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サトリの友達  作者: 李雨
9/24

ダブルデート3

人の考えが読めるといっても、実は結構大変なのだ。

昔は村単位で、人が少なかったし、その人たちも滅多に集まらなかった。

ジェットコースターの待ち行列に並びながら、人の多さに呆れる。

こんなところで、考えを読もうなんてしたら、きっとダメージはハンパない。

さっきから、川本の思考を読みたくて仕方ないのだけれど。


実は、俺はジェットコースターに乗るのは初めてだった。

人を避けてた分、一緒に遊園地に、なんてこと、なかったのだ。

なんとなく、で乗ってみてひどい目にあった。

頂上まで、上がっていく分には、随分高く上がるな、と思って景色を見る余裕があったのだけれど、一瞬の空白のあと落ちるあの感覚、あの空白の時に、無意識に精神障壁を外してしまったのだ。

途端に入ってくる周囲の思い。

「あいつ、ばかみたい」「あんな彼氏がほしい」「あんなやつ死ねばいい」「リア充爆発しろ」「うぜぇ」「この男、臭い」「おかあさんなんていなくなっちゃえばいいんだ」「あの女、欲しい」「めんどくせぇ」「うわ、いろっぺーねーちゃん」「まだ待つのかよー」「もうしんどいよー」

そんな思いがあふれかえる。


スタート地点まで戻ってくるまでに、その周りの感情を拾いまくった俺は、真っ青だったと思う。

ミナが「大丈夫? 真っ青だよ・・・」と心配げに見つめる。

微笑む余裕もなくて、「ちょっと無理かも・・・」と言う。

理解してくれたミナが「そろそろ、二人っきりになる時間も欲しい」と言い出し、二手に分かれた。

別れ際に、川本がミナに何か、言ってたけど・・・もう、探る気にもなれない。

吐き気すらする。


そんな俺のために、ミナは木陰を探してきてくれた。

お弁当の時に使ったシートをひいて、横になる。

「冷たい飲み物、買ってくる」

そう言ってかけていくミナを目で追う。

あの頃は、あの女が俺から離れるなんてありえなかったから・・・。

俺の面倒を見るために動くなんてなかったから・・・。


なぜだろう、一時のことなのに寂しいと思ってしまった。

熱い中を走って行ってくれる彼女に嬉しいと思ってしまった。

そして、偽の恋人なのに、愛しいと思ってしまった・・・。


そのまま目を閉じて、少しの間寝てしまったらしい。

額に冷たいものが当たって、そして、髪の毛を梳く指先を感じた。

うっすらと目を開く。

額に浮かんだ汗をハンカチで拭いてくれる彼女の手が見えた。

「今日はごめんね。」彼女が言う。

「まさか、人ごみがそんなにダメだと思わなかったの。ちょっと考えたらわかりそうなのに、ね。」

すごく反省してるみたいだ。


「ユキは・・・不安なの。相田くんが私を好きになるんじゃないかって。私って結構顔にでるから、相田くんも私が好きだってわかってたらしくて、先に言ったから付き合えたのかなって思ってるみたい」

二人のラブラブなところを見せてくれたら、きっと、相田くんも自分だけ見てくれるだろう、ってそう言われたの、と言う。

「お人よしだな・・・」

つい、そう言ってしまった。

相田がフラフラしてるなら、そして、好きなら、チャンスだと思わないんだろうか。

抜け駆けして、先に言ったから付き合えた、と言うライバルのためにわざわざダブルデートまでしてやらなくてもいいじゃないか。


「私なんかに相田君を盗られるって思うところから間違ってるよねー」と呑気な声がする。

「お前ね・・・」

つい溜息をついてしまった。

「お前だから、心配になるんだろ。親友なんだろ? 彼女が一番お前のいいところを知ってるはずじゃないか。自分の知ってる中で一番いいやつが、ライバルなんだ。盗られるかも、とは思うさ」


何だ、とは思う。

今日のデートは、川本が自分の料理を自慢したくて、カレシに会いたくて、ついでにカレシの浮気の芽をつぶしたくて、行われたわけか。

ついでに、当て馬にされかけたな・・・。

俺に絡んでたのは、相田に嫉妬させるためか・・・。

つくづく、バカバカしい。

一人で家にいた方がよっぽど・・・と思いかけて、思い直す。

具合が悪くなったところを介抱してもらったことも初めてなら、それが好きになった女の子で、彼女なりに一生懸命で。

ちょっと苦いものがあるけれど、今は二人っきりだ。

こんなことでもなかったら、きっと、偽物の恋人同士は、デートすらできなかったと思うから・・・


素直にラッキーだと思おう。

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