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サトリの友達  作者: 李雨
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友達

「昔のことは、繰り返さない」そう決めたはずなのに。

辛くて、繰り返したくない、と思っているのに。


なぜ自分はこんなに運が悪いんだろう・・・


サトリはちょっとやさぐれたくなった。


先生の用事で職員室で働いて、ちょっと遅くなった教室にかばんをとりにきたら、彼女が机の上に突っ伏して泣いている。

ちょっと嫌な予感もしたので、声をかける前に、マナーを無視して心を読んだ。

『失恋』

「どーして私じゃダメなのっ?」


・・・どうして、自分は、好きな女の子の失恋したところにばっかり登場するんだろう・・・


繰り返さないと決めている。


うん、今度は声をかけない。

抱きしめない。

慰めない。

大人しく、鞄をとって帰ろう。

見なかったことにするんだ。


そう思って鞄を持って、立ち去ろうとしたら、シャツが何かにひっかかった。

・・・・のではなく、彼女がサトリのシャツをつかんでた。


(何逃げてんのよ?)

上目遣いに睨んでくる。

(女の子が泣いてんのよ。声かけたらどうよ?)

声をかけないって、決めて入ってきたのに・・・。

「あ・・・あの・・・?」

(失恋したっ。男なんだから、泣いてる女の子に胸ぐらい貸しなさいよっ)

・・・どうして、やらないって決めたことばかり、期待されるんだ・・・

それでも、にらみつけながら、目を決して離さず、心の中でリクエストだけ送ってくる彼女から逃げるすべが見つからない。

あきらめて、持っていたカバンを机に置いた。

彼女の方を向いて、腕を広げる。

彼女が飛びついてきた。

腕を広げたままというわけにもいかず、軽く抱きしめた形になり、手は彼女の背中をぽんぽんと軽くたたくような形になった。


「ひぃっくっ・・・うっ・・・うぇっ・・・・」

慰めるものができたからか、彼女が再び泣きだした。

その彼女を抱きながら、それでも、久しぶりに得た人のぬくもりと、好きな少女が困っているときにすがってくれたというのを、嬉しく感じてしまう。


・・・俺って昔と全然変わってない・・・


ここで溜息なんかついたら、すごい剣幕で怒られそうなので、溜息すら押し殺す。


「相田くんに・・・彼女ができたんだ」ぽつりと、胸のあたりから聞こえる声。

「その彼女って、ユキなんだよ・・・。親友だと思ってたのに・・・。私、ひとりではしゃいで・・・二人で私のこと・・・笑ってたの・・・かな・・・?」

そう言いながら、鼻をすする。

少しは落ち着いたようだ。



俺はこういう面倒なことからずっと逃げてきたのになぁ、と思いつつ、仕方ない、と小さく溜息をついた。

「お前さ、俺が妖なのを知ってるよな? 俺のいうこと、信じる?」

まず、そう聞いてみる。

抱かれたまま、コクリと胸のあたりでの動きを感じて、彼は話し出した。


「お前とユキ・・・川本が友達になったのは、この学校に入学してからだよな。

で、川本は、実は入学発表のときに、相田に会ってる。合格者発表の掲示板で後ずさった川本が足を踏んでついでにバランスを崩して倒れかけたところを助けたのが相田だ。

川本は、その瞬間で相田に惚れた。」

そう言うと、田島はうろたえたようだった。

別に恋に後先は関係ないと思うんだけど・・・。


「で、まぁ、彼女も告白とかせずに、相田のことを思うだけにしてたんだが、そこへお前が登場した。

『ね、ユキって好きなひと、いる? 私ね、相田君のこと、好きなんだー』ってお前、言っただろ?

だから、あいつは言えなくなった。

あの時、『私もなの』と言えてしまえば楽だったのにな・・・」


「川本の心の中は、そりゃ、くるくると忙しかったよ。お前に黙ってるうしろめたさと、言ってしまいたいって衝動と、相田のことを聞く嬉しさと、妬みとその相手がお前だってことで。

・・・あまりにうるさい感情だったから、読みたくもないのに、読んでしまった・・・」

お前の名前が時々出るためについ気になって、とは言えなかった。


しばらくすると、話を身動きもせずに聞いていた腕の中の彼女が「そっか」とつぶやいた。

ちょっと後ろに下がって、俺の顔を見て、「ありがとう」と言った。

「自己憐憫になっちゃって、彼女の気持ち、考えたことなかったよ」

そう言いながら、へへっと涙をぬぐいながら笑った。

そう言いながら腕の中から消えたぬくもりが、惜しくて、腕を伸ばしそうになる。

かわいいんだよっ、こいつは。


今回は、慰めつつ「好きなんだ」なんて口を滑らさずに済んだ。

ついでに、偽りの恋人にもなってない。

うん、これでいいじゃないか。

悲劇は回避されたよ。

俺は心のなかで、そう思いながら自分を慰めたのだった。


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