り切っちまうくらいだからな。
「そういえばシス、他の連中にも会ったか?」
「ん、ドラクスとは会った」
「アプリとは?」
「まだ」
「カエデは?」
「まだ」
嫌な予感が急速に高まる。今回の死体行進、その黒幕が誰なのか……。突き止めてしまった俺は、早くこのことをメンバーに知らせなければならない。そして、その目的も。
俺たちは全速力で、ギルドホームを目指した。
さー、こんがらがってきた(酩酊)
今回は回想以外で初登場のアイツもいるよ!
その問題は次章以降の予定だけどね!
感染源は「ガッシュ」、感染者は「インフェクタ」、保有者は「キャリア」
カミヤドリ読者と、10年前の月間ガオ読者なら分かる筈。




