第9話 マーク・ビュッセル議長の依頼
他の人の作品を読んでいると、自分の書いてるキャラがぶれるぶれるw
気を付けます、ぶれる理由を付けて逃げ切ります。ぉぅぃぇぁ!
その日、カレーを食べ終えた僕と宗吾は、いつも通り一緒にフリーディア・オンラインにログインした。これが出社とか未来を感じる。
今や初期位置として慣れつつあるギルドホームの自室、特に内装を弄っていないのでまだまだ簡素な部屋だ。お金はメインキャラの暁時代から銀行に預ける派だったのを思い出して、メディルさんにアレ売らなくても良かったんじゃないか……? と後悔しながら引き出したお金で、最低限の家具を買ったので生活感は出たはずだ。宗吾曰く『男の部屋だ……って言いたかったのに、お前は乙女か?』といわれた。どうやら縫いぐるみが男らしくないとか。いいじゃん、可愛いじゃん。元から好きなの知ってるくせに。
そんな部屋を一瞥してから部屋を出る。本当はロリックマとかクマ番長とかをモフモフしたいのだけど、仕事だから仕方ない。そういえば、暁時代は部屋を飾ったこと無かったな。部屋を出たところで宗吾が声をかけて来た。今はドラクスだけどね。
「よっ、数分ぶり」
「ん、今日は何するんだろう。また巡回かな?」
「さぁな、そこはシスに聞かないと分からないだろ。ダークサイドで真っ赤なライトブレードを振り回す仕事じゃ無ければいいな」
「うん、たまにシスが黒い服を好むのって、その映画の影響があるのかなって思うよ」
「悪役は美学だからな」
「正義の味方の最高のスバイスだしね」
そんな無駄話をしながら階下へ降りる。そこでは、既に実行部隊のシスと見た事の無い男性一人、メディルさんとナユタさんが居た。時間を確認するが、時間は遅れていないようだ。なのにこの緊張感……なんだろう?
「ああ、カエデくんか。丁度良かった、今日新しく依頼が入ってね。この人が依頼者だ」
「マーク・ビュッセルと申します。此度は依頼を受けて頂き誠に……」
「ああ、そういう堅苦しいのは良いから。彼女はカエデくん、まだ経験は浅いけれど凄腕なのは保障するよ。詳しい説明をしてくれるかい?」
「あ、あの、メディルさん? これは?」
「ん、そうだね。カエデくん……仕事だよ」
シスさんはこくりと頭を揺らして肯定する。仕事? 巡回警邏? 警護? ん? 訳が分からないと言った顔をしていると、シスが簡潔に仕事内容を語ってくれた。たった二文字の、命の行方を。
「カエデ、仕事」
あぁ、そうだ。私は警察の真似事をする為にこのギルドに入ったんじゃない。成り行きとは言え、日銭を稼ぐために、NPCとはいえ人殺しを許容したのだ。NPC……ミスティ? ラスティ? 貧民街のみんな? あれもみんなNPCだった。あそこまでのヒトを、私は殺せるのだろうか? 殺す? そもそもLv1の僕がどうやって?
「今回の依頼は、クライアントが顔出しで依頼する程の懸案だ。よっぽどの対象だって分かると思う。その上で、カエデくんとシスくんに任せようと思っている」
「私も一緒?」
シスが不思議そうな顔でメディルさんを見る。どうやら、監督と逃げ道の確保を頼むようだ。確かに、殺った後の逃げ道の確保は必要不可欠だ。帰るまでが暗殺ですって話ですよね。遠足か!
