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2話目 蝶の誤算

蝶子視点です。

 私には前世の記憶があるの。



 最初はがっかりしたのよ。


 だって転生っていったら、転生チートがあったりとか、Naiseiやったりとか。ファンタジーな世界で魔法使ったりとかがお約束じゃない。


 それなのに、日本で、私は普通の女の子だった。


 容姿は、まあ可愛い部類に入ると思うけど、皆が見とれる程の美人でもなかった。


 ああ、自分の容姿に気がついていない鈍感・勘違い系でもないわ。

 自己判断と周囲の判断は一致してたもの。


 裕福な家に生まれた訳でもなかった。



 聞いた話によると、由緒正しい家系ではあるらしいのよ。ご先祖さまはやんごとなきご身分の方だったらしいし。

 でもね。

 いくら家系図は立派でも、今普通の一般家庭だったら意味ないじゃない。


 お父さんは普通のサラリーマンで、お母さんはパートに出てる。

 どこにでもある、普通の家だ。


 学生時代に死んだのなら、まだ勉強だって覚えていたかもしれないけど、卒業して数年経てば、習った勉強なんて忘れちゃうに決まってるじゃない。

 前世の記憶を有効利用して成績優秀者に!なんてことも出来なかった。


 っていうか、記憶力がいいとかなんかチートがあってもいいじゃない。なんで何もないのよ。

 折角の転生なのに、小説でおなじみの展開が全くないことが、ものすごく不満だった。



 そう、不満だったの。



 今はそんなことはないわ。


 だって、私ってばヒロインだったんだもの。



 私が好きだった乙女ゲー『四季の祈り~花によせて~』略して四季花のヒロイン、日向 蝶子(ヒュウガ チョウコ)


 遊ぶときはデフォルトネームなんて使わなかったから、中々気付かなかったわ。


 おかしいな、と思ったのは、急に転校が決まったとき。

 お金持ちが通う学校に、転入することになるなんて、どう考えても変じゃない?


 そして転入して、生徒会の役員の名前を知って確信したの。


 ここが四季花の世界もしくは、ゲームのような世界だって。


 嬉しかったわ。

 そりゃあ、もう。声には出さなかったけど、思わず「キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!」って内心叫んじゃったくらい。


 これでこそ、転生の醍醐味でしょう。


 傍観系とかにかっさらわれないように気をつけないといけないけど、私がヒロインだもの。

 笑いが止まらなかったわ。



 勿論狙うのは逆ハー……じゃあないわ。

 元々この四季花は逆ハーエンドなかったしね。

 エンディングを迎える前に、分岐点のぎりぎりまで全員と好感度を上げまくって、擬似逆ハーレムを楽しめるくらい。


 それに、逆ハーエンドがあったとしても。

 今はゲームじゃないから、リセットもきかないし、その後の生活だってある。逆ハー狙いは現実的じゃないでしょう。

どうせ結婚できるのは一人だけなんだしね。


 私が狙うのは、秋担当の秋海棠 佳貴シュウカイドウヨシキ。私の一押し。

 スチルやイベントコンプした後は、何度も佳貴狙いで遊んだものよ。おかげで、佳貴のイベントは完璧!

 勉強は大半忘れちゃってたけど、覚えてるってところが、愛よね。


 うん、愛よ、愛。


 私以上に佳貴君を愛している人なんて、いる訳がないわ。


 だから、さくっと佳貴を攻略して、ライバルキャラから奪い取っちゃわないとね。


 佳貴のライバルキャラは、子供の頃からの婚約者。日本人形みたいな綺麗な女の子、桔梗 美佳子(キキョウ ミカコ)

 楚々として控えめな大和撫子と言えば聞こえはいいけど、大人しくて自分の意見も言えないつまらない女。佳貴はそんな桔梗にうんざりしてたのよ。

 でも、佳貴の家ははっきりいって成金。お金はあるけど、家柄は……って家だった。桔梗家は古い家柄だから、その家柄狙いの婚約で、佳貴の一存では断ることが出来無かったの。


 でも、私の家は家柄だけは桔梗家の上。

 だから、佳貴の両親も二人の仲を認めてくれるっていう筋書き。



 うん、頑張ったよ、私。


 順調にイベントをこなして、佳貴のハートを鷲掴み。

 ご両親にも挨拶したよ。


 今は落ちぶれた一般家庭だけど、日向の名前は絶大で、あっさり祝福してくれた。



 それにしても、本当、桔梗ってバカよね。生徒会が忙しいって、佳貴の嘘を疑うこともしないんだもの。私が佳貴とデートをしてることにも気付かないどころか、佳貴の態度が冷たくなってることにも気付かないのよ。

