仲間
予約し忘れてました申し訳ありません。
「ただいまよりグヒャダル討伐クエストクリア&アユムの完治を祝って……かんぱ~い!」
フィリアンの音頭に合わせてグラスを中の飲み物が零れないか心配になるほど勢いよく
高々と掲げあげる。
「「かんぱ~い!」」
他の面々もグラスを掲げ、グラスを鳴らす。チリンと高い音がいくつも生まれ、パーティの開始を告げた。
「はーそれにしてもあの後三日も眠り続けるとは思わなかったわよ」
早々に飲み干したフィリアンは次を注ぎながらアユムに話しかける。
「僕も起きたら三日経ってるって言われて驚きましたよ」
アユムが倒れてから三日経っていた。三日間寝続けて今日ようやく起きたのだ。言うまでもないかもしれないが寝ているアユムを世話したのはもちろんツボミだ。〝ソレイユ〟のメンバーは甲斐甲斐しく世話するツボミを見て新妻みたいだと全員同じ感想だったと後に語っている。そしてアユムが目を覚ましたことを知ったフィリアンはすぐさまこのパーティのセッティングを終えてしまった。場所は馴染みの喫茶店。
「それでこんな場で聞くのは申し訳ないと思うが、あの時君が何をしたのか教えてもらってもいいでしょうか?」
カウンターで優雅にグラスを傾けていたドレンが問いかける。
「はい。といっても正確には僕の力ではありません」
アユムは手を素早く動かして一つのオブジェクトを取り出す。右手を前に出してそのオブジェクトを手に取る。それは一振りの刀だった。黒鞘に納められた大太刀、ただ無骨な刀だがどこか凄まじい力を感じる。
「これは?」
「〝魔法剣〟の時に使ってた柄が刀になった姿です。銘は〝嵐帝〟というそうです」
「ほうほうそれは興味深いね」
フィリアンは〝嵐帝〟をポンとクリックして情報ウインドウを開く。
「うわなにこれ!」
他のメンツが横からウインドウを覗き込むとそこには一番上にはアイテムの名前である〝嵐帝〟が表示されているもののその下アイテムの説明が書いてあるはずのところは意味不明な文字なのか何なのか分からない記号で埋め尽くしてあった。
「僕も起きてからすぐに見たんですけどすでにその状態でそれに……」
アユムは柄に手をかけて刀を抜こうとするが刀はびくともせず、鞘に収まったままだ。
「抜くこともできないんですよ」
「なんだそりゃ抜けないんじゃ武器の意味がないじゃないか」
「そうなんですよね……どうしたらいいでしょう?」
「それならそれ一度クロウトに調べてもらったらどうです?」
全員がドレンの隣でジョッキを傾けてたクロウトに視線が集まる。
「トレード申請をくれ」
アユムの方を向いて無愛想に呟いた。
「あっはい」
アユムはすぐにクロウトにトレード申請を送り、そのウインドウにフィリアンから返してもらった〝嵐帝〟をドロップしてすぐに〝YES〟のボタンを押す。クロウトもパパッと操作してあっけなくトレードは終了した。
「あのクロウトさん。さっきのトレードで代わりに送られたこれって?」
「武器がないと困るだろう。出してみろ」
「はい!」
今度は白塗りの鞘に納められた刀をオブジェクト化する。
「おー完成してたのか」
「与えられた仕事はきっちりやるのがプロだろう」
どこか誇らしげに言うクロウト。そんなクロウトを横目に静かに刀を抜く。刀身は全て黒く黒曜石のような光沢を持っている。そして鎬の部分に一筋銀のラインが入っている。
「それはグヒャダルの鱗から作った一振りだ。今回の一番の功労者へのご褒美ってやつだな」
「そうそう。皆で散らばったグヒャダルの鱗集めたりしてたの」
「帰ってくるの遅いと思ったらそんなことしてたの? なんで黙ってたのよ?」
ツボミも聞かされてなかったのか驚いている。
「いやー驚かせるなら一人より二人だろうってフィリアンが」
「ちょっ!? 私だけが悪いの! 皆ノリノリだったじゃない!」
スケープゴートに差し出されたフィリアン。だが救いの手はすぐそこにあった。
「いいじゃないですかツボミさん。僕凄く嬉しいですよ」
