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第16話 第一区陥落

ここから一区切りまで、オンラインのみのお話です。

戦闘を心待ちにしていた皆様、やっとだぜ……。


話は変わりますが、気づいたらブックマーク数110に到達!嬉しい!

というわけで、どうぞお楽しみください。

「何がどうしてこうなった……?」


 第一区の街、領主の屋敷が北上に位置し、その右側に聖堂教会の建物がある。そこに逃げ込んだ僕は、今この第一区に起きている状況を整理すべく、安全な場所を探す。


 やつらは足が遅いが、数の暴力がある。逃げるにしても、手が届かない場所が望ましい。僕は右腕に装備したままの隠し弓にリールが付けられた矢を装填し、屋根に向かって撃ち込んだ。しっかりと紐が固定されているのを確認すると、既に魔の巣窟となった教会の屋根に逃げ込む。


ちなみに今の装備は、出る前にシスさんに強要されて最初に貰った黒のフリルワンピースだ。両手に暗器手甲を装備したままでは意味が無いので、手持ちのボレロを合わせて隠している。袖口に行くほど大きいラッパ型なので、隠し弓を展開しても余裕がある。


 思った通り、複雑な行動は出来ないようだ。地面を十数人がうろうろとしていたが、暫くすると諦めたのか、散り散りに退散した。


 そう、まさに今このゲームは「フリーディア・オンライン」から、世紀末ゾンビゲームへと変貌していた。


「何がどうしてこうなった……」


 再び呟くが、答えなんて帰ってくるはずがなかった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 銭湯での一件の後、詳しい話を父親ファーザーズに聴こうと思ったのだが、全員が全員湯あたりしたのか、まともに話せる状態ではなかった。


「また明日同じくらいの時間にいるから、そこで話す。あと明日は女湯に入れ」


 と言われてしまった。仕方がないので、僕は同じく湯あたり気味の宗吾を連れて帰り、リンクス・ゲートを装着してミスティに会うべくログインした。


 だが、第一区のギルドホーム(ボロ屋)から出ると、ログインするゲームを間違えたかな?と思う程に世紀末な様相を呈した街があった。


 ギルドホームの密集地にすら、その影響があった。道を見ると、高級レアな鎧に身を包んだ男が、同じく高級レア装備の女数人と戦っていた。しかし何かおかしい、そもそも女たちの顔が、腕が、そもそも体がおかしい。


 浅黒く変色した血色の悪い肌、所々肉が削げ落ちているのに血が出ないという異変。


 下腹部まで肩口から縦に断ち切られたり、普通なら死んでいるであろう姿でも無遠慮に生きながらえている。いや、死んでいるのに体だけが動いているのか?


 思い付くのは先日のゴードン邸での出来事。常軌を逸した膂力を持つゾンビ共、小太刀・茜が無ければ、僕もあの男と同様に食い殺されていたかもしれない。


 数人の女に群がられ、鎧を剥がれた男はその内腑をガツガツと貪られていた。

 

 うぉっぷ。


 胃の底からせり出しそうな酸っぱい気持ちを我慢しつつ、僕は目を背けた。しかし粗方食い尽くしたのか、それとも満足したのか、女達は立ち上がるとそれぞれが別の方向へと歩き出した。そのうちの一人が、僕を見つけてゆらゆらと近づいてくる。ヤバいな、見つかった。


 小太刀・茜を右手に装備し、右手手甲の隠し弓に爆破鏃の矢を装填。今回は暗殺じゃないから、音を気にする必要はない……筈だけど、ゾンビって音に反応するんだっけ?