「では、マーク殿。彼女にも話してもらえるかい?」
「はい。今回依頼したいのは、とある貴族の暗殺です。彼は町娘のみならず近隣の村娘までも毒牙にかけ、最近では幼い小女にまで手を出し始めました。既に数人が彼奴の毒牙にかかり、自殺者・行方不明者が後を絶ちません。おかげでこの町の男女比率がおかしい状態になりつつあります。そこで、第一区統括議長であるマーク・ビュッセルが依頼します。彼を、ゴードン・フィラエル伯爵の暗殺をお願いします」
「ゴードン・フィラエル伯爵……?」
聞き覚えが無い……いや、確かこの間オルトさんに見せてもらった貴族のリストにそんな名前があったような……機関車トー○スっぽい名前だなって憶えてた気がする。たしか赤い奴だ。つまり三倍の速度で走るはず、手強そうだ。
「というわけだ、カエデくん。今回の仕事はゴードン・フィラエル伯爵の暗殺。彼についての細かい資料はオルトくんから貰い次第、ナユタくんが渡してくれるだろう。情報の流れはそんな形だから、これからの為に覚えておくと良い」
「あ、は、はい……」
大丈夫だ、殺すのは人じゃない、ただのデータの塊だ。0と1の集合体だ。血すら出ないこのゲームの世界で、殺しの実感なんてある筈がない。大丈夫、大丈夫、大丈夫……。
「いつ実行?」
「オルトくん次第かな? マーク議長、決行の日取りはこちらで決めさせて貰いますが、期日を設けて頂きたい」
「そうですね、では三日以内でお願いできますか?」
「構いません。あと、こちらにも準備がありますので前金で半額の一億を頂ます」
「一億……それが半額って事は、二億っ!?」
つい口を挟んでしまった。だって200Mだよ!? 二億だよ!? 一人殺すのにどれだけお金をかけるつもりなんですか! っていうか、それだけ大金積まないと殺せない相手ってどれだけ護衛が硬いんでしょうか……。
「二億は妥当だよ。既に彼らが雇った冒険者や暗殺者ですら殺されている。余程の護衛が付いてるのは明白だ。こちらも命を懸ける以上、これは正当な対価だよ」
滅多に見ない真面目な顔で力説するメディルさん。いや、僕達命は懸けてませんよね?
「それに相手は第一区の議会に所属する貴族ですし、罪人として排除出来れば私財没収が可能ですから、二億如きすぐに補填出来る筈です。なにせ貴族の方々は優にGの額をお持ちですから、はした金に過ぎません。所詮税金と横領で膨れ上がった薄汚い手垢の付いた金銭です、惜しむ理由など有りません」
ナユタさんが、さらっと裏事情を離してくれたおかげで罪悪感が吹っ飛んだ気がする。うん、この二億は市場に還元されるべきだ。
「それでは、私はこれで失礼します。早い解決を期待しております、クリムゾン・ドロップスの皆様」
「ええ、我々の誇りと名誉にかけて、受けた依頼は完遂いたします」
マーク議長は、メディルさんと挨拶をしてからナユタさんの転送で一区にあるボロ屋なギルドホームに転送されたそうだ。
マーク議長の退散により、場の空気がふっと軽くなる。と、同時にメディルさんから詳しい説明を聞かされた。
マーク・ビュッセル議長。第一区統括議長であり、この西の国の最初の街である第一区の最高権力者である。半年に一度は王都まで足を運び、王権議会という西の国全体の政策を決める議会に出席する国会議員の様な仕事をしている人物だ。性格は実直かつ誠実だが冷淡、邪魔者は速やかに消すタイプの王道貴族。彼自身との繋がりは随分前からあり、腐った貴族や商人の暗殺、追放を協力的に行って来たようだ。
余談だが、王権議会というのは五つに分断されたシェイヴァゼル大陸の各国に、中央から派遣され分家筋となった王家の血筋が統括王となっている。東西南北中の字を見ると、つい国士無双を狙ってみたくなるがそんな夢は見ない。あれは危険だ。
そして五人の王族には共通する名が与えられている。それが【フリーディア】である。ただ、中央の本家筋にのみ【アーク・フリーディア】の名が与えられる。これは優位性を誇示するものであり、特に意味はないとの事。何か謂れがあるのかと思ったよ。
「それにしても、最初の仕事がこんな大きそうな事案になるなんて……」
「いやいやカエデくん、これは女性に限定してるだけまだマシだよ。奴隷商人や村八分、勝手にスラムへの放火なんてやってる純血派貴族が多いしね。お前の血は何色だ? って聞いたところで血が無いとかね。今回のゴードン伯爵も見事に純血派だよ、やってることは純潔派なのにね」
「面白いと思って言ってるんですか? 無様ですね、仕方ないから私だけでも楽しんで差し上げますよ。面白いですね、わーすごい(棒) 良かったですね」
「ナユタくん、心にもない言葉は時に人を傷つける物なんだよ……?」
「大丈夫です、傷つける事が狙いです。それ以外でメディルさんの応援なんてする筈がありません。ですが私も鬼ではありません、ブタ箱に入るまでのコースなら全力でサポート致しますよ。さぁ、早く七つの大罪フルカンストの実力を見せて下さいゴミ虫野郎。檻の中で新たなる心理の扉を開く時が来たのです」
「なんだろう、今日のナユタくんは酷く刺々しいね?」
「当然です。マイエンジェル・カエデちゃんに最初からキツイ仕事を入れる外道っぷりには対抗しなくてはなりませんから」
おや? 何だか知りたくない名前が付けられているぞ?
