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サトリの友達  作者: 李雨
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気持ちと行動は・・・

恋に落ちたのは、どのくらいぶりだろう。


悟はそんなことを思いながら、ぼーっと窓の外を眺めた。


雨に濡れたアジサイ。

この季節は嫌いだ。

室内に目を向けると、愛しいと思う彼女が見える。


・・・彼女にどうやって近づいたらいいのか、わかりません・・・


はっきり言って、それが一番の問題だったりする。

髪の毛で隠れている顔を出すべきだろうか?

概ね人外なるものは不思議な美しさを持っている。

美しければ、話しかけてもらえるのだろうか。

挨拶くらいはしているが、それは彼女にとって、クラスのみんなと同じで。

自分が意識すればするほど、相手が意識していないのがわかってくる。

・・・あの性格じゃ、俺の顔がよくてもきっと無駄だ・・・


今まで、人と関わるのを避けてきただけに、人とどうやって関わればいいのか、まったくわからなかった。



もともと、サトリは人間の子供だった。

父親も母親も人間だった。

当然、サトリも人間のはずだった。

なのに、口がきけるようになると、サトリだということがわかってしまった。

まだ、ことの善悪の判らない子が心の中を読んでも意味などわからない。

わからないままに口にするその事実が、両親に彼を捨てさせた。

「気持ち悪い」「怖い」

両親との最後の記憶。彼らの心の中は、その感情であふれていた。

そして、それは、彼にとってトラウマになった。


前髪を伸ばして顔を出さないのも、目を少しカバーするため。

目で見て、対象をロックオンしてしまうと、その人の感情が一番読みやすくなる。

前髪で、暗いヤツという印象を持たせ、他人が近づかないようにし、自らの眼もふさぐ。

そうして、誰にも関わらないように過ごしてきたのに・・・。

それが、問題になるなんて思わなかった。



幸い、捨てられた場所が「妖の杜」と呼ばれるところだった。

「せめて、同類に世話になれれば」と思ったのかはわからないが、両親の彼への優しさだったのだろう。

そして、運よく、ほかの妖に助けられて、こうして長い時を過ごしてきた。

いつしか、妖の杜が切り崩されて、学校になっても。


実は、ほかの妖も、時々、学校ここへ戻ってくる。

高校という箱庭の中で大事に育てられる子供たちは、皆若々しく、期待や希望にあふれ、好奇心に満ちていた。そんなキラキラした生体エネルギーが、妖たちのとびきり上等のご飯である。

大学という箱庭や、会社という箱庭に入った人間たちは、子供でないせいか、ほかの要因のせいか、なんとも苦味が加わるのだ。もちろん、その苦味を好む妖もいる。

それらはそれらで、それらの箱庭に入っていった。

無くても生きていけるため、あちこちに遊び、時々、ふらっと高校生の姿で現れてはしばらくこの高校に滞在する、それがサトリを含む彼らだった。


そもそも、日本の文化とは妖と縁が深い。

付喪神なるものが存在するように、ものを大切にすること、その大切にされた存在が心をもって神という名の妖になること、それらもあって、人間に近寄ろうと思うものが多いのだろう。

そうサトリは考えている。

そんな自分も、親にひどい捨てられ方をしつつも、完全には嫌えなかった。

そして、今もこうして人の中に存在している。


どうしていいかわからぬまま、自覚のないまま、彼女を視線で追っていたらしい。

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