アユムが笑顔でツボミを止める。だがどこか納得行っていないのかツボミはまだ渋い顔をしているもアユムが嬉しそうにしているため強気になれない。クロウトがそんなからかう空気を無視して刀の説明を続ける。
「銘は〝アージャント・ノワール〟だ。クリックしてみろ」
言われた通り〝アージェント・ノワール〟クリックする。今回は〝嵐帝〟のようなことはなくきちんと日本語と数字で表示されている。上から順にステータスを確かめながらアユムはある一点に目を奪われた。
「えっ!? なんですかこれ!?」
今度はアユムの手元に皆が注目する。
「どうしたどうした?」
アユムはステータス欄のある一点を指差す。そこには耐久度が書いてあり、数字を数えると。
「一万!? 桁おかしくない!?」
「いやそれで合っている。俺が持てる技術の全てを注いだんだそれくらい出来て当然だ。グヒャダルの鱗があってこそだがな」
「凄いですクロウトさん! これなら武器の消耗を気にせずに〝魔法剣〟が使えます」
〝魔法剣〟の最大のネックだった武器の摩耗もこの〝アージェント・ノワール〟の耐久力ならほぼ関係なく思う存分〝魔法剣〟を振るうことができる。
「耐久力が特筆として高いが、他の能力も申し分ない出来に仕上げた。お前の力になるはずだ」
「ありがとうございますクロウトさん」
〝アージェント・ノワール〟を胸に抱いてクロウトに頭を下げる。
「おいおいクロウトだけか~」
「……アユムお兄ちゃんフィフィ悲しいよ」
煽るカインと純粋に悲しむフィフィ。そんな二人にアユムは最大の笑みを浮かべて、体を向け直して頭を深々と下げる。
「みんなありがとうございます。僕ずっとソロでギルドに入ってうまくやってけるか不安でしたけど……みんなのような仲間が出来て僕とても嬉しいです!」
まだ頭を上げないアユムにメンバーは互いの顔を見合い、代表してカインが前に出て、その背中を思いっきり叩いた。バシンと小気味いい音が立った。
「!?」
「そんな水臭いこと言うな。俺たちは疾の昔に仲間だと思ってんだから」
清々しい笑顔で答えるカイン。みんなカインと同じで温かい表情を浮かべている。
「あなたはもっと他人を頼っていいよ。その代わり私たちもあなたに頼るから」
「実際今回だって最後はあんた頼みだったしね」
「仲間を仲間だと思うタイミングは個別です。ですが、人が人を信じるのにタイミングなど関係ありますか?」
「……ドレンお兄ちゃん言ってること難しくて分かんない……でもアユムお兄ちゃんはフィフィたちのこともっと頼っていいよ? 力になるよ?」
「俺は俺の任された仕事はきっちりやるだけだ。だが信頼してくれなきゃ気持ちの良い仕事はできないんでな」
思い思いの言葉を述べるメンバーたち。最後にツボミが締めくくるように前に出た。
「アユム。私はあなたを信じてる」
その一言に全ての想いを乗せて伝えた。その言葉にアユムは堪え切れなくなって涙を零した。
「ありがとう……ございます……」
「さーて湿っぽいのはこれくらいにしてパーティを再開するよ~」
明るい声でアンが再開を促す。
「よっしゃ~飲むぞ食うぞ~!」
「マスターどんどん頼むよ」
「任せてください」
キッチンで忙しそうに立ち回るマスター。フィリアンとカインアンはテーブルに並んだ料理を次々と胃袋に収め、ドレンとフィフィ、クロウトはカウンターで談笑しながら飲み、アユムとツボミはそんな光景を眺めながら幸せな感情に浸る。
「今度はクエストじゃなくてダンジョンに潜らないか?」
「いいね~どこ潜る?」
「このメンバーなら相当強いとこ行っても大丈夫じゃない?」
「攻略されてないダンジョンをいくつかピックアップしておきますよ」
「……ダンジョン最近行ってないから楽しみ」
「面白い素材を期待してるよ」
「あまり無茶しないでよ?」
「ツボミさんこそ」
夜遅くまで楽しげな声は絶えなかった。
このデスゲームをクリアするのは日本か、それとも他国か……。〝ソレイユ〟のメンバーは無事に囚われたプレイヤーたちを解放できるのか。それはまだ未来にならなければ分からない。
ここまで読んでくださってありがとうございました。