それはともかく、初仕事……初殺人……あれ、なんでこうなったんだっけ? そうそう、僕の目的は自分の体が銀髪金眼幼女になった理由を探るためだった。最近は周りがナチュラルに接してくれるおかげで、仕事と料理ばっかりやってたな。そういえば、家に何も連絡入れてないや。捜索願いとか出てたら拙いなぁ。
「ねぇ、ドラクス。僕の家族になんて言おう、もう一週間以上放置してたよ」
「は? 何言ってんのお前。んなもん、とっくに俺の家に避難してるって事にしたよ。もちろん原因がお前の姉にあるって言ったら一発OKでお願いされたぞ? お前ら姉弟の関係はどうなってるんだって思ったよ……」
「おお、なんだかドラクスが頼りがいのある漢に見える……成長したね!」
「お前は逆の意味で成長したよな、最近は本当の女に見えて来たぞ?」
「…………………………は?」
ちょっと待てコイツなんて言った? 女に見えて来た? どの辺が!?
「どの辺がって……飯作ってくれるし、部屋の掃除もしてくれるし、買い物もしてくれるし、夜はいつも一緒に寝て……いや、これは関係ないか? どうみても女だろ」
「いや、それ普通じゃない?」
「……一緒に寝てる?」
会話の流れから置き去りされていた唯一の存在、シス様が僕らの会話に反応した。しかも結構ヤバい内容に食いついてますよ!?
「どういう事?」
「ああ、俺の部屋って一つしかベッドっつーか、寝具が無くてな。こいつリアルもこんなんで、ちみっこいし寂しがりやだから俺の布団に潜りこんでくるんだ」
「おいコラ、ドラ公! いきなり何言ってんの!? 一緒に寝てるのは寂しいからじゃなくて、そっちのが温いからに決まってるだろ!」
「なるほど、そういう関係?」
「ちっがーう!!」
シスとドラクスが僕をいじめるよメディえもん、この人たちを粛清する凶器を出してよ! 【巨人族の大剣】(全長30mのmob武器)とか出してよ!
「はいはい、そこまでにしよう。さっきオルトくんから返事が来たから、もう少ししたらこっちまで来る筈だ。そうしたら、基礎情報を確認してから現状の調査、その上で実行に移る。二人とも、準備を怠らないように」
「「はい」」
結局そこからオルトさんが到着するまで、僕の行動が前と違う事について延々と聞かされてショックを隠し切れず、オルトさんが来た頃には涙目で迎えることになってしまった。涙腺が弱くなった気がする。前からこんなだっけ? うん、きっとそうだ。
「はいよメディル、これがゴードン伯爵の情報だ。近いうちに殺す対象にする予定だったからな、棚から牡丹餅だったな」
「ははは、ゲーム内通貨くらい上に申請すればいくらでも降りるけどね。市場が荒れるからやらないだけで」
資料を受け取ったメディルさんは、それをパラパラと読んでからシスと僕にコピーを渡した。こういうところがVRオフィスとか作られる所以だよね、コピーが一瞬かつ、紙を使わないっていう。まぁいいや。
渡された資料を読む。何々、“ゴードン・フィラエル伯爵”現在、統括議事会筆頭書記……って、どっかの北の人みたいな肩書だな。総資産は最低五百億って、高すぎじゃね? 幼少は中央国家で暮らし、有望な貴族として暮らしていたが十二歳の時に母親が毒殺され、父と共にこの西国に流れ、議会に入り親の後を継ぐ。それが今では、女を食い物にする外道伯爵とは……お母さんが泣いてるで?
「カエデくん。初めに言っておくが、この資料を渡したのは覚悟の為だ。これで刃が鈍るようでは、君をこれから実行部隊には置けないだろう。今の君はそんな姿で、精神が体に引っ張られているのは明白だ。この男には優しさも情けも必要ない、下されるべきは理不尽に対する裁きだ」
「精神が体に引っ張られるって……メディルさんまでそういう事を言うんですか!?」
僕はぷりぷりと怒ってみるが、真面目な表情のまま顔色一つ変えないメディルさんに気まずくなる。ナユタさんを見ると、目をそらした。ん? なにこれ。
「君には話しておくべきだと思って、昨日許可を取ってきた。これは現実にあった話で、僕らもその眼に焼き付けた事件だ」
紅茶を一口啜ると、メディルさんは語り始めた。かつてあったVR世界、ファンタジースクール・オンラインでの出来事を。
今回は依頼内容の説明がメインです。次回は回想回です。