 流石はおかざりの婚約者。

 どうせ、政略結婚って割り切ってて、佳貴の心がどこにあるのかなんて興味がないんでしょうね。


 ま、私以上に佳貴を愛してる女なんている訳ないから、いいんだけど。

 さくっと婚約解消させて、佳貴と幸せになるのよ。





 その、はずだった。


 だって、そんなの知らない。


 佳貴が婚約者と愛し合っていて、永遠の愛を誓っていたなんて、ゲームでは全然出てこなかったわ。


 今佳貴が好きなのは私。

 それは間違いない。


 けれど、これからは?


 イベントを成功させたから、佳貴の心は私のものになった。

 でもその後どんなことがあるかなんて、私は知らない。


 正しい選択肢なんて、毎回分かる訳がない。

 私が間違えたら?

 そして正しい答えが出来る人が現れたら?


 目の前で泣いている桔梗のように、私もなるの?



 聞いていない!

 佳貴が、桔梗と、その、最後までしてたなんて、聞いていない!


 永遠を誓った相手に求められたから。

 婚前交渉を拒んだけれど、佳貴の求めに負けたのだと桔梗が言う。


 そりゃあ、今時結婚までバージンを貫く人なんて少ない。でも、これはそういう問題じゃない。

 子供の頃からずっと愛し合って将来を誓い合って。


 好きだから。

 結婚まで待てない。

 愛してる。


 そしてほだされて身体を許したら捨てれるのだ。


 そこまで愛し愛された間柄であっても、捨てられるのだ。




「日向さん。間に合うのであれば、結婚まで純潔を貫くことをお勧め致します」


 桔梗の声が、痛い。


 知らない。

 こんなのは、知らない。


 だって、乙女ゲーで、攻略キャラにライバルがいるなんてよくあることで。

 キャラを落とす=ライバルに勝つってことで。

 それが婚約者だったら、奪い取るってことでしょう。


 佳貴のご両親だってあっさり許してくれたじゃない。

 それなら、婚約破棄だって、あっさり桔梗が了承するはずじゃない。


 ゲームの、ように。



「貴方が共に居てくださらないのであれば、この世になんの意味もありません」


 どうして、桔梗が、首から、血を流しているの。


 どうして、佳貴が悲痛な声で叫びながら桔梗に駆け寄っているの。



 佳貴を一番に愛しているのは、私。



 それは、本当に?



 失うことが耐え切れずに自ら命を絶とうとした、桔梗よりも?




 私は、結局佳貴とは別れた。



 許してくれたはずの佳貴のご両親に、罵られた。


 今回のことで、桔梗家の怒りを買ってしまい、秋海棠家は大変なことになっているらしい。

 それはすべて、私のせいだと言われた。

 桔梗家ではなく、日向家を選んで賛成したくせに。


 両親にも怒られた。

 婚約者がいる相手ということは、既婚者と同じ。そんな倫理にもとるような真似をするなんて、と。


 そんなことは考えたこともなかった。


 だって、ライバルキャラじゃない。

 そう、思ってた。


 今私が生きているのは、紛れもない現実で。

 佳貴も桔梗も生きている人間なんだってことを分かったつもりで分かってなかった。


 もし、佳貴の両親が許してくれたとしても、私は佳貴と結婚することはできなかっただろう。


 桔梗の血に染まった佳貴の姿が、目に焼きついてはなれない。


 忘れることはできないだろう、と思う。


 これから、ずっと。


 桔梗の笑みと、赤い血を胸に抱えたまま生きていくのだろう。

□四季の祈り~花によせて~


乙女ゲーム。

攻略キャラと、ライバルキャラの苗字にその季節の花の名前が入っている。


転入してきたヒロインが、攻略キャラと愛を育むお約束のゲーム。

ヒロインのデフォルトネームは日向 蝶子。


 美佳子ちゃんは、転生者ではないので、自分がライバルキャラだとは知りませんでした。そして、佳貴君も知りません。知っていたのは、蝶子だけです。


蝶子は、婚約者を軽く考えていました。そして、ゲームと現実が違うことに気付かず、佳貴と美佳子ちゃんの関係を確認しませんでした。

事前に確認していたら、防げた事態だったかもしれません。

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