 一応、暗殺アサシネイトを心掛けていくことにする、念の為に。


 宗吾は今頃、自室でカレーを作っている事だろう。バーチャルな食事には許可を出しているが、僕の作ったカレーを食べた後に自分でカレーを作るって喧嘩売ってるの?と聞いたところ、カレー味の何かを作るのだそうだ。いつから薬師になったのか、宗吾の部屋はフラスコとか薬品とか、理科室然としていた。


 シスさんは巡回警邏の仕事に出ていったので、街を歩いていたら会えるかもしれない。ただ、第一区も他の街も、これだけでオープンワールド作れんじゃね?と錯覚する程に大きい街なので、会える確率はかなり低いだろう。ましてや今はバイオハザード状態である。何故か見知ったプレイヤー達までがゾンビ化する異常事態だ。


 僕は聖堂教会に身を寄せることを思い付く。あそこは曲がりなりにも魔を寄せ付けない結界があるのだ。町中に入った魔物が居た時も、聖堂教会の結界はそれを弾いていた。安心を求めるなら、あそこ以外には無いだろう。


 しかし、僕の考えが砂糖を砂糖で和えて砂糖を塗した砂糖よりも甘いと思い知らされた。


 結界は意味をなさず、聖堂教会内部は既にゾンビの跋扈する魔界へと変貌していた。逃げ惑う修道女ロリすらも容赦なく食い散らかす簡単なお仕事をこなすゾンビ共。さながらザ・ワーキング・デッドである。


 直ぐに隠し弓を袖中で展開し、修道女ロリに追いすがるゾンビを爆殺する。同時に駆け寄り殺り残しを小太刀・茜で切り付けるが、忍者装備で無い為に“炎上”発生が少ない。確実に撃ち漏らしが出てきている。


 すぐさま修道女ロリの手を掴み、その場を離脱しようとするも、既に足に食いつかれており泣き叫びながら助けを求めていた。そのゾンビの頭を小太刀で何度か刺してようやく炎上が発動した。忍者装備の有難味がよくわかる瞬間である。


 やっと解放された修道女ロリを見るが、既にそれは元修道女ロリゾンビと化していた。感染力パネェ。


 ガチッ!


 と音を立てて僕の手を噛もうとする元修道女ロリゾンビ。咄嗟に手を引っこめ、距離を取る。右手に再装填した爆破矢を射出し爆破。肉片が飛び散るが、今はそんな物を眺めている暇は無い。何処でもいいから安全な場所を、と探すが見渡す限りが餓鬼地獄である。


 しかし海外ドラマ大好きっ子の僕は、この場合屋根に逃げることが正解と判断して退避を決意。そして今に至る。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「まさか、ゾンビ系イベントでもあったのかな?」


 メニュー画面を呼び出し、インターネットを選択。他のVRゲーム同様にフリーディア・オンライン内でもネットを閲覧することが出来る。しかしイベント情報のページを見ても、特にゾンビという言葉は見当たらない。


「そうだ、運営と繋がりがる組織なんだから、メディルさんに聞けばいいんだ」


 早速連絡を取るが一向に出ない。どうしたんだろう、あの人も一応戦闘では強いって言っていたけど……もう波にのまれたとかは無いよね?


 だとすると、通信妨害などが考えられるけど、ギルドシステムを使った指輪での通信だから装置でなんとか出来る物じゃないはず。さっきまでギルドホームに居たんだから、滅多な事にはなっていないはずだけど……待てよ、ナユタさんなら出てくれるんじゃないだろうか?


 僕は早速ナユタさんに通信をする。すると予想通り繋がった。


「はい、カエデさん、どうしましたか?」

「はいっ、第一区に来たんですけど街の様子が……」


 何だかナユタさんの通話の裏で、ゴオオオオオオッとか、ぎゃああああああとか聞こえるんだけど。大丈夫なのかな?


「あの、メディルさんに連絡しても繋がらなくて、それで……」

「ああ、それは仕方ありません。今焼却中ですから」

「焼却……は!?」

「先ほど二人で買い出しに出たのですが、突如として道端を歩いていた幼女ロリに剣を向けたので、つい。誘拐するにも白昼堂々はどうかと思いまして」

「ああ、そうですか……って、違うんです!」

「はい?」

「町中がゾンビパニック状態でして、ナユタさんも街に来ているなら周囲の異変は感じたんじゃありませんか!?」


 どこか理性的なナユタさんにしては、状況がおかしすぎる。僕は焦りながらも冷静になろうと努める。


「いえ、特には……私たちは第三区で買い出し中ですので。第一区はそんな事になっているんですか?」

「はい、聖堂教会すら陥落してしまいました」


 どうやら別の街に居る様子だが、そこは無事らしい。という事は第一区内のみで起こっているのか?


