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サトリの友達  作者: 李雨
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ダブルデート

「ミナ、お前、馬鹿だろう、いや、馬鹿だ。」


悟ははっきりと言い切った。


「え・・・えーと・・・」

反論できないのがわかっているだけに、ミナもいつものように元気に反対できないでいる。


「何をどう考えたら、『好きだった男と親友のカップル』と『振られて間もないのに』『一緒』に『手作りのお弁当』を持って、『ダブルデート』しよう、なんてことになるんだよ?」


そう、今回提案されたダブルデートには問題がありすぎる。

ついこの前まで好きだった男を、いきなり友達と思えるとは思わないし、

それがまた、こっそり陰で告白して付き合い始めた親友とのカップルだ。

彼らと一緒というだけでも、視線一つで問題が起こりそうなのに、

未だに炭でしかない手作り弁当を持って、って恥しかかかないだろう。

そう、この子は、焼くだけの鮭の切り身も、やっぱり焼くだけの卵も、きれいに色違いで炭にするのだ。

きゅうりに塩を振って、と言ったら、そのまま洗わずに持ってきて、一切れでご飯が完食できた。

そして、何より、一番の問題は、こっちは、デートなんてしたこともないバイトと雇い主の偽りのカップルだ。

ボロが出たら困るだろうに。


「お前、実はどMだったんだな。どM」


目の前でどんどん小さくなっていく、偽の恋人・・・。

ほんと、馬鹿で、それがかわいい。

ただ、かわいいだけですべてを許してはいけないと思う。


「俺が予定たたないって断れないの?」


「こっちの予定に合わせるって言われた・・・」


なんなんだ、その是非とも、な感じ。

川本は一体何を考えてるんだ?

学校でこの話を聞いてたら、ちょっと心を読むこともできたのに。


何度目かの溜息をついて、聞いた。

「いつがいいって?」

「・・・・あさって」

「は?」

「もし、田代君が都合悪かったら延期する、ってことで・・・」声が小さい。

そりゃ、勝手に決めてきたんだもんなぁ・・・。

「時間は?」

「11時に駅で待ち合わせ」

「随分、いろいろ勝手に決めてきたんだ?」

また、溜息が出た。

人ごみは苦手だ。

うっかりすると、誰ともない思いが、勝手に流れ込んできて、気分が悪くなる。

長年生きてきて、学校にいることもあって、障壁を作るのはうまくなったが、それでも、人が多くなると偶然でも聞こえてくるものはある。

そして、そういう強い思いほど、ろくなものがない。

今回は、自分が負けたことになるライバルのカップルを見つめる彼女が隣にいる。

彼女の思考を気にしてしまうあまり、ほかのものも拾いやすくなるだろう。

しんどいことしか思いつかない・・・。

「ごめん・・・」

彼女がしょんぼりしている。

それがわかっていて、いつものように「いいよ」とすぐに言えない。

本当に、人ごみは苦手なのだ。


「決めてきたんだろ。それも、俺が逃げようがないくらいにきっちりと。仕方ない、行くよ。」

また溜息がでる。

こんなのバイトに含まれてない、と強く突っぱねられればいいのに。

「その代り、当日、9時には俺の家に来ること。うちで弁当つくるから。それと、恋人同士の芝居ができるようになっといて」

声がきつくなるのは仕方なかった。

その日、彼女はしょんぼりと肩を落として帰っていった。



当日、9時5分前に家に来た彼女は、まだ、少ししょんぼりしたままだった。

まあ、金曜日にあんなことになって、それから何も会話せずに今日を迎えたからな。

「早くはいって。弁当、作るよ」

そう声をかけると、え?と驚いた顔をした。

「金曜にそう言っておいただろ?」

そう言いながら、彼女の前にボウルを置き、卵を割って、そこへ出し汁を入れる。

「それ、混ぜたら焦げないように注意して焼いて。焼くときは、薄く何回も、だよ」

そう言いながらブロッコリーを湯がき、プチトマトを洗い、作っておいたハンバーグと買っておいたソーセージを焼いた。

使い捨ての弁当箱に、炊き立てのご飯を入れ、ふりかけを数種類使ってきれいに飾る。

具を詰めると、おいしそうな弁当ができあがった。

卵焼き一つに神経を集中していた彼女に、「お茶を淹れるから、座ってて」とリビングを指す。

ちょっと甘めのロイヤルミルクティーを入れて渡すと、

「お料理、できたんだ?」と聞かれた。

「そりゃ、コンビニもスーパーもない時代から生きてるからな」

そう言いながら、今日の一番の自分についての心配を口にした。

「俺、人ごみに酔うんだよ。ひどいときには意識失うんだ。だから、もしそうなったら、静かな場所に運んでくれるか?」

「・・・それって、例の体質?」

「ああ。何かきっかけになると、一時にみんなの感情が押し寄せてきてつぶされそうになる」

だから、頼むな、と微笑むと、思いつめたように「・・・ごめん」と言われた。

「いいよ。」

さすがに2日たつと、微笑む余裕ができた。

時間に少し余裕があったので、すっぴんで現れた彼女に、ちょっと化粧を施し、髪の毛もいじった。

自分もさすがにこの髪型じゃまずいか、と伸び切った前髪を後ろへ流す。

・・・視界が広がって・・・非常に、他人様の感情が読みやすそうだ。

気を引き締めないと、やばい・・・。


駅へ向かいながら、

「俺たちの初めてのデートだ。楽しもう」

そう言って、笑ってやった。

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