「情報を集めさせます。カエデさんは現状維持に努めてください、助けられる命があれば、NPCでも助けてください」

「言われなくてもそうします!」


 ナユタさんとの通信を終え、聖堂教会の屋根の上から街を見下ろす。所々から煙が上がり、賑やかだった露天通りからは悲鳴が遠く聞こえる。下からは絶えず悲鳴と嗚咽と咀嚼音。喉から音が漏れるだけの、聞くにおぞましい呻き声。


「これはひどい」


 聖堂教会とは関わりが無かったせいか、まだ他人事のように見える。しかし、僕の意識はここではなく、スラム街の子供達に向けられていた。彼らは強い、今までも大人の目を掻い潜りながら狡賢く生きて来たのだ、きっとどこか安全な場所に隠れているさ。


 それでも、心配は消えない。僕は屋根を伝って移動を開始した。忍者装備は自室のマネキンに登録してあるので、仕事以外では着ないように置いてきていた。だが、こちらの普段用装備も十分に機能的である。


 まずブーツは革製で、レザーシールド並の防御力を誇る。そして「跳躍上昇」の特殊付き。アクセサリーとしてブレスレットが二つ。スロットが二つなだけで、どちらの手に装備しても構わないので、左手に二つのブレスレットを装備。効果は「隠密上昇」「剣技上昇」である。アクセサリーや服の特殊効果は、称号の補助的な役割を持つ。スキルアビリティには直接干渉しないが、基本となる称号のステータスの底上げに一役買ってくれるのだ。


 おまけにネックレスは「速度上昇」効果だ。完全に逃げの体制である。


「無事でいてよ……ミスティ、セシリー……ッ!」


 しかし今、僕は逃げではなく救助を目的として動いている。街がどうにかなったところで、ギルドホームにまで飛び火はしないはずだ。ロビーなら誰だって入室可能だし、そこに逃がせられれば……っ!


 屋根を跳び、また跳ぶ。今の僕は、石川五右衛門もびっくりの忍者っぷりだろう。ちなみに僕は石川五右衛門は忍者だった説を推している、全力で推している!


 人通りが少ない路地を見ると、ミスティを見つけることが出来た。どうやら隠れているようで、周囲をキョロキョロと見回している。無事なようだ。


「ミスティ!」

「ラス……カエデか、お前は無事か?」

「ああ、うん。僕は大丈夫だよ、他の皆は?」

「ああ、他の皆は隠れてる。俺はラスティがもしいたらと思って、街に出て来たんだ」

「……そっか。ねえミスティ、ラスティは僕が探すから君は皆と隠れていなよ。流石に、この状況じゃ出会えたところでミスティがゾンビでした……じゃ笑えないでしょ?」

「うぐっ……そう、だな……分かった。それじゃ案内するから、カエデも一度来てくれ」

「え、でも」

「後で見つけた時に、何処に連れてくれば良いのか分からないんじゃ意味ないだろ?」

「あー、うん。たしかに」


 ミスティが無事であったことに安心して、僕は警戒を緩める。周囲の接敵さえ判断できればそれで良いだろう。


「こっちだ」


 ミスティが手を引いてくれる。どこか冷たい手。たしか冷たい手の人は、心があったかいとか聞いたことがある。ミスティにぴったりな言葉だと思った。

ミスティは無事でした。ほかの皆も無事な様子。

暁ハーレムメンバーはどうなんだろう?

シスやアプリの安否は……メディルは絶賛焼却中です。


ちなみに、このゾンビがプレイヤーすらゾンビ化させる事については、きっと誰かが語ってくれます。語らせます